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神の輪廻転生

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「うんうん、里穂の意見はもっともだよ。だから、地獄にもこの世にも、生まれ変わりにもそれなりの制約があるのさ。特に地獄というところは、一定期間地獄で、いわゆる「地獄の苦しみ」を味わったあと、跡形もなく消えてしまうんだ。その人は生前の世界でも、その存在を皆の記憶から消されてしまう。だから、本当の極悪人の記憶は、歴史の中にしか出てこないのさ。でも、教訓のために、それなりに記憶としては残さなければいけない。それが歴史という学問なんだ。そして、この話が漏れてしまうと、人生の死後の世界や人生の何たるかということが大っぴらになると、人間は生きることに対しておかしな感情を持つことになるだろうね。それが怖いので、死後の世界のこと、この世界以外ではタブーとされているんだよ」
 と説明した。
「なるほど、そういうことだったんだね。よく分かった」
 と言って、里穂は納得してくれた。
「ところで里穂は、まりえの世界で、一体何をしようとしているんだい?
 と訊いてみた。
 実は私には里穂の考えていることくらいは分かった。これでも神として君臨しているのだから、里穂の心の中を覗くくらいは、朝めし前のことだった。
「私、この世界でたくさんの人と身体を重ねてきて、その時々で得られる快感と満足感に酔ってきたの。でも、まりえというもう一人の自分に興味を持って、いろいろ話をしてみると、まりえは、一人をずっと思い続けているというじゃない。何といっても、まりえの世界ではそれが一番正しいことなのだから、それを当然のごとくだと思うんだけど、今の自分を顧みて、それでいいのかって思ったのよね。本当はそれでいいんだろうけど、まりえのような気持ちに一度なってみないと、自分の気持ちが分からないってこともあることに私は気付いたの。だから、今はまりえのそばにいて、まりえになってみる気持ちになりたいと思っているのよね」
 というではないか?
「まりえが付き合っている男性を知っているのかい?」
「ええ、知っているわ。でも、私たちでも、別世界の他の人と会ったり話したりはできないので、まりえと豊の二人を見つけるしかないの。心の中までは読むことができないので、その行動パターンを見て、豊のもう一人の自分である、こっちの世界の山口さんを意識してみようと思っているのよ」
 と里穂はいった。
「その気持ち、たぶん、山口君に伝わっているよ」
 と私は言った。
「えっ、そうなんですか?」
 と里穂は言ったが、
「山口君は里穂の気持ちを少し感じているようなのよ。彼はたぶん何も言わないだろうし、里穂から言ってしまうと、その思いは萎んでしまうかも知れない。ここは難しいところなんだけど、まずは、里穂から山口君にアプローチしないことだね」
 私はこれが言いたかったのだ。
 今は里穂は気付いていないが、山口の気持ちに気づいて里穂から声をかけると、すべてがおじゃんになってしまう。それは避けたかった。なぜなら、
「この状況の結末を、私自身が見たい」
 と思っているからだった。
 山口は、まだ必死になって豊に話を訊いていた。それも私には分かっていた。ただ、ここで山口がまるで遠回りをしているように見えるこの行動も、実はちゃんとわかってのことだったのだ。
 山口は話を訊きながら、自分が山口になったつもりで、自分はよく知らないまりえを見ていたのだ。
 里穂が豊に接近できないのと同じで、まりえのことを山口は分からない。それでも、山口が豊を通して知ろうとしているのだ。
 それは、里穂にはない感覚だった。
 里穂の考えとしては、まりえにこの世界の話をして、普段とは違った考えや幅広い発想を持たせることで、自分が普段気付いていない豊に対しての気持ちを知ろうと思ったのかも知れない。
 それはそれで悪いことではないのだが、やり方としては、シンプルではあるが、山口のやり方の方が正統派であり、スマートであった。
 それこそが、男と女の違いと言えるのではないだろうか。
 前述の男女平等の話ではないが、確かに、我々の世界では、男女の差別的なことは最初からないと思っている。しかし、最初からないだけに、この問題を考える機会もないのだ。
 そもそも、男と女では、生まれてからの身体の構造が違っている。それを分かっての太古からの決められた差別であったはずではないか。確かに女性の中には迫害を受けていると思う人もいるだろうし、それを理由に迫害しているやつだっているだろう。
 そんな一部の連中だけを排除すればいいだけなのに、他の世界では、男女平等を建前にしてしまう。それがどれほど危険なことなのか、分かっていないのだ。
 身体の構造が違うがゆえの心配りなのに、できもしないことをできるかのように虚勢を張っても、しょせんは無理なことであることに変わりはないのだ。
 里穂はそのことを分かっているつもりで分かっていない。まりえもこの世界にいるのだから、まわりの意見をもっともだと思うのか、それとも自分も女性なので、平等という言葉にどうしても反応するのか、そのことを分かるはずもない。それが私には危惧する部分だったのだ。
 しかし、山口はすべてを分かっている。この世界の男は、そういう感性を持ったうえで生まれてきているのだ。生まれつきに何が男女平等なのかが分かっている。
「できることを無理せずにできる方がすればいいだけではないか」
 というのは、平等なのではないか。
 そもそも構造が違うものが同じことをやって、何が平等だというのか、それは理屈を通すために強引に無理をしているだけではないか。
 だから、里穂が、まりえの世界に行って、まりえのような恋愛をしてみたいと思うのも無理のないことだとは思うのだが、それはどこか無理をしていて、ごこちないことではないかと思えるのだ。
 だから、私は山口を使って、里穂に無理なことをさせたくないと思った。山口もそのことを分かってくれたようだ。直接言葉にして山口に話したわけではないが、山口には私と同じ匂いがある。山口が里穂に惹かれたのも、里穂が山口を気にするのも、本当は惹かれ合っているからではないか。
 山口が、豊のもう一人の自分だからという理由ではない、それに、どうして里穂が、まりえのことを気にするようになったのか、里穂にはそのことを疑問にすら感じていない。
 それは私がそのように気持ちをコントロールしたからだ。
 私は神である。それくらいのことはできて当然だと言ってもいいだろう。
 まりえにしても、里穂にしても、本当によく似ている二人だと思う。会話をしていると、似ている感覚はお互いに持っていないかも知れないが、根本的なところで似ているのだ。何といっても、もう一人の自分なのだからである。
 里穂は知らないが、里穂の住んでいるこの世界でも、本当は神が自分の姿を人間に見せてみたり、この世界がどのように形成されているか、まりえに話したようなことはいっても構わないが、普通の神は言わないだろう。だから、人間もまりえの世界のように、何も知らないで普通に生活している。そのことを敢えて里穂には言っていない。
 もし言ってしまったら、里穂はまわりの人に得意げになって話すかも知れない。敢えて言わない方が、
作品名:神の輪廻転生 作家名:森本晃次