神の輪廻転生
というが、意識の中での利害関係の一致が二人を結び付ける。
里穂にはその感覚はあるが、引き付けられた男の方は、引き付けられる時、何も考えていないように思う。その時に何も考えていないからこそ、里穂と一緒にいる時。男連中は何も口にしないのだ。
ひょっとすると。一人の男と会っている時、他の男たちも目立たないようにそこにいるのかも知れない。目立たないように黒子に徹してその場所に佇んでいる。しかも、その位置は適当ではあるが、みんなバランスよく、目の中のファインダーに収まっている。
「この人たちは本当は一人の人間で、分身の術でも使っているのではないだろうか?」
とも感じられた。
しかも、これを夢のように感じている理由としては、その男たちの顔がイメージできていないからだ。我に返った時に思い出すだのが、顔を見たという感覚はない。それなのに、イケメンであるということは意識にあるのだ。
無理にでも思い出すと、その男たちは皆顔がシルエット上になって、それ以上見ようとすると、のっぺらぼうだったというオチが待っているような気がした。
まるで自分の生きている世界がすべて夢の中の世界のように感じているが、夢の中だという意識があるから、違和感なく想像することができるのではないかと思うのだった。
里穂という女が、自分をどのように意識しているのか、まわりの人間が分かっているのだろうか。
「いや、他の人に私を意識することなんかできないんだ」
という思いが里穂の中にあるのだった。
里穂はたまに誰かに訴えているのを自分で感じる。
「私のいるこの世界って。のっぺらぼうの男たち以外にいるのかしら?」
とである。
だからこそ、この世界を夢だと思うのであって、現実世界が他に存在しているのではないか?
いや、一つの時間に、いくつもの、無数と言ってもいいくらいの可能性が存在していれば、その可能性の数だけ、世界だって広がっているのではないかという、
「パラレルワールド」
の世界も想像できるのではないだろうか。
それは人の数だけ存在すると言ってもいい。だが、一人の人間にも無数に可能性があるのだ。
無数に何を掛けても無数であることに変わりはない。パラレルワールドには何かを掛けるということは、まったくの無意味なことであり、実際にはありえないことではないだろうか。
そんな発想ばかりが頭の中にあり、人とのかかわりがないことで、人に気を遣うこともなければ。気を遣われることもない。
「気を遣う」
という言葉がどれほど嫌いだったのかということを、いまさらながらに思い出される里穂だった。
あれは誰からだったのか? 親からだっただろうが、
「人に好かれる女性になりなさい」
と言われていたような気がする。
「人に好かれる女性ってどういう女性なの?」
と聞くと、
「それは自分で、これから考えていくのよ」
と言われ、
「なんだ、知らないだけじゃない」
と言って嘲笑うと、相手は、実に不愉快そうな顔をして、もうそれ以上何も言わなかった。
途中から、不愉快そうな顔がまったくの無表情になり、
「言わなければよかった」
というよりも、
「いうだけ無駄だった」
という意味での無表情に変わったのだろう。
言った相手が悪かったという思いから、言った自分が悪いんだという気持ちに変わったのであった。
里穂にとって、ウスウス感じている世界は、いかにも何者かの手によって作られたものだということを裏付けるものに感じられた。
正解のない無数の世界。その一つにいるだけのことなのに、無数にある世界は一体誰が作ったというのか、人間の数だけ神様がいたとしても、一人の人間だって無限なのだ。想像することすら罪ではないかと思うほど、ナンセンスが気がして仕方がない。
里穂は、
「私は誰かの夢の中にいるような気がする」
と思ったが、その誰かとは一体誰なのか?
本当に存在している人なのか、次元が違っている同じ世界の人なのか。同じ次元の別世界に当たるのか、それとも、次元の違う別世界なのか、いろいろ考える。最後の考え方というのが、
「夢と現実世界の隔絶」
ではないかと思い、目が覚めるにしたがって忘れてしまう理由に十分な説得力を感じさせるような気がするのだった。
そのおかげなのか、神様の存在を意識できることができる。
ただ、無数の世界を意識できたとしても、自分がどの世界にいるかなど分かるはずもない。だから、
「この世界に存在している人としか、自分たちは交わることができない」
と思うのであって、本当に夢の世界というものから見た、いわゆる夢に対しての現実世界は、どこに存在しているのか分からないという世界である。現実世界の人たちはすべてが自分たちから派生していると思っているが、それがそもそもの勘違いなのではないかと思えてきた。
SF的な発想だが、自分を夢の世界の住人だという意識があるのかないのか、自分でもよく分かっていない。実際に夢だと思って見ている世界では、里穂は娼婦のような存在だった。
今ではまず見なくなった、通路に立っていて、男性に声を掛けたり、掛けられたりと言った感じで、お互いにその気になれば、ホテルにしけこむという感じであろうが。
やることは別に特記することでもなく、皆さんご想像の通りである。警察にでも見つかれば、検挙されるだろうし、その縄張りで幅を利かせている組の連中からは、みかじめ料も払っていないのだから、脅しの一つや二つ、三つあることだろう。
しかし、そんなことはまったくない。いくらでもやりたい放題だった。それは実際にお金を貰っているわけではないからだろうが、警察はともかく組の連中にとっては、むしろただでするだけに、大いなる営業妨害で、下手をすれば、喧嘩を売っていると思われてもしかるべきである。
それなのに、一度も警察も組の連中からも何も言われたことがない。それが、夢だと思っている一番の理由であった。
ただ、夢だと思っているが、それは普通の夢ではない。夢というのは潜在意識の見せるのだということであるが、そうであるなら、ここまで自分に都合のいい夢を見られるわけはないのだ。
一度くらいはおいしい夢もあるかも知れないが、そう毎回続くわけではない。それを思うと夢というのがどれほどひどいものだったのかということがいえただろう。
だが、それは覚えている夢が嫌な夢であったり怖い夢ばかりで、楽しい夢というのが皆無であることから感じていることだろう。それでも、夢というものは、目が覚めても覚えていないのであれば、それはあくまでも夢とは言えないのではないかと思えて、一度くらいは楽しい夢を覚えていてほしいと思った人は、たくさんいることだろう。
里穂は時々、自分が見ている夢が都合のいいことばかりなので、
「誰か、本当の自分がいて、自分は、夢の中で忘れられていくだけという理由で存在しているだけなのかも知れない」
と思うようになっていた。