神の輪廻転生
山口も気になることは調べてみないと気が済まないが、豊は同じ種類ではないような気がした。どこが違うのかまでは分からなかったが、山口は豊のことを、
「やっぱり、もう一人の自分なんだ」
と感心していた。
豊の方では、山口を、理論的なところでもう一人の自分だということを理解できたが、実際に細かいところでは、まだよく分からないところが多く、そのため、どうしても質問が多くなるのは当たり前だとも言えた。
豊はまず最初に山口のことよりも、山口の住んでいる世界の方が気になっていた。そして、里穂がまりえに話したような内容のことを話すと、
「そんなに違う世界なんだ」
と言って、唖然とはしていたが、まりえと同じように羨ましそうに思えた。
だが、自分が向こうの世界に行ってみたいとは思っていないようだ。きっと自分は向こうの世界ではやっていけないということを感じたからだろう。
そもそも、この世界でここまで生きてきて、いきなり別の、しかもまったく違う考えの世界にいきなり行くなど、誰が想像できるだろう。そんなことができるのであれば、この世界でも、どこに行っても生きていけるというくらいのレベルなのではないかと思う。リアルに考えて、そんなことができるはずもないので、当然その思いは水泡に帰すであろうことは分かっていた。
もちろん、それは自分たちに世界を超越できる能力がないので、できないと思うから勝手なことがいえるのだろうが、ダメ元で山口に聞いてみたのだが、
「山口君の力で、僕を向こうの世界に連れていくことなんか、できるわけはないんだyね?」
と聞くと、
「能力的にできないわけではないが、それをしてしまうと、僕はそれ以降この能力を失うことになるし、当然、君も元の世界に戻れなくなる下手をすると、時空の歪に落ち込んでしまうことだってあり得なくもないからね」
「でも、君はこっちに来れるじゃないか?」
「それが僕たちの特権なんだけど、さすがに制限もあって、それが、他の世界の人間を、世界を超越させることは許されないんだ」
というのだった。
「どんな能力にも枷が必要なんだな」
と豊がいうと、
「それだけじゃないんだ。制限は」
「というと?」
「我々が夢の中に出ることができるのは、もう一人の自分の中にだけなんだ。だから他の人の夢には出ることができない。逆にいえば、君が我々の世界の人間と会話できるとすれば、この夢という媒体を使っても一人しかダメだということなんだ」
「ということになると、その人の話しか聴けないというのだね? そうなると危険ではないかい?」
と豊は言った。
「どういう意味でだい?」
「だって、お互いに一人だけの意見しか聴けないということは、下手をすれば偏った考えを持っているかも知れないよね。その世界の常識に逆らうような性格の人から話を訊いてもまったく違っていることになる。そういう意味ではちょっと危険な気がしてね」
という意見に対して、山口は、
「そんな発想を持ったことがなかったな。なるほど、確かに君の言う通りだ」
その話を訊いて、目からうろこが落ちた気がしたが、意外と豊は鋭い感性を持っているのかも知れない。
「そうだろう? 俺も今話を訊いていて感じた事だったんだ。君と話をしていると、何か頭がよくなったような気がしてくるよ」
と、豊は言うと、
「元々、君の火星が素晴らしいんだよ」
とお世辞抜きでそう思った。
「ところで。山口さんは先ほど、夢のことを媒体という言い方をしていたような気がしたが、まるで夢というのは、誰か他人によって作られたものではないかという風に聞こえたんだけど。どうなの?」
と豊は訊いた。
「ああ、そのこと。ハッキリと証明されたわけではないけど、夢のメカニズムは、僕たちの世界でも研究されているんだ。その中で、夢を一つの媒体として考える考え方があるという話が今は主流になっているんだ。誰によって作られるものなのかは分からないんだけど、そう考える方がしっくりくることが多く感じるんだ」
と山口は言った。
「確かに夢を見ているのに、覚えている夢と忘れてしまった夢がある。私などは、夢というのは、毎日見るもので、覚えているか思えていないかというだけのことではないかと思うんだ、つまり、夢の内容を覚えているか忘れてしまったかということのその一段階上に、本当に見たのか見ていないのかという感覚ではなく、見たことを覚えているのか、忘れてしまったのかということではないかと思うんだ。ちょっと奇抜な発想かも知れないねどね」
と豊は言った。
――なるほど、やはりこいつの感性は一味違う――
と山口は感じた。
「その考えはさすがと言えるものなのかも知れないな。言われてみればなるほどと思うことなんだけど、普段からの自分がそのことを思いつくかというと、なかなか思いつかないような胃がするんだ」
と、山口は言った。
これも最高の賞賛だった。
「山口君だって、それくらいのことは思いつけるんじゃないかな? だって、僕たちは別の世界ではあるけどもう一人の自分なんでしょう?」
と言った。
「いや、それでも、僕は結構頭が固いところがあって、君の存在を最近まで理解できないでいたからね」
と豊は言ったが、
「いやいや、僕が焦っていきなり話し始めたりするから、用心深い人だとなかなか受け入れられる話ではないよね。同じような性格をしているくせに、そのことに気づかなくて、本当に申し訳なかった」
と山口は豊に詫びた。
「山口さんを見ていると、確かに山口さんのいうように、僕たちは別の世界のもう一人の自分なんだなって思うんだけど、どうも、すべてが同じではないということがよく分かる気がするんだ。何か肝心な部分が違っている。そこが何か新鮮な感じだね」
と豊がいうと、
「そうなんだよ。だから、僕たちはそれぞれ違う世界に存在しているんだ。だから、逆にいうと、同じ世界では一緒にはいないタイプということになる。同じ世界にいるには、似すぎているんだけど、それは僕たちよりもきっとまわりの方が気付くというもので、そうなると、僕という存在を介さなければ、君とは出会えなかった。でも、それは僕からの一方通行であって、そのことが少し後ろめたく感じられるんだ。それは君に対してだけではなく、他の時代のもう一人の自分に対してもね」
と山口は言った。
「僕は他の世界のもう一人の自分には、あまり興味はないんだ。他に同じような世界があって、そこにもう一人の自分が存在しているという程度かな? それ以上を考えてしまうと、頭が混乱してきて、山口さんとの話もまともにできないような気がするんだ。いや、それよりも僕は山口さんを自分だけのものにしておきたいという意識があるからかな?」
というと、山口さんは複雑な表情をした。
てっきり喜んでくれると思っただけに、当てが外れた気がしたが、それは世界をまたいではいるが、自分だけのことを考えているから分からないことであった。その時、山口氏は豊に会いに来たというのは、何も自分の別の世界の「分身」に逢いたいと思っただけではない。そこには、別の理由が存在していた。
それは他でもない。前述のように、里穂を好きになってしまったからだ。