神の輪廻転生
つまり、豊も最近夢を見るようになり、そこに毎回同じ人物が出てくるのだった。
「夢の続きなど見れるはずなどできないではないか」
と思っていただけに、明らかな続きの夢に、
「これは普通の夢とは違うんだ」
という意識はあった。
「寝ている時に見るのは、夢だけではなく、別の何かを見ているのではないだろうか?」
という考え方を持っていた。
豊は、
「自分は他の人と違った感性を持っているのかも知れない」
と思っているくらいである。
まりえも同じように、夢の続きを見ていることになるのだが、まりえは、逆に、
「夢というものに対して考えが変わった」
と考えたのだ。
「夢は続きを見るものだ」
という感覚になったのだった。
豊の夢に出てくるのは、豊のもう一人の自分であったが、彼はいきなり自分のことを、
「私はもう一人のあなたです」
と言ってしまったのだから、この世界の豊に信用されるまで、かなり時間が掛かった。
もう一人の自分というだけに、こちらの世界の豊は、考えが癌後で、少々のことでは信じないタイプだった。
まりえの場合は、里穂が順序を追って話をしてくれた。だから、順序だてて話をすれば、すぐに理解する里穂であったが、それでも、里穂を受け入れられるようになるまで、少し時間が掛かった。
しかし、豊の場合は、頑固なくせに、順序だてて考えることが苦手なだけに、自分から説明するのも当然苦手で、そのためにいまだに理解できていなかった。
実は里穂がまりえのところに現れたのと、豊のところにもう一人の自分が現れたのは、ほぼ同じくらいだった。
最初の頃は相手にもしていなかったので、まったく意識がなかったが、まりえが里穂を気にして、普段から上の空だったのを、豊は、
「何か体調でも悪いのかな?}
くらいに思っていた時期があった。
それがまさか、自分と同じことがまりえにも起こっているなど思ってもみなかったので、それほど深くは考えていなかった。
今回の豊に関しても、まりえは対して様子が違うとは思っていなかった。前の自分と同じだったことで、何となく気持ちが分かる気がしたが、同じ状況になっているなどと、思ってもみなかっただけに、まりえは何も言わなかった。
この頃になって、やっと豊も、もう一人の自分の存在を認めるようになってきた。それは理解しているというよりも、
「これだけ何度も夢に出てくるのだから、認めないわけにはいかないのではないか?」
という部類のものであった。
豊の夢に出てくる男の名前は、
「山口幸弘」
と言った。
幸弘が、自分のもう一人の自分だと理解できたのは、
「彼が自分と同じ性格の人間だということに気が付いたから」
と思っていた。
里穂に対してのまりえも同じであった。
だが、そう感じたのは最初だった。自分が里穂のことを理解するために、里穂が自分の、もうひとりの自分であるということを理解することだと思ったので、最初は、
「似たような性格だ」
と信じて疑わなかった。
まりえは、里穂を理解してしまうと、今度は自分との違いを探し始めた。いくら同じ自分とはいえ、住む世界が違うのだから、同じであるわけはない。何しろ人間の性格というのは、
「生まれついてのものと、育ってきた環境がうまく絡み合って出来上がったのが自分の性格だ」
と思ったのだ。
もっとも、うまくいったというよりも、今の性格をいい性格だと思わない限り、うまくいったとは言わないだろう。それをうまくいったと言い切るのだから、自分の出来上がった性格を嫌いではないと思っているのだろう。
まりえの場合は性格的に一人を決めれば一人にという真面目を地でいっているような性格に見えるが、結構自由奔放な性格であり、天真爛漫なところもあった。
それだけに、まわりからは人気があり、どちらかというと、何かあった時も、まわりが助けてくれる雰囲気があったのだ。
実際に助けてくれるというわけではなく、
「うまくまわりが回っていくのだ」
という感じだと言ってもいいだろう。
里穂はというと、最初はまりえは真面目な性格で、堅物のイメージがあったが、話してみるとまったく違っていることに気が付いた。
まりえは、里穂の性格を分かっているつもりでいたが、肝心なところが分からなかった。それだけ、肝心なところを表に出そうとしない性格で、相手がまりえであっても、それは同じこと。嫌いであるはずはないのだが、それだけに肝心な部分を自分にも見せてくれない里穂に対して憤りを感じるのだった。
豊の方は、山口を受け入れると思った時には、彼の性格がほとんど分かっていると思っていた。相手の性格が分かったからこそ、受け入れることができたのだと思うのだが、その考えは間違っているわけではないと思うのだった。
山口が豊のところに現れたのは他でもない。最近の里穂の様子を見ていて、気になって仕方がないからだった。
山口は里穂のたくさんいる中のセックスをする相手の一人であった。だが、山口の方とすれば、里穂には自分だけを見てほしいという願望があった。
しかし、彼らの世界は、そんな男の気持ちよりも、自由にセックスを楽しむ里穂の方が受け入れられる世界であった。
そんな自由を楽しんでいる里穂を、相手の意志に基づかず拘束するということは許されない。相手が同じ気持ちであれば、それを妨げることは、罪でも犯していない限り、邪魔されることはないのだが、片方は完全に自由奔放なので、山口としては憤りしかなかった。
彼は、里穂と違って、自分の世界を恨んでいた。
最初の頃は人を束縛しないこの世界をよしとしていたのだが、里穂のことを好きになってからというもの、束縛できないことで起こる、今まで感じたことのない感情の理由を計り知れないでいた。
そんな時、里穂がまりえの世界にやってきて、まりえと接触しているのを見た。そんなまりえと里穂を見ていると、自分もこの世界にもう一人の自分がいるのを思い出し、
「逢ってみたい」
と思うようになった。
どんな相手なのかが気になったのだが、最初から、
「この人は自分と同じような性格の男だ」
と分かっていたような気がする。
それなのに、いきなり現れて自分が別の世界から来たと言っても自分なら絶対に信じないということが分かっているくせに、こちらの話をマシンガンのようにしても理解してくれないことを分かっていたはずだ。それなのに、どうしていきなり話をしてしまったのか、それもまた山口の性格だったのだ。
豊に信じてもらえないことで、憤りも感じた。当然相手も、訳の分からない人が現れて、何を言っているのか分からない話をするのだ。それこそ、どうしていいのか分からない。
それでも、何とかやっと最近になって分かってくれるようになったが、そのおかげで、今度は豊の質問が結構激烈であった。
理解できたと言っても、それは別の世界が存在して、山口がその世界の住人であるということだけである。
だけであると言っても、それだけ分かれば十分なのだろうが、豊は自分がやっとスタートラインに立っただけだという印象が深かった。
「意外とこの男、研究熱心なところがあるのかも知れない」
と、山口は感じた。