神の輪廻転生
「他の人はどうなのかしら? 私と同じように、まさかそんな発想があるとは思わなかったという感覚なのかしら? それを思うと、同じ世界でも、ごく近くにいる人のことですら分かっていないことが多いのに、他の世界のことを分かろうなんておこがましいような気がしてくるわ」
とまりえが言った。
「そう、そこなのよ。他の世界の人はまずそのことを気にして、それを口にする。だけどこちらの世界の人もウスウスは気付いていて、何か違和感を抱いているんだけど、私と話になると、きっと今のまりえさんのように、皆頭が混乱してきて、他人のことが分からないということをついつい棚に上げてしまい、他の世界のことを知りたがるのよね。そこが違うのよ。それだけ、自分に自信がないくせに、混乱を理由に、それを押し隠そうとする。私はそれを完全否定はしないけど、この世界の危険な部分なんじゃないかって思うのよ」
と、里穂はいうのだった。
「今の里穂さんの話を訊いていると、どうもこの世界にだけ特別なことが多くって、その特別なことはそのほとんどが悪いことのように聞こえるわ」
とまりえがいうと、
「そうかも知れないわね。それはでもね、他の世界にも言えることで、あなたの考えている他の世界は、この世界と基本的には同じなの。でも違っている部分もこの世界のように存在する。でも。その部分は、いいところというわけではなく、他の世界にはない悪い部分になっていることが多いの。だから、突き詰めると、すべてが重なっている部分だけが、本当にいい部分であって、その世界が私たちの存在している世界になると思ってくれればいいかも知れないわ」
と里穂は言った。
「じゃあ、あなたの存在している世界が、理想の桃源郷ということになるのかしら?」
とまりえが聞いたが、
「理想の桃源郷だと思われているのは確かね。でも、今は少し変わってきていて、私たちの中でも本当に理想な世界なんだろうか? という疑問が湧いてきているのも事実なのよ」
というではないか。
「さっきの上下対称の話じゃないんだけど、他の世界の人たちはどう思っていて、結局何が正解なのかしら?」
とまりえが訊くと、
「他の世界でも、疑問に思って研究している人はいるのよ。もっとも、この世界にも皆が皆疑問に思っていないわけではなく、ごく一部の人が気にして研究しているという程度なだけで、そう、程度の問題ということね。そういう意味で違うだけなのよ。でも、この違うでも十分な違いと言ってもいいんじゃないからしら? でも、この世界でもそうだけど、他の世界でも、いくつかの理論は考えられているんだけど、それを証明するだけのものがないのよ。だから、まだ解明されていないというのが、どの世界でも共通の意見ね。先ほどあなたが訊いたもう一つの質問だけど、私の世界でも、やっぱり結論がないのよ。結局、世の中には、科学で解明されないことも存在するという結論になっているんだけど、それはどの世界において、どの時代にもあることでしょう? 一種の金太郎飴のように、どこで切っても同じ断面という感覚ね。時代が進んだとしても、どこを切っても同じであれば、解明することのできないものだって存在するのではないかという考えに至るのよね」
と、里穂は答えた。
これまで、まりえは何度となく里穂が夢に出てきて、いろいろな里穂の世界の話であったり、まりえの世界の話をするのだが、この夢は決して忘れることはなかった。そして里穂からは、
「他の誰にも話してはいけない」
ということを言われているわけではないが、他の人に話そうとは思わない。
どうせ信じてもらえるわけがないからだ。
そんなことを思っていると、
「私に対して里穂さんがいるように、他の人にも里穂さんに相当する人が同じ時代であれば、存在しているわけよね? その人たちも里穂さんと同じように、その人の夢に出てきているということかしら? 誰も話さないので分からないんだけど、それは皆、里穂さんの世界の人から、話してはいけないと止められているのか、それとも、私のように、信じてもらえないという意識からか、何も聞こうとはしないだけなのか、どれなんでしょうね?」
と、まりえが訊いた。
「それは、その人それぞれなんじゃないかしら? 私と同じように話をしに来る人は結構いると思うの。でも、夢の中のことだということで、聞いた本人は、意識して記憶の奥に封印してしまう人、あなたのように意識したままだけど、何も話そうとしない人、逆に話をしても、信じてもらえないと思っている人、様々よね。でも、研究者にはある程度までは分かっているんだけど、照明しることもできないし、照明しても発表することができないと思っている人も多いと思うわよ」
と里穂がいう。
「どうして発表できないの?」
「だって、根拠もないのに、発表なんかできないでしょう。ほら吹きと言われるだけがオチだものね。でも、それを敢えて発表する人もいる。学説と発表するわけではなく。フィクション小説のネタとして書く人もいるわね。フィクションにしているから誰も気付かないけど、皆それぞれ、心のどこかに抱えているものだから、共感はあるのよ。だから、そういう小説がベストセラーになるんじゃないかしら?
と里穂は言った。
「なるほど、確かにSF小説の中には、やけにリアルなものがあるわね。でも、信じられる発想ではないので、それだけに、よくこんな発想ができたものだと感心することで、いい小説だと感じてしまう。まさか真実だなんて、誰が思うんでしょう。私は言われたからそういう意識を持ったけど、指摘されなければ分からないことって、他にも山ほどあると思っているのよ」
「それは、あなたの中だけではなく、きっと他の人も思っている。さらに私も同じようなことを思っているのよ。ただ、これはあなたお考えていることが私には分かるからなのかも知れないんだけどね」
という里穂に、
「えっ、私が考えていることが分かるの?」
とまえいえが訊くと、
「何を言ってるのよ、いまさら。だって私はあなたの潜在意識に語り掛けて、夢として存在しているのよ。あなたの考えていることは、今の私に理解できること、ただし、あなたの夢の中にいる間だけね。それ以外はあなたを感じることはできないわ。逆にいえば、私がこの世界に存在できるのはあなたの潜在意識の中でだけね。それは他の人も同じことで、要するに、私がこの世界で存在することができるのは、あなたが私を認めて信じてくれているからなのよ。他の人は、結構信じてくれない人が多くて、まったく他の世界を信用しない人にとっては、どんなに夢で見せても、それはただの夢としての通過でしかない。そのことを他の人は理解できていないのよね」
と里穂は言った。
「里穂さんは、どうして私のところにそんなに頻繁に来てくれているのかしら? 私は毎日見ているような気がするくらいなんだけど」
というと。