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ポイントとタイミング

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 そう思って、何度か目が覚める中で、完全に熟睡できたんどとはお世辞にも言えないほど中途半端な睡眠だったことが原因で、尚早頭痛がしていた。
 最近は、よく頭痛を起こすのだが、結構すぐに治ったりする。その理由が、
「中途半端な睡眠」
 にあるということを、最近気付いたのだった。
 朝方日差しが差し込む中目が覚めて時計を見ると、すでに八時を回っていた。この日は自分は仕事が休みだったので、意識していなかったが、目覚めとともに、まわりからの慌ただしさが聞こえてきたことで、
――そうか、いつもだったら、出勤準備に追われている時間か――
 と、今日はまだゆっくりできることを安心感のように思っていた。
 すると、どこかからか、人に指示している声が聞こえる。
 その声が誰なのか分からなかったが、その声の中に、警察という言葉が聞こえた気がしてビックリしたのだ。
「警察とは穏やかではないわ」
 と、自分の聞き違いであることを願いながら、そう嘯いたが、その時は自分の中に聞き違いという判断はなかった。
 そして発想は、
「殺されたって、誰が?」
 と、まったく疑いの余地を残していなかったのだ。
 そして、殺されたとすれば、チンピラ風の男?
 と思ったが、自分の夢に出てきた妄想だったのだ。

                洗脳

 今から二年前、つまり、令和元年の春くらいのことだった。マンションの隣の部屋に住む女がやっと引っ越していった。それまで、その女は近所の奥さんや独身女性を捕まえては、よく話しかけていたが、ほとんどの人は迷惑をしていた。声を掛けられても、返事を返すこともなく、無視していたのだ。
 だが、隣に住んでいる主婦だけは、隣人ということもあり、そうもいかなかった。
 最初はなるべく露骨に嫌な顔をして、話しかけるのを思いとどまらせようとしたが、通用しなかった。
「嫌われてもいい」
 と思っていたのだ。
 下手にこんな女に関わってしまうと、せっかくできている他の奥さんたちとの輪を乱されると思ったからだったが、この女を無視すると、何をされるか分からないという恐怖があったのだ。
 一度は部屋の前にゴミ袋が置かれていた。一度だけだったので、
「置き忘れたのかしら?」
 と思ったが、そのわりには、露骨すぎる。
 その時は、隣の奥さんが話しかけてきたのを、自分が仕事に行かなければいけない時間で、煩わしそうに断った時のことだったのだ。
「これくらいのこと、誰にだってあることじゃない」
 と思ったが、相手はそうは思ってくれなかったということか。
 まだ、それでも、その奥さんの仕業だと断定できる根拠はなかったので、
「限るなくクロに近いグレーだ」
 と思っていたが、その次があった時は確定だと思った。
 その時も、子供のお迎えにどうしても行かなければいけない時で、急いで部屋を出た時、
「奥さん」
 とその女が声をかけてきた。
 頭の中は子供のことだけしかなあったので、その時も同じように、煩わしそうに断ってしまったようだった。自分では丁重に断ったつもりだったが、そんなに丁重になれるわけもない。「すみません、また今度にしていただけますか」
 と言いながら、走り去るようにその女の前を駆け抜けていったのだった。
 何とか子供のお迎えは事なきを得たのだが、今度は翌日に、玄関先にタバコの吸い殻が、何十本も無造作に捨てられていた。
 急いで、部屋から箒と塵取りを持って着て片づけたのだが、ここまで来ると、もう犯人は隣りの奥さんであることは間違いない。
 完全な嫌がらせであり、ターゲットは自分に向けられたものだ。吸い殻を片付けながら、主婦は屈辱感に身を震わせながら、怒りと惨めさに身体が熱くなるのを感じた。
「こんな屈辱は初めてだ」
 と思い、次に会った時には、怒りの気持ちで恫喝してやろうと思ったのだった。
 翌日早くもその機会は訪れた。
「あなた、一体どういうことなの? 私に何か文句でもあるっていうの?」
 と、精いっぱいの恫喝で相手を睨んだ。
 それは顎を前に突き出した、上から目線と強調したもので、よくよく考えると、臆病者は震えをごまかしながら、精いっぱいの背伸びをして見せているかのような態度だったことを、その時はまったく分からなかった。
 そんな人間がいくら何を言ったとしても、恫喝に値するわけもなく、そんな言葉を浴びた相手が最初はずっと下を向いていたかと思うと、それに焦れて、こちらが、
「何黙っているのよ」
 と言ったタイミングで顔を挙げると、待ってましたかというように、ゆっくりと顔を挙げてくる。
 その顔は自分と違って下から目だけで見上げるような感じで、
「恨みを込めて相手を睨むというのは、まさにこういう顔のことをいうのだ」
 という手本のような表情だった。
 まるで地獄の底から帰ってきた人間のようなその断末魔にも似た表情に、奥さんはまったく何も言えなくなった。まるで、
「ヘビに睨まれたカエル」
 のように、額からカマの油のような汗が滲み出ているのを感じたのだ。
 微動だにもすることができない。自分がここまで人のことを怖いなどと思ったことはなかtった。そんな思いを感じながら立ち尽くしていると、無表情だと思った相手の顔が少しずつ変わっていくのを感じた。
 怒りを感じる表情ではない、次第にニンマリとした顔になってきた。その表情は今から思えば、相手を征服したかのような顔だったのだが、その時はなぜか、
「救われた」
 と思ったのだ。
 正直、
「救われたい」
 という気持ちが強すぎたのか、その人の顔がどんどん目の前に迫ってくるかに思えた。必死に顔を背けるのに、身体が高著sくして動けない。明らかに金縛りに遭っていたのだった。
 本当は自分がひどい目にあわされて、相手に対して怒りをぶつけていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転していて、逆転しているということすら自分で分かっていない状況に、すっかり自分が呑まれていることに気づくはずもなかった。
 相手の目に吸い込まれそうになっていて、実際に吸い込まれたかのように感じた。吸い込まれると、もう恐ろしさはなかった。その代わりに普段から抱いている自分の不安であったり、心細さが露呈してきたのだ。
――なぜ今頃?
 と思ったが、それ以上に募ってくる不安は、反射的に誰かに助けを求めていたのだが、その救世主が目の前にいるこの女だと思うと、もう、自分が何をされても仕方がないと思うようになっていった。
「大丈夫よ。私がついているからね」
 と言われて、黙って頷くその奥さん。
 ちなみにその奥さんの名前は、名古屋紗耶香という。年齢は三十二歳で、同い年の旦那がいた。旦那の名前は晴彦と言って、同い年だった。
 元々社内恋愛だったのだが、晴彦は大学卒業で入ってきたのに対し、紗耶香の方は高校を卒業後に入っているので、会社では大先輩だった。
 同い年でありながら、お互いに同い年という感覚はなかった。まるで女性の方が二つくらい年上のような感覚だったのだが、入社当時から旦那の晴彦は、引っ込み思案で、人に話しかけるのも苦手なタイプだった。
作品名:ポイントとタイミング 作家名:森本晃次