ポイントとタイミング
「犯人も、自分が殺されryかも知れないということを感じていたのかも知れない」
と思った。
お互いに殺し合いという修羅場を想像していれば、いくら相手が無防備な姿であったり、態度であっても、被害妄想がある分、ビクビクはしているだろう。そうなると、殺すつもりはなくとも、相手の行動一つで敏感になり、反射的に相手を刺し貫くことだってあるのではないか、覚悟はしていたが、まさか本当に刺してしまったことで気が動転した。そんな時に赤石が
現れたとすれば、犯人は、赤石を頼るだろう。
これが赤石の最初からの計画だったのかも知れない。
「チンピラの竜二に、犯人を殺してもらおう」
と思ったか、あるいは、
「チンピラを殺すことで、余計に自分の支配を協力にできるかも知れない」
という思いがあった。
少なくとも犯人を赤石は、この機会に抹殺したかったのかも知れない。
それは、一つには、
「もう役目は終わった」
と感じたのが、もし、そうだとすれば、殺し合った相手は。鶴橋の奥さんということになるだろう。
ひょっとすると、奥さんが不倫の現場として見られたことで、奴隷のように扱われていたが、赤石の木庭は、あくまでも旦那の鶴橋氏の抹殺であった。
奥さんの方では旦那のことを知っていて、
「うちの旦那、末期がんでもう長くはないのよ」
とでもいったかも知れない。
赤石とすれば、
「何だ、何も気に病むことはない。放っておいてもあの旦那は死ぬんだ。それまで見張っていればいいだけじゃないか」
と安堵を感じたのではないだろうか。
だから、奥さんか、竜二のどちらかから、赤石の企みの片鱗がバレることを恐れた。考えてみれば、あの旦那は、すでに先がないのを告知されているのだ。怖いものなしである。まるで手負いのイノシシのようにこれ以上恐ろしいものはない。失うものは何もないと思っているからである、。
そんな怖いものなしの相手を、死ぬまで見張り続けなければいけないというのは、結構辛いものだ。
その旦那が殺されたという事実は、意外とそういうところから来ているのかも知れない。
つまりは第一の殺人は、
「どちらが死んでも、別に構わない」
というような殺人だった。
お膳立てだけは組み立てて、後は殺しあえばいいと思っていたことだろう。どっちも死んでくれるのがよかったのかも知れないが、よく考えるとそれもおかしなことになる。あくまでもどちらからがどちらを殺すという構図が表に出ることで、この事件は成立するのではないだろうか。
大団円
ただ、まだ疑問は残る。二つ目のポイントとして挙げた、
「行方不明が多い」
ということだ。
奥さんの失踪といい、竜二の彼女の失踪といい、同じ事件の中の失踪であっても、まったく違った側面を持っているものだ。
二人とも殺されているということはないと思うが、表に現れないというのはどういうことだろう?
赤石の様子を見ていると、犯行は彼女の中で完遂しているのではないかと思えた。
だとすると、殺されているのであれば、どこかで死体が見つかっていてもいいだろうが、そういうわけでもない。浅川は、いろいろ考えてみることにした。
奥さんは別にして。竜二の彼女は竜二が生きていればこその利用価値だったはずである。しかし、竜二が殺されたとなっては、もう必要のない相手だ。だからと言って、放免にするには、彼女はあまりにも知りすぎた、監視下に置きながら、金を生むタマゴとして、
「飼っている」
という状況が、組織には一番いいのかも知れない。
これほど卑劣なことはないのかも知れないが、彼女の方とすれば、ひょっとすると竜二の死を知ることもなく、組織にいいように利用されているのかも知れない。
――こんなことなら、竜二のことを全面的に信じてあげればよかったわ――
と考えているかも知れないと思うと、
「彼女こそ、一番の被害者なのかも知れない」
と思った。
それぞれ悪党や知能犯が群雄割拠の中で、ただ利用されただけのオンナ。
「まずは彼女を助けてあげなければいけない」
と思った。
浅川刑事は、組織が隠すにはどこがいいかということの検討はついていたが、何しろ存在を知っているだけで、顔も名前も知らない女性である。名前を知っていたとしても、それは本名かどうか、分かりっこないのだ。
思いついたというのは、風俗の店だった。
この事件はここまで浅川刑事の想像通りであり、いずれ解決に向かうことになるだが、ここから先は真実のお話で、浅川刑事の想像と合致しない。それだけに話が混乱してしまう読者の方もおられると思うが、そこはご了承いただきたく存じます。
組織は資金稼ぎのために、自分たちの直営店も持っていれば、自分たちの息のかかった店というだけの、みかじめ料と用心棒を兼ねた店を持っている。竜二は直営店の用心棒だったが、彼女の方は、直営店ではなかった。バレては困るという考えがあったからだ。
ただ、竜二の方も女の方も、お互いに愛し合っていたというわけではない。あくまでも用心棒とその周りのオンナというだけの関係で、彼女とすれば、
「どうして私があんな男のためにこんな目に遭わなければいけないのかしら?」
と感じていた。
相手が愛している男であれば、少しは抵抗もあるだろうが、愛も何も感じていない相手のことでこんな目に遭っていることで、抵抗する気力もなくなっていた。
下手に騒いで、男たちの慰め者になることをよしとはしなかった。
子供の頃の苛めっ子と苛められっ子でも同じではないだろうか。
「苛められる時に下手に逆らって、相手の神経を逆なでさせるよりも、黙って相手が疲れるまで待っている」
というやり方が一番いいのではないだろうか。
そんなことを考えていると。自然と逆らうこともなくなってきた。何とか今の立場に慣れることを考えるようにしたのだ。
そうすれば、商品として大切に扱ってくれる。逆らうだけ損だということだ。
だから、彼女は、半分諦めていたのだろう。
それも組織の計画通りだった。
「女なんて諦めさせてしまえば、後は言いなりさ。逆らえば痛い目に合わせれば、それですぐに気持ちは収まるというものさ」
と言って、女を見て見下すような嘲笑をしていることだろう。
それも、慣れれば気にもならなくなる、彼女はそういう意味では従順だと言ってもいいのではないだろうか。
そんな時、そのお店で、お互いには知らなかったのだが、自分のことを助けてくれる女性がいた。彼女の方もその女の子が、まさか竜二の彼女だとは知らなかったのだが、これも実に何かの埋め合わせではないか。
その女というのは、実は鶴橋氏の奥さんだった。失踪したことになっているが、整形を施し、自分の素性が分からないようにしてから、カモフラージュのために、この店で働き始めた。
彼女がずっと行方不明だったのは、整形をするためだった、彼女は何とか生き抜こうと考えたのだが、旦那のかたきを討つつもりなのかどうかまでは分からない。そしてこの店が竜二の組の関係の店(直営店ではない)と知っていた。
知っていて、わざと相手の懐に飛び込んだのだ。
作品名:ポイントとタイミング 作家名:森本晃次