ポイントとタイミング
「これなら、あのチンピラ竜二との接点はないような感じだよな」
と思いながら読み進んで行くと、ふと気になったページがあった。
そnページは、ご近所の主婦にインタビューしているもので、その主婦の中に、
「赤石」
という名前があった。
「これは、お隣のあの女性のことではないか?」
と思ったが、記事としては、そこに主婦と書かれていた。
実際には主婦ではないのに、鶴橋が勘違いをしたということなのか、それともそんな勘違いをしてしまいそうな誰かと同棲していたということなのか、浅川には分からなかったが、この記事を捨ててはおけない気がした。
そのことを少し頭に入れながら、記事を読み進んでいた。
赤石は、その時、無難な受け答えをしていた。
「ええ、私たちの近くには、麻薬などという物騒な話は聞いたことがありませんね。テレビドラマなどでは、団地や集合住宅に住む主婦が狙われたりするようなことも見たりしますが、私は知らないですね」
というような回答だった。
浅川はこれを見て、この赤石という女が。ではバリなところは昔からだったのかと感じたが、実名で乗っているというのもm何かの曰くが感じられる気がした。
ただ、後でこの時の裏を取った時、実名が書かれている人は、本名であることが多かったので、それは考えすぎだと思った。
だが、少なくとも、赤石の話では、
「隣人はおろか、私はほとんど近所づきあいはしていませんからね」
と言っていた言葉に信憑性がないような気もしていた。
それでも、贔屓目に見れば、この女は表に出てきたいという出しゃばりなところがあるだけで、別に、近所づきあいをしていたわけではない。つまり、ウソは言っていないということになるのだろうが、ウソを言っていないだけで、却ってその言い方はわざとらしさのようなものが感じられ、信憑性の問題よりも、
「言葉の裏を読まなければいけない相手ではないか」
という思いが頭をよぎるのだった。
「どちらにしても、もう一度、この件について、この赤石という女に確認してみる必要があるようだな」
と浅川は感じた。
しかし、その反面、
「覚えていないと言われればそれまでだが、本当に簡単なごまかしをするだけで終わるだろうか?」
という思いもあった。
あの赤石という女に関しては、浅川は、どこか気持ち悪さを感じていて、得体の知れないものがあった。
この女についても、前に住んでいたところの話も分かればいいと、彼女の前にいた街にちょうど知り合いの刑事がいるので、少し調査をお願いしていた。殺人事件の捜査としては、容疑者でもない女性の捜査なので、どこまで分かるかは疑問だったが、何も情報がないよりもマシだろうというのが本音だった。
そのお願いした刑事というのは、門倉刑事という、以前まで一緒にK警察刑事課で同僚として仕事をしていた仲間だった。ライバルだったと言ってもいい。
その男が別の署に転属になった時はショックだったが、別に責任問題で飛ばされたわけでもなく、ある意味栄転と言ってもいい人事だったので、彼の転勤を皆で祝ったものだった。
門倉刑事がK警察で最後にパートナーだったのが、桜井刑事だった。元々勧善懲悪だったところもあったが、その勧善懲悪が悪いことではないと教えてくれたのが、門倉刑事だった。
彼は、桜井刑事に負けず劣らずの完全調抱くだった。
「勧善懲悪というのは、一つの部署に一人はいるものなのか、それとも、勧善懲悪は伝統として受け継がれていくものなのか」
という意識をまわりの人に持たせた人物であった。
警察というところは、なかなか融通の利かないところとして有名だ。以前刑事ドラマで、いかにも縦割り社会して描かれたことで、
「警察で何かをしたいなら、偉くなれなければダメだ」
という格言めいた内容の話があった。
捜査本部が作られれば、その中でしか、その捜査に関しての権限はないのだが、一人だけ違う意見を持っていたとしても、捜査方針が別のところにあったとするならば、それに従わなければ、捜査から外されるくらいに厳しいものである。
つまり、
「捜査をしたいなら、上の決定には逆らうな」
ということである。
確かにそれぞれ捜査員が自分の意見で勝手に捜査をすれば、まとまらずに真相究明に余計な時間が掛かったり、ミスリードすることになるだろう。しかし、捜査本部の考え方というのは、多数決であれば、まだいいのだが、下手をすれば、捜査本部長の意志に則るものだったりすることもある。
捜査本部長はそれだけの実績を積んで捜査本部長になっているのだろうから、説得力はあるのだろうが、実際にはキャリア組の、最前線で下積みの捜査などしたことのない人だったりするから、偏った意見になったりする。
捜査の最前線でずっと下積みを重ねていた刑事にはどうしても承服できないこともあるだろう。それでも従わなければいけないのは警察の倫理であり、理念だと言ってもいいだろう。
そんな雁字搦めとも言える警察機構の中でも、下積みは下積みで力を持ってきていることをK警察署は実践しているようだった。
そんな捜査を進めていた矢先のことだった。鶴崎の会社の編集部にお邪魔して編集長と話をしてから、鶴橋の書いた冊子を持ち帰り読み返していたちょうどその時、捜査本部で消臭が掛かった。どうやら事件に急展開でもあったということなのだろうか?
浅川が捜査本部に入って行くと、すでに桜井刑事、山口刑事と集まっていて、後から捜査本部S超が、見知らぬ二人を従えて入ってきた。
二人は一同に頭を下げ、
「私たちは、H署刑事課の者です。実はうちの館内で、一人の男性の他殺試合が見つかりました。その死体の身元を探っていると、どうもこちらでも、その男の行方を探っていたということで、私どもの管轄の殺人事件と、この捜査本部の事件とが結び付いているということが判明したので、こうやって出向いてきたというわけです」
と一人の刑事が言った。
「その殺害された人物というのは、誰なんですか?」
と桜井刑事がいきなりであったが訊ねた。
それは誰もが聞きたいことであり、そういう質問を代表して口にするいつもの役目が桜井刑事だったのだ。
H署の刑事は少し考えて、間を図ったかのようにその人の名前を口にした。
「鶴橋和樹氏です」
というと、一瞬その場が凍り付いてしまったかのようだった。
どうして彼が殺害されることになったのか、そして、一緒に行方不明になった奥さんはどうなったのか? 捜査員、誰もが感じていることだった。
写真の真実
「一体、どういういきさつで鶴橋氏の死体が発見されたんですか?」
と桜井刑事が訊くと、
作品名:ポイントとタイミング 作家名:森本晃次