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ポイントとタイミング

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「赤石さんという人は、まったくその本心が掴めない人で、この間刑事さんが私に聞き込みをしていた時、まるで空気が読めない困った人というイメージを印象付けるかのように、話に割り込んできたでしょう? あれは計算ずくだったと思うんです。あの人の行動にはどこか、すべてに関して理由があるような気がするんです。話をしていても、白々しいと思うことが結構あったりしますからね」
 と奥さんは言った。
 その話を訊いて、桜井は、
――まさしくそうだな――
 と感じた、
 しかも警察に鶴橋の奥さんの話をする時も、どこか白々しさがあった。考えてみれば、ほとんど初めて話すと言ってもいい相手、しかも警察官に対して、あそこまでため口ができるのは、あたかも、自分が、
「ウワサ好きの奥さん(主婦ではないが)」
 と思わせるかのようだった。
 しかも、実際にはまわりと確執があることくらいはすぐに分かることなのに、それでもウワサ話に自分も混ぜてもらっているかのような言い回しは、どういう意図があってのことなのだろうと思っていた。
 そんな中で、奥さんたちの共通な意見として、
「あの赤石さんという人と、鶴橋さんの奥さんとは、いつもコソコソとしていたのよ。鶴橋さんも最初は私たちのグループに属していて、一緒にいろいろお話をしている仲間だったんだけど、でも、私たちの中では目立つ存在ではなかったわね。どうしても私たちの主婦の集まりというと、個性が入り混じっているだけに、自分からガツガツいかないと、置いて行かれることもあるんですよ。そういう意味ではあまり口数の多くない鶴橋さんなどは、ある意味浮いていた存在だと言ってもいいわね」
 と言っていた。
 写真でしか見たことがなく、しかもその写真は、赤石に魅せられた不倫を映したかのように見える写真だけである。
 その写真も、複数撮ったのだろうが、その中で、一番カメラ写りのいいショットだけを残しているのではないかと思うほどだった。
「はい、それは分かる気がします」
 と桜井刑事が相槌を打つと、
「あれはいつ頃のことだったかしら? 誰かの私物が盗まれたということで、ちょうどその時の状況から、鶴橋さんが疑われたの、後から思うと、確たる証拠があったわけでもなく、どちらかというと表に出ている彼女の素行などから、皆で妄想の中で作り上げられた犯人像がそのまま鶴橋さんに当て嵌まってしまったのね、日本というところは、疑わしきは罰せずという社会じゃないですか。それなのに、私たちは印象だけで、彼女を推定有罪にしてしまったのよね」
「そうだったんですか」
「ええ、だから彼女は孤立していって、次第に赤石さんと結びつくようになった。でも、それは何か最初から計画されていたことではないかと思い、今では恐ろしく思うんです。そもそも私物がなくなったことで、鶴橋さんが怪しいという印象操作を最初にしたのが、赤石さんだったような気がするからですね」
 と奥さんがいうと、
「何のためにそんなことをしたんですかね?」
 と、桜井が訊いた。
「決まっているじゃないですか。鶴橋さんを孤立させて、見方は自分だけだよということで、自分の中に引きこむことができる。それが狙いだったんじゃないですか?」
 と奥さんがいうと、
「そこまで詳しいことは分かりませんが、それからの鶴橋さんはいつも赤石さんと一緒でした。絶対に赤石さんの前に出ることはなかったくせに、赤石さんが不利になったりすると、真っ先に矢面に立って、防波堤の役目をするんです。皆鶴橋さんがターゲットではないじゃないですか。そんな状況になってしまうと、誰もが赤石さんを攻撃する気力を失ってしまうんですよ。そのまま攻撃をしても、結局茶番に終わってしまうような気がしたからですね」
「どうしてそう思うんですか?」
「それは、まるで豆腐を攻撃しているようなものだからです、いくら攻撃しても、相手が痛みを感じない相手であれば、攻撃する方はまるで自分が悪いことをしているような罪悪感に駆られ、次第に何もする気が失せてしまうからじゃないでしょうか? それが赤石の最初からの狙いだったんじゃないかと思うんです」
「その時の鶴橋さんはどんな感じだったんでしょうかね?」
「きっと洗脳されているようだったんじゃないでしょうか? 奴隷扱いだったのかも知れないと思うほどですよ。赤石さんと一緒にいるのを見ていると、鶴橋さんは、いつも無表情で、何も考えていないかのように見えるんです。心ここにあらずと言ってもいいと思うし、本当に鶴橋さんがどうしてしまったのか、そして赤石というあの女は何者なのかって、今では恐ろしく感じられてしょうがないんですよ」
 と、話の最後は完全に怯えているかのように見えた。
 ちょうど聞きたいことも聞けたわけだし、これ以上のことを聞いても詳しい話が訊けるわけもない。そして、
――相手も話ができる限界なのではないか?
 と思うことで、話を辞めることにした。
 こんな会話はこの奥さんだけではなく、他の人でもほとんど同じだった。それだけこのマンションは何か一つの大きな力が少なくとも潜んでいるのではないかと思わせ、その中心が赤石という女なのではないだろうか。
 もちろん、二年前の赤石が引き起こした詐欺事件。これはまったく知られていない。毎日少なからずの事件が起こっている中で、二年も経っているのだ。しかも、警察は確かに長所であったり、すれをデータベース化もしている(どこなでできているか甚だ疑問ではあるが)が、それをいちいち覚えているような生き字引がいるとは思えない。
 いたとしても、日頃最前線で忙しく飛び回っている捜査員の中にいるなどありえないレベルであろう。さらに管轄が違っていれば、その可能性は限りなくであろうが限りがあろうが、ゼロと言ってもいいだろう。
 だから、赤石が怪しいと思っても、まさか過去に似たような反懺を犯したことがあるのではないかと疑う人でもいなければ、まず発覚することはない。何といっても、管轄違いは警察にとっては自業自得とはいえ、致命的である。
 赤石が知能犯であるということは間違いないだろう。桜井は赤石が事件の何かを握っているという意識があったが、この怪しいと思える行動の目的がどこにあるのか分からなかった。
 少なくとも、最初から殺害目的だったとは思えない。やはり考えられるとすれば、奥さんを洗脳して、マンション内での自分の立場を復活させようとしたのか、それとも、自分がボスにでもなって君臨したいと思ったのか。だが、君臨はないと思った。
 明らかにまわりとは隔絶されたところにいるのは間違いない。ある意味、絶妙な距離を保っているのかも知れない。極端にまわりから嫌われているわけでもなく、距離感を感じさせることで、変なウワサも立たないようにしていた。
 しかし、今度の事件が起こってからの赤石は、自分から表に出ようとしている。そこには何かの含みがあるのだろうが、それが何なのか、今の段階の資料では判断ができないと言ってもいいだろう。
 赤石が、今回の事件においてどの位置に存在しているのかが大きな問題ではあったが、それを考える前に、事件を整理してみる必要はありそうだ。今のところ分かっていることを考えてみることにしよう。
作品名:ポイントとタイミング 作家名:森本晃次