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ポイントとタイミング

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「あれは、一か月くらい前だったと思います。ただ私が気になったのは、そのチンピラ風の男ではなく、一緒にいた女性だったんです。これは、その人が事件とはまったく関係なければいけないので、口外しないでほしいんですが、お約束していただけますか?」
 と言われたので、
「はい、sこれは心得ているつもりです」
 と言った。
 赤石はスマホを取り出し、スクロールしながら、何かを探していた。何かの画像のようである。かなり写メの数が多いのか。探すのに一苦労しているようだった。
「この写真なんですが」
 と言って、その写真を見ると、確かにそこには、殺されたチンピラ風の男に、何やら、一人の女性が映っていた。
 その女性の視線はどこかあざとく、まるでカメラ目線ではないかと思えた。
 二人は仲がよさそうな雰囲気を醸し出していて、不倫ではないかと思えたが、どうにも相手の女性は普通の主婦であり、こんなチンピラとは釣り合わない気がした。
「この女性は一体誰なんですか?」
 と訊かれて、
「この女性は、事件のあったあの部屋に、事件の前日まで住んでいた主婦なんです。私は最初二人を見かけた時、彼女を見たわけではなく、。チンピラ風の男と主婦という一見、不釣り合いなカップルに目を奪われた時、その相手がお隣の奥さんだと思った時は衝撃でした。普段であれば、写メで撮ったりなどしないのに、その時は写メを思わず取っていたんです。それが今になって殺人事件に結び付くなど、考えられませんでした。だから、最初は思い出せなかったんですが、チンピラ風というキーワードで思い出したのが、この写真だったんです。すぐに思い出せなかったのは、殺された人がチンピラ風だということを最初は知らなかったんです。警察の人は他の人を優先して聞き取りをしていたでしょう? だから私は、最初事件に無関心だったんです。でも、それじゃあいけないと思って。警察に協力しなければいけないと思って。警察が他の人に質問している時に。せっかく私が情報を提供しようと思っていたのに、私を無視するから、私としても、どうでもいいと思うようになったんです」
 と赤石は言った。
――こんなことを言っているが、どこまで本当か分かったものではない。ただ、これは彼女が皮肉を言いたいがだけのことなのか、それとも、何か重大な秘密を握っているからなのか分からない――
 と、桜井は感じていた。
 どうもこの女のいうことは信じられないと思っている。
「この隣の女性、何という名前ですか?」
 と聞かれた赤石は、
「鶴橋あやめさんという主婦の方です。旦那さんと二人暮らしでした」
 桜井は、あのマンションの前の住人の名前は知っていたが、知らないふりをして聞いてみた。警察が知らないはずはないという思いが赤石にはないのか、そのことに敢えて触れようとはしなかったのは、何か思惑があるからであろうか。
「鶴橋夫妻はどちらに引っ越したんですか?」
 という質問に、
「そう遠くではないですよ。県内は間違いないですからね。このマンションは転勤族の人が多いので、引っ越しはある程度覚悟の上ですよ」」
 ということだった。
 この話をしている時、桜井は赤石に対して違和感を持った。いくら不倫かも知れないとはいえ、ご近所の主婦の写真を撮ってどうしようというのか、まるで最初から脅迫目的でもあるのではないかという疑いがもたれても仕方がないだろう。
 それなのに、撮った写真を今までに誰かの見せたかどうか分からないが、少なくとも警察に見せるということがどういうことだろう。警察に対して、全面的に協力しているというのを示したいのか、それとも、本当は脅迫していたのを、自分から警察に話すことで、カモフラージュの意味があるとでも思ったのか、それとも、本当に何も考えていないかのどれかであろう。
 赤石から、何かの情報を得たということを、他の住民が得たからだろうか。赤石からの情報がもたらされてから音は、皆似たり寄ったりではあったが、それまで黙して語らずであった、ご近所さんから、堰を切ったかのように新事実と見られる情報が漏ららされた。
「赤石さんから、鶴橋さん夫婦の情報がもたらされたんですか?」
 ともう一度聞き込みに行った奥さんから聞かれた。
「ええ、赤石さんは、最初から我々に伝えたいことがあったようですね。ひょっとすると、自分が先に言わないと、皆さんが話しにくいのではないかとでも思われたんでしょうかね?」
 というと、聞き込みを行った奥さんは、実に苦々しい笑い方をした。
 本当は認めたくないのだが、認めざる負えないとでもいいたいのだろうか。ジレンマを感じているような表情を感じたので、この奥さん以外のそれ以降の聞き込みは、今度は最初から赤石の情報であることを匂わせると、やはり苦笑いをして、同じように席を切ったように話をしてくれるのだった。
「赤石さんがどんなことを言ったのかというのは分かりませんが、私たちの感じたことというのは、鶴橋夫妻のことなんです。どうやら、離婚寸前だったという話を訊きました」
「どういうことですか? どちらから言い出したんでしょう? そして、その理由ですね」
 と桜井が訊くと、
「どうやら、離婚を切り出したのは、旦那さんの方からのようです。理由とすれば、奥さんの浮気が最初の理由だったようです」
 という話を訊いた桜井は、何か違和感のようなものを感じ。
「ん? 最初の理由って、どういうことですか?」
 と訊いてみると。
」いえね。最初は確かに、奥さんの浮気のことで旦那さんが奥さんを責めていたようなんですが、今度は奥さんにも何か旦那さんに対して言いたいことがあったようで、それが、次第にエスカレートしてきて、どうやら、泥沼に入ってきたようなんです。詳しいことは分かりませんが、だから、離婚が秒読みと言われながらもなかなか離婚に行き着かなかったんですよ」
 というと、
「ということは、離婚に行き着かなかったというのおは、お互いに言い分があり、そして次々のお互いの言い分が出てくることで、泥沼化して行って、離婚しようにもその落とし泥子がなかなか見つからないということで、ズルズル来たということなんでしょうか?」
 と聞かれた奥さんは、
「ええ、そういうことだと思います。ただ、一つ言えることは、そんな離婚騒動に一役買っていた人がいると思うんですよ」
「ほう、そんな第三の人物がここで現れるわけですね?」
 と、桜井刑事も、相手が次第に興奮して話をし始めたを見ると、自分もそんな相手の話に入り込んでいって、主婦の井戸端会議の中にいるような錯覚を覚えたのだ。
「そうですね。でも、その人は別に第三の人物として、今までにまったく知られていない人物というわけではないんです。その人はずっと表面に出ていた人で、その人というのは、他ならぬ赤石さんなんですよ」
 と奥さんは、重大発表でもするかのように言ったが、
「ほう、それはまた」
 と言って、驚いているふりをしてみたが、まあ、桜井刑事の中では想定の範囲内のことであった。
作品名:ポイントとタイミング 作家名:森本晃次