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限りなくゼロに近い

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「ああ、そうですか。それでは、お話をさせていただきますが、今回の毒物ですが、最初は青酸カリなどのような猛毒を想像していたのですが、どうも違っているようです。筋弛緩剤のようなものに似ているように思えたのですが、それだと、青酸化合物とは少し違った反応だと思うんですよね。それで、もっと調べてみないと分かりませんが、ひょっとすると、未知のクスリの可能性もあるような気がするんです。というのは、普通の筋弛緩剤では、こんな状態にはならないし、痙攣していたかのように見えたという証言も、こちらの元警察官の方のお話でもありましたし、青酸カリとは違うようい思えるんです。今のところクスリの成分が何かまでは分かっていませんので、ハッキリしたことは分かりませんが、私のちょっと調べたところでは、何やらシンナーとアンモニアを使っているような気がするんです。混ぜ合わせたことで、
今度はまた他のクスリとの作用によって、死に至るまではないが、脅かしになら使えそうな毒物ということですね」
 と先生がいった。
「では、そういうクスリを製造しているところがどこかにあると?」
「日本とは限りません。ひょっとすると、裏社会ではこの薬の開発が、いたるところで行われているのかも知れない。表が知らないだけで、裏では開発競争がし烈を極めているとすれば、恐ろしいことですよね」
 と、浅川が言った。
「でもですよ、そんな最重要機密に当たるようなものを、何ら組織に関係のなさそうな女性がその被害に遭わなければいけないのか。そのあたりが大きな問題になるかも知れませんね」
 と、先生が疑問を付け加えた。
「確かにその通りですね。彼女のことは私たちで捜査しましょう。まだ意識が戻るまでにはかなりの時間が掛かるんでしょう?」
「ええ、そうですね。数日は目が覚めないかも知れません。クスリが未知のものであるとすると、本当に何とも言えないというのが本音ですね」
 と先生は言った。
 とにかく、クスリの秘密。さらには、彼女の正体。それが分からなければ、スタートラインにも立てないということだろうか。殺人事件ではないが、早く解決しなければいけないという、一刻を争う事件であることには違いない。

              ライバル関係

 その日は、とりあえず医者の話が訊けたことで、彼女が服用したものが、どういう種類のものなのかということが判明しただけだったが。判明したと言っても、青酸化合物のような純粋な毒ではなく、何かの薬品を混ぜたものであって、それは彼女が服用していたクスリに含まれているということが分かった。ただ、その徳がどのような目的を持って開発されたものであり、なぜ彼女がそれを服用することになったのかということは分からなかった。
 今のところ、調査をするにあたっての問題は、そのクスリの出所とその正体。つまり、何を目的に作られたものなのかということである。そして、彼女の身元くらいは分からなければ事件は進展しないだろう。
 とりあえず、事件としては、毒物による殺害未遂事件として捜査本部を立ち上げることになっているが、せめて被害者の特定を急ぐのが先決であろう。
 彼女はどうやら、ジョギングか公園内で何かの運動をしていたためにジャージを着ていた。そしてその彼女の所持品からは彼女の身元を表すものは何も出てこなかった。財布と水の入った五〇〇ミリのペットボトル。そしてクスリの入ったポシェットのようなもの。後はタオルなどが入ったカバンがあっただけである。
「どうしてもあると思われるものを被害者は所持していませんね」
 と、桜井刑事は言った。
 浅川刑事にも桜井刑事が何を差して言っているのか分かった。そう、その必需品とは、スマホのような携帯電話であった。
 財布はあるが、カードのようなものはない。彼女の腕には時計もなかった。となると、少なくとも時計代わりとして、スマホは持っていないと可笑しいだろう。いくら運動をするだけとはいえ、表に出るのにケイタイを持たずに行くというのは考えにくい。
 考えられるのは、どこかに落として気付かぬまま、あのような状態になったということか、それとも犯人がケイタイを持って行ったかということであるが、実は後者は考えにくい。
 もし、これが刺殺、絞殺で相手を殺そうとしたのであれば、その理屈も分かる。しかし、彼女は服毒だったのだ。つまりいつどこで服用するか分からないというもので、彼女がいつ服毒するのかということを、絶えず見張っていたということになる。
 普通、毒殺を企む場合の考え方として、
「アリバイ作り」
 というのが頭に浮かぶ。
 しかし、実際にはアリバイ作りというよりも、
「犯人がその場にいなくても行える犯行」
 という意味で、アリバイ作りという考え方とは相反するものがあると言ってもいいのではないだろうか。
 とにかく、そのケイタイがなかったという事実がこの事件において、どのような秘密があるというのか、そこが大きな問題になるのかどうか、今のところ、状況がほとんど分かっていないだけに、疑問になることは、結構目立つものであって、小さく見えていることでも、その一つ一つが実は大きなことなのかも知れない。
 被害者女性の情報は、なかなか出てこないのではないかと思われた。これが本当に殺害されたのであれば、公開して一般の人に情報の提供を願うこともできるが、命に別状ないということは、公開捜査を行うのであれば、本人の了承を必要とするであろう。何しろ個人情報の公開のようなものに近いからである。
 だが、そんな状態は長くは続かなかった。思っていたよりも、簡単に情報が手に入ったということで、却って捜査本部の方としても、拍子抜けしたほどだった。
 ただ、ここで名乗り出てきたのが彼女の友達を自称する一人の女性であったが、何かしっくりこないものを、浅川は感じていた。
 それは、
「なぜ、今日なのだろう?」
 ということであった、
 被害者は死んだわけではないので、プライバシー保護の観点から、被害に遭ったということを公開して、情報を得るわけにはいかない。だから、知り合いが何かの事件に巻き込まれたということを知る由もないだろう。失踪であったとすれば、まだ一日しか経っていないのに、失踪と決めつけるには早い気がする。三日経っているなら分かるが、一日ではどうしようもないことだろう。
 そういう意味で、なぜ名乗り出てきたのかが分からない。
 とにかく、その女性に逢ってみることにした。面会は実際に彼女を見た浅川刑事と桜井刑事が行った。ただ二人も、人工呼吸器をつけられた痛々しい姿の彼女しか見ていないのだ。ハッキリと顔が分かるわけではなかった。
 さらに捜査陣を当惑させたのは、彼女に付き添いの人物画あいたからだった。特にこのことについて一番当惑したのは桜井刑事であった。
「どうしてあの人が一緒なんだ」
 と言って、頭を傾げた。
作品名:限りなくゼロに近い 作家名:森本晃次