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限りなくゼロに近い

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 水が油に交われば、それこそ、偉大な発明だと言ってもいいだろう。
 水と油の関係というのは、実際に二つの交わらないそもそもの物質で形成されているということだけではなく、実際にはその二つは交わるものであって、その間に結界が存在しているというパターンもある。または、その結界が実は自然なものではなく、交わってしまうと、化学反応を起こし、最大の災いを起こすために、交わらないようにしているという一種の安全装置のような役割のものもあるだろう。
 この三つがそれぞれ、存在していることで、総称し、
「水と油の関係」
 という言い方ができるのではないか。
 そこには、作為があったり、無作為があったり、実際に混ざると危険なものと、そうでなおものが存在するのだ。
 恋愛関係に限っての、水と油の関係を見ると、その間に結界だったり、安全装置が存在するとすれば、それをこじ開けるカギは、
「一目惚れ」
 というものが関係してくるのであろう。
 だが、そこに嫉妬という感覚が絡んでしまったことで、一つの張り詰めた糸が緩くなったのか、あるいは、ほどけてしまったのか、先生は若干の焦りを見せているようだ、
 本来であれば、この先生、少々のことでは微動だにしないはずなのに、この焦りがどこから来るものなのか、次第に分かってくることになるのだが、そうやら、その問題は、由衣に絡んでいるようだ。
 何とあいりを洗脳していたのは、由衣だったのだ。
 彼女があいりをマインドコントロールしていたものを、三角関係に陥った男が変な勘違いをし、あいりが記憶喪失になったのは、由衣のせいだと勝手に思い込んだ。
 もっとも、実際にはその通りなのだが、それを由衣に突き付けて、由衣の方としても、簡単に彼に説明してしまうと、自分が嫌われることは分かっていたので、何とかごまかそうとした。だが、そんなごまかしに乗るほど、彼は純粋ではなかった。
 由衣の誤算は、自分のいうことであれば、何でも信用すると思っていたこの男を見くびっていたことだった。由衣がいくらあざとく振る舞っても、最後には信用できなくなると、憎しみの感情が湧いてきた。
 それにより、由衣に対しての殺意が次第に芽生えてきて、もちろん、
「こんなことになるなんて」
 と思っていたはずであるが、由衣を殺害するに至った。
 我に返ってみると、この男、本当に小心者で、気持ちを表に出すのが苦手で、こうなってしまうと、すべての人間が敵に見えて、すべてを保身にしか結び付けられなくなった。
「俺が悪いんだ」
 と、思っているくせに、保身に走ってしまう。
 感じていることとやっていることが正反対で、神経がほとんどマヒしているかのようだった。
 だが、彼は自分がしてしまったことの本当の罪を知らない。
 それは、
「あいりの記憶が元に戻らない」
 ということだった。
 洗脳を施した由衣はすでに死んでしまっている。その術を解ける人がすでにこの世にいないのだ。
 洗脳が解けるとすれば、洗脳した相手がそれを解くしかないのだが、その人物が二度と現れることがないのだから、死ぬまで、この状態だということだろうか?
 それではあまりにも可哀そうだというものだ。
 彼は由衣の命を奪っただけではなく、あいりという人間も抹殺してしまったことになる。そんな彼がどれほど罪作りなのか、誰が分かるというのだろう。
 誰がこの事実を知っているというのか、一番知り得る立場にいるのは、やはり先生ではないだろうか?
 ただ、先生がそのことを知ったからと言って、あいりの記憶が戻るわけではない。
「彼女は記憶を取り戻すことなく、今の段階からが新しい人生の始まりだという感覚でいることの方が幸せなのかも知れないな」
 と、感じていた。
 あいりの意識がどこにあるのか、誰か考えたことがあるのだろうか?
「犯人はなぜ、由衣さんを殺したんでしょうね? やはろ。マインドコントロールを永遠にしようとでも思ったのでしょうか?」
 と桜井刑事は言ったが、
「いや、そうではないと思うんですよ。元々、この事件では、単純に、由衣さんとあいりさんの関係を知られたくないと思い、警察がまだあいりさんと由衣さんの関係に気づいていないと思ったのか、彼女を葬ることで、彼女への薬のことなどが、明るみにでないようにしようとでも思っていたのかも知れないですね。ただ、そうだとすると、事件としては、かなり甘い考えではないかと思うんですけどね」
 と、浅川刑事は言った。
「でも、この事件、トカゲの尻尾切りで終わってしまいそうに思えてならないですね」
 と桜井がいうと、
「それはあるかも知れない。そうならないようにするために、クスリの秘密を細部にわたって解明してくれることを先生に願いたいところですよね」
 と浅川が言った。
「でも、一目惚れというのがキーだったというのも、少し気になるところですよね」
「一目惚れって、そんなに多くないじゃないですか。自分が相手よりも先に好きになる中で、我を忘れてくらいにまで気持ちが行き着くだけの感情って、ある意味一目惚れしかないと思うんですよ。しかも、恋愛経験がほぼゼロと言ってもよくて、普段から自分を美しく見せようと思っているアイドルのタマゴには、いかにも一目惚れって憧れるものだと思うんですよ。そういう意味では、ターゲットとしてはうまく嵌ったというところだろうね」
 と、桜井は言った。
「ところで、由衣さんのお腹の中の子供って、どういう意味があったんだろう?」
 とさらに桜井が訊くと、
「そこは本当に想像でしかないんですが、由衣さんは、アイドルとの板挟みだったのかも知れませんね。自分がこれから這い上がるアイドルへの道はいくつかの段階がある。今までにもその段階をいくつも超えてきた。そういう自負があるのに、一向にゴールが見えない。そのことに永遠にゴールなんて見えてこないのではないかと思ったんですよね。前に進むにも無限、進んできた道も無限。自分が今どこにいるか分からなくなってきた。それが、彼女をノイローゼにようにした。そのために、マインドコントロールに走り、自分を啓蒙しつつ、ライバルを蹴落とす気持ちにもなってきた。そんな自分に嫌気がさしたのかも知れない。そうなると、男に走るというのもよくあることで、自分がまだ組織に利用されているのを知らず、好きになった男に対し、自分は何があっても尽くすという気持ちにもなった。まるで奴隷ででもあるかのようにですね。だから、その男に委ねて、一線を越えてしまい、過ちを犯しても、自分が悪いという気にもならなかった。それが、今のこのアイドルとしての大切な時期に妊娠などということになってしまった。ひょっとするとその時、あいりが由衣を陥れるという意味で、絡んでいたのかも知れない。もし、そうであれば、本当に因縁深い二人だと言えるのではないだろうか?」
 と、浅川は言った。
作品名:限りなくゼロに近い 作家名:森本晃次