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限りなくゼロに近い

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「毎日、制限ばかりの生活を強いられ、その中で女の子らしい自分がいるにも関わらず、そこには蓋をして、アイドルとしての仮面だけをつけたまま、これからも生きなければいけないと思うと、急に恐ろしくなってきたのかも知れないですね。アイドルは見られることには敏感で、人の視線には本当に過敏で神経質になるのに、自分から見るとまったく違う自分が二人いるような気がしているのかも知れない。それを思うと,、あいりさんの気持ちも由衣さんの気持ちも分かる気がするだけに、実におしいと思うんですよ」
 と、桜井が言った。
 さっきまでその場にいた紀一の姿が見えなくなっていた。
「どこへ行ったんだろう?」
 と桜井が言ったが、浅川には心当たりがあるようで、そそくさと病室の方に向かった。その病室には、川本あいりと書かれている。
 こちらに背を向けて、眠っているあいりの手を両手で握っているのは紀一だった。その背筋は結構折れ曲がっていて、もうすでに老人の様相を呈していた。
「君だけは、僕がこれからも面倒を見ていきたいと思うよ」
 と言って、完全に眠ってしまっているあいりの寝顔を覗きこんでいる。
 これが、由衣に対して何もしてあげられなかった紀一のせめてもの罪滅ぼしになるということであろうか。トカゲの尻尾切りで事件を終わらせないようにするためには、あいりの証言が必要になることもあるだろうが、その時、もし記憶が戻っていたとして、紀一は、浅川刑事と桜井刑事に対してどのような対応をするというのであろうか。
「限りなくゼロに近い」
 と言われるであろうが、もう二度と彼女たちのような被害者を出さないようにすることが、大切なのだと、その場にいた皆が感じていた……。

                  (  完  )



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作品名:限りなくゼロに近い 作家名:森本晃次