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限りなくゼロに近い

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「少し、捜査方針が微妙になってきましたね。殺人未遂事件と切り離して考えなければいけないのかも知れない。まずは、この事件に関していえば、犬嫌いの男と、彼女の交友関係の中で、あいりさんと共通の関係にある人を探すことも忘れないようにしないといけないな」
 と浅川刑事は言った。
「それともう一つ、産婦人科を探してみてくれないか? もし彼女が妊娠に気付いていれば、ひょっとすると産婦人科に行っているかも知れないからな」
 と浅川刑事がいうと、
「産婦人科が何かあるんですか?」
 と桜井刑事が訊いたが。
「もし彼女が妊娠していることに気づいたら、まずどうすると思う? 彼女は独身で、しかもアイドルなんだろう? アイドルというと、基本的には恋愛禁止というくらいに厳しい世界じゃないか。それが交際を飛び越して妊娠ということになると、彼女としてはどうだろう? 『はい、そうですか。妊娠したから、アイドルやめます』なんて、簡単にいくだろうか? まずは相手の男に心当たりがあるかどうかが先決で、心当たりがあれば、その男に子供ができたことを伝えるんじゃないか? そうすれば、どうなるか、もちろん、相手がどんな男かということにもよるんだけど、下手をすれば、修羅場になるか、あるいは、ボロ雑巾のように捨てられるかなどという悲惨な末路だってありえなくもない。ひょっとすると、今回の殺人も、子供ができたことで揉めたことが原因での、衝動的な殺人ということになるかも知れない」
 と浅川刑事が言った。
「なるほど、時々芸能ニュースやドラマなどでよくあることとして、相手の男が下衆な場合も十分に考えられますね。特にひどいのは、付き合っていたのは、相手がアイドルだから付き合ったというやつ。アイドルのタマゴと付き合っていれば、売れた時の自慢になるというくらいの考えのやつもいたりする。そんなやつに、子供ができたなんていうと、たぶん、罵られるのがオチでしょうね。他にも男がいて、その男の種だとか、俺と別れたくないから、妊娠したなんて言ってウソをついているんじゃないかなんて言って、罵るやつがね。それでもしつこかったら、アイドルだから付き合っていただけで、愛してなんかいないと言って罵倒すれば諦めるとでも思っているかも知れないですね。さすがにそこまで言われると、そんなバカ男から離れようと思うかも知れないけど、妊娠ともなると、そう簡単にはいかない。男としては話をしていて最初の方からいい加減ウザいと思っているのに、さらに食い下がってくれば、足蹴にでもしたくなるかも知れませんね。でも、だからと言って、絞め殺したりなんかしますかね? 確かに修羅場になるかも知れないのは想像できますが」
 と桜井刑事は言った。
「アイドルと妊娠。そして絞殺死体。これをいかに結び付けるか? それだけで結び付かなければ、川本あいりとの関係も洗う必要があるんだろうな。あくまでも我々が知っていることとして被害者の口から聞いた、二人は親友ということだけなんだ。川本あいりの方でどのように感じていたのか、今は記憶がない状態なので、彼女に聞くのは困難なのかも知れないが、他のアイドル仲間などに聞いてみる時に、二人の関係性と、被害者の男関係。そして、川本あいりが何かのクスリをやっているとすれば、暴力団関係、あるいは医療関係にも交友がないか、そのあたりも調べる必要があるだろうな」
 と浅川刑事が捜査の幅について語っていた。
 それについて異議のある人は誰もいない。
「じゃあ、それぞれに捜査の方、よろしくお願いします」
 と言って、捜査会議を終了した。
 浅川刑事は、すぐに、
「あっ、ちょっと」
 と言って、紀一を呼び止めた。
「佐々木さん、今からK大学病院に行ってみようと思うのですが、ご一緒しませんか?」
 と浅川刑事が言った。
「いいですよ。何か川本あいりに確認したいことでもあるんですか? 彼女の記憶は戻っていないんでしょう?」
「ええ、そうなんですが、少し確認したいことがありましてね」
 と言って、二人は、K大学病院に赴いた。
 あいりの担当医に話を訊きに行ったが、さほどの成果は得られないような気がした。
「川本さんの方はいかがですか」
 と訊かれて、
「毒の方はだいう抜けてきているんですが、記憶や精神的なものはまだ回復というところまでは来ていませんね」
 と医者が曖昧な言い方をした。
「今のおっしゃられ方だと、どうも曖昧な表現にしか聞こえないのですが、実際にはどうなんでしょう? 何か普通の記憶喪失ではないんじゃないですか?」
 と浅川刑事が訊くと、
「ええ、おっしゃる通りです、これは医学的に立証されているわけではないので、根拠のないことなのですが、警察の方の捜査に役立てていただければと思って自論をいいますが、彼女の記憶喪失は作られた記憶喪失ではないかと思うんです」
 と、衝撃的なことをわりとサラッと医者は口にした。
「どういうことでしょう?」
作品名:限りなくゼロに近い 作家名:森本晃次