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限りなくゼロに近い

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「ああ、その話は聞いていますが、それが何か?」
 というので、どうにもこの男では、話に埒があかないと思っていると、ちょうど奥から先輩と思しき警官が出てきて、
「どうしたんだ、一体?」
 と、今まで休憩していたかのようなリラックスした雰囲気で出てきた。
「いえ、この方がスマホを拾われたようなんですが、何でもおとといの上ねい公園での苦しみ出した人について聞かれたんですよ」
 と報告した。
 その時も、どうにもハッキリしない様子は、本当に義務として警官をやっているとしか思えないやつのようだった。
 だが、奥から出てきた警官は、しっかりとした警官で、紀一を見たその人はすぐに、
「失礼ですが、佐々木警部でありますでしょうか?」
 と言って、直立不動で敬礼した。
「いかにも」
 というと、
「これは失礼しました。確かこの間の救急車で搬送された時に、一緒に乗って行かれたのが佐々木警部であるということが書かれていたので、もしやと思ったのですが、やはりそうでしたか。ご苦労様です」
 と言われたので、
「いやいや、もう定年退職した身なので、私はただの一般市民ですよ」
 というと、さらに二人は恐縮しているようだった。
 若い方の警官がどこまで恐縮しているのか分からないところが、紀一にはあまり気分のいいものではなく。年を召した先輩警官であれば、少しは話しが通じるだろうと思い離し始めた。
「あの時、スマホが所持品の中になかったことは分かっているよね?」
 と聞くと、
「ええ、分かっています」
 と言われた。
「dえ、それから、あの公園をいろいろ探してみたんですよね?」
 と聞くと、
「ええ、探しました。これはどこにあったんですか?」
 と訊かれたので、その場所を説明すると、
「あの場所は探したんですよ。どうして見つけることができなかったんでしょうか?」
 と言われたので。
「ケイタイやスマホのような精密機械は水などに弱いですよね? 確か昨日、少し雨が降りませんでしたか?」
 と言われた警官は、
「そうですね。確か昨日は早朝に少し雨が降ったような気がします」
 というのを訊いて。
「私は、今早朝だけ、駅や公園で少しの時間、清掃のアルバイトをしているんですが、確かに昨日は道路とかが少し濡れていたような気がしたんですよ。それに少しだけ暖かかった。放射冷却ではなかったのだろうと思っていると、地面が濡れていたので、少し夜中に振ったのかなって思ったんですよ」
「ええ、その通りです。若干ですが降りました」
「そのスマホは濡れた後もないですし、壊れている様子もないでしょう?」
 と聞くと、
「ええ、壊れている様子は確かにないし、濡れた後もないですね。ということは、あの場から誰かがスマホだけを持ち去って、昨日の朝以降のあの場所に置いたということでしょうか?」
「そういうことでしょうね? 理由は分かりませんが、誰かにとって、そのスマホの中身を確認する必要があったということでしょうね?」
「まさか、あの服毒事件というのは、誰かがこのスマホの中身を確認するために、被害者が死なない程度に事件を起こしてその隙にということだったのでしょうか?」
「考えられなくもないが、いくら致死量ではなかったといっても、これは完全な殺人未遂ですからね。スマホを奪いたいだけで、わざわざそこまでするかどうかでしょうね。犯人にとって、それだけ重要なものが、そのスマホに隠されていたとも考えられなくもないからですね。難しいところだと思いますよ」
 と、紀一は言った。
「分かりました。とりあえず、これはK警察にお送りして、中身の確認をしてもらいましょう。だけど、スマホってロックが掛かっていた李すると開かないんでしょう?」
「ええ、そうですね。でも、誰のものかなどということくらいは分かるんじゃないでしょうかね?」
 と警官は言った。
「それではさっそく手配しましょう」
 と言って、K警察刑事課に、連絡を取っているようだった。
 電話に出たのは浅川刑事のようで、話をしているうちに、こちらにスマホが届けられ、それを届けたのが紀一であることを告げると、
「なんですって?」
 と、少し驚いたような声を発した警官は、その視線をそのまますぐに、紀一に向けた。
 電話を切ると、
「佐々木さん、今のは浅川刑事だったんですが、どうやら、また事件があったようです。今度は本当に殺されたようで、被害者はこの事件に関係のある人だということです。浅川さんがもしよかったら、佐々木さんをcこちらに連れてきてほしいというのです。もちろん、スマホも一緒に持ってですね」
 というではないか。
「ええ、分かりました。私も何か胸騒ぎがします。ご一緒しましょう」
 といい、パトカーに乗り込んだ。
 今朝の夢といい、何か虫の知らせを思わせる何かを感じていたのを思い出した。
――あんな思いしなければ、おかったのにな――
 と、紀一は考えた。
 何がどうなったのか、ハッキリと分からないが、急いでも十五分はかかるK警察署にまた行くことになるとは。
 定年退職してからはほとんど足を踏み入れたことはなかったのに、ここ数日で二度目の来訪というのもおかしなものだ。
 刑事課に行くと、捜査本部の方はバタバタとしていた。先ほどの電話で伝わらなかった臨場感を今味わっているような気がする。

                 紀一の落胆

「浅川君、殺されたというのは、誰なんだね?」
 大方の想像はついているが、直接警察の人間の口から聞かないと信じられないという思いがあった。
 自分が刑事をしている時は、被害者の身内や家族が、おかしな言動をしたり、本当に幼稚なことを言ってみせたりしたのを、仕方のないことだと思いながらも、心のどこかで、嘲笑していたとことがあった。だが、自分が民間人になって、一般人の立場から警察を見ると、どれほど警察が冷ややかに見ているものかを当事者が考えているかということが分かった気がした。
「実は殺されたのは、この間佐々木さんと一緒に出頭してくれた坂口由衣さんだったんですよ」
 というではないか。
「やはり」
 と口では言ったが、最後通告を受けるまでは、本当に信じられない思いだったのだが、こうなったら、何とかかたきを討ってあげたいと思うのだったが、今では自分は民間人、警察に協力することくらいしかできない。
 しかも、警察の方はいかにこちらが元刑事であるとはいえ、重要なことは何一つ話してくれないだろうから、勝手に動くわけにもいかない。もっとも、警察が話さないのは、プライバシーの問題と、関係者の勝手な行動を戒めるという意味もあったからだ。
 被害者が逆上した気持ちで、勝手に犯人だと思い込んだ相手に仕返しを行うかも知れない。もし、その相手が本当の犯人であっても、犯人でなかったとしても、今の世に復讐は許されているわけではない。
「目には目を、歯には歯を」
 相手を傷つけてしまったら。その時点で、その人は犯罪者でしかないのだ。
 そんなことは、自分が一番百も承知のはずである。それなのに、この苛立ちはなんであろうか?
 警察に対して、どこか敵視してしまうのと、距離を感じるのは、そんな思いがあるからであろうか。
作品名:限りなくゼロに近い 作家名:森本晃次