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永遠のスパイラル

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 自分以外であれば、傀儡などという意識すら感じることなく、何ら疑いを持つこともなく、自然に意識することはないのだろうが、桜井は自分だから感じるということに、違和感どころか、明らかな浅川刑事の策略を感じるのであった。
――さすがというべきか、そこまで私を慕ってくれているのか?
 と感じると、感無量な気持ちになるのだが、逆に責任重大でもあった。
 これはプレッシャーにもなることだ。どこまで浅川刑事が桜井刑事のことを理解してやっていることなのか、それが分からないと、自分がこの事件での浅川刑事の演出をぶち壊してしまうのではないかと思う怖くなってくるのも事実であった。
 だが、この感覚は今に始まったことではない。今まで何度となくコンビを組んで、そのたびに事件を解決に導いてきたではないか。いつも浅川刑事の冷静な推理力には感服するしかなかったのだが、そのたびに、浅川刑事がシャーロックホームズであり、自分がワトソンになったかのようで、日本でいえば、明智小五郎に対しての、小林芳雄少年のようなものだと言えるのではないだろうか。
 そんなことを感じてると、
「この事件は結構早く解決するような気がするが、どのような結末を迎えるかというのが、微妙でデリケートな部分を孕んでいるような気がする」
 と感じていた。
 さらに浅川は続けた。
「話がちょっと飛ぶかも知れないのだが、たとえば 戦争というのは、よく言われることとして、『始めるのは簡単だが、終わらせるのが難しい』というではないか。また、明治の元勲の中には『旧体制を破壊するのはたやすいが、新たな体制を築き上げるのには、何倍もの労力と時間を要する』という話も聞いたことがある。一つの目的を達成すれば、そこで終わりなのかどうか、そこが難しいところでもある。そこを見誤ると、袋小路に入ってしまう、下手をすると、それが犯人の狙いではないかと思われるのではないだろうか」
 と、いうのだった。
 その思いは桜井にもあり、
「確かにそうかも知れませんね。例えば伝染病が流行った時に、それを抑えるためにロックダウンなどをやって、ある程度蔓延を防止することに成功したとしても、そこがゴールではない。そこがスタートだという人もいます。そういう意味では入学試験などにも言えることであり、この発想は、いろいろな社会の中に潜在しているものではないかと思うんですよ」
 という持論を展開した。
 それを聞いて、河合刑事と福島刑事は衝撃が走ったようだ。
――この人たちはここまで考えていたんだ。自分たちにこれからここまでになれるであろうか?
 という思いである。
 二人にもそれぞれにこの事件の中で思い入れがあった。
 福島刑事は、かつてトラウマになった冤罪事件の犯人と思しき男の顔を思い出さされて、その男がしかも、整形の顔だったということはこれほど衝撃的なことはないだろう。
 河合刑事にしてもそうだ。
 自分に直接関係はないかも知れないが、かつての同僚であった倉橋巡査が、何か事件の重要なところで絡んでいると思われるのである。下手をすると、先輩を信じようとする気持ちと、刑事としての使命感とがジレンマとなって襲ってくるかも知れないからだ。
 そのことは今の直接の先輩である浅川刑事にも桜井刑事にも分かっている。しかし敢えて何も言おうとはしない。
 これは優しさなのかどうなのか、河合刑事も福島刑事も考える。優しさだとしても、
「愛のムチ」
 に近いものではないかと思われるのだ。
 浅川刑事は少し考えているようだった。ここまで一気に解明したかのように思えているが、本当に妄想であって、状況証拠にもなっていない。辻褄が合っているかどうかすら分からない。ただ、あの場面での浅川刑事の謎解きは、かなり信憑栄を感じさせるものであった。
「じゃあ、社長と加倉井さんが殺されたというのは、秘密がバレそうになったからとか、そういう理由ですかね?」
「それはあるかも知れないけど、社長の場合は少し違うかも知れない。逆にまったく別の理由が存在し、社長の秘密を知ったことで、その秘密に関わることとして事件をミスリードしようとしたのかも知れない。だからしなくてもいい密室を作ってみたりしたのは、そのせいではないのかな?」
「というと?」
 と桜井刑事が訊いた。
「密室殺人というのは、別に密室にしたことで、犯人が得をするという塀要するトリックでないといけないと思うんですよ。たとえば、時間稼ぎであったり、アリバイ作りであったりですね。でも、この事件において、アリバイや時間稼ぎなどの理由が見当たらないんですよ。ただ単に密室に仕立てたというだけですね。本当はそのことを看破された時点で、疑いはほぼ内部犯行に向くじゃないですか。衝動的な殺人でないことも確かだしね」
 と浅川刑事がいうと、
「じゃあ、あの台所のあの匂いは何だったんですか?」
「あれは、被害者が整形していないということを示すために使われた薬品を処分したんじゃないのかな? 前の時は開発されていなかったけど、今回は一歩進んで開発された。しかし、その使用した薬品の処分までには時間がなかった」
 という浅川刑事に対して。
「では、どうして犯行を延期しようとは思わなかったんですか? 別に延期するだけのことだったんじゃないでしょうか?」
 と、桜井刑事は言った。
「それができない可能性があったのでは? 例えば、犯人がこの家を追い出されそうになっているとすれば?」
 と言って、浅川刑事は手に一枚の封筒を都市出した。
 そこには、山下女史の名で、退職願なるものがあった。
「内容は、普通のものだけど、この退職願は大きな意味を持っているんですよ。涼音さんは、山下さんが辞めようとしていることはご存じでしかた?」
 と訊かれて。
「いいえ」
 と答えて、涼音は山下女史の方を見た。
「ここから先は男女のプライベートな話になるでしょうから、あまり私の口からいうことは控えたいのですが、それを今回の大きな組織の仕業のようにしようとしたのであれば、そこは問題だと思ってですね」
 というと、山下女史はたまりかねたのか。
「そんなことではありません。社長は組織に対し、私のことを人身御供にしようとしたのです」
 と言って、鳴き臥せった。
「私は、社長のことを尊敬もしていたし、好きでしたから、社長の言うとおりに身体も任せてまいりました。しかし、それが実は私を人身御供にするための最初からの計画だということに気が付いた時。すぐに私は目が覚めました。このままだと何をされるか分からない。殺されるよりも怖いことになるかも知れないと思った時の私の狼狽。想像できますか? 社長を亡き者にするためには、それくらいのことをしても当然ではないでしょうか? それを誰にも何も言われたくないというのが、私の今の心境です」
 と吐き捨てるように言った。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次