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永遠のスパイラル

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「ええ。私はそう思っています。やつらは、詐欺グループの協会のようなものを地域で作っていて、それを全国的にまとめている集団もあるんです。そこがどうやら、このあたりの開発をしていて、サイバーテロによって、警察のコンピュータに潜入して、そこで情報を得ていたというふしがあります。そこは、サイバー犯罪の部署が今当たっています」
「じゃあ、詐欺グループも、サイバー詐欺として、捜査をしているということですか?」
「ええ、韮崎刑事などのグループが、日夜、捜査に当たっているところですね」
 という話を鑑識官から聞いて、ドキッとした気持ちになったのは、福島刑事だった。
「じゃあ、私が冤罪ということにされたのも、やつらの最初からの計画だったということなのか?」
 と思ったのだ。
 なるほど、大きな詐欺グループが暗躍していて、それを知らずに、警察の通り一遍の捜査や精神論などで、太刀打ちできる相手ではなかったということだ。そう思うと、悔しいというよりも浅はかだった自分を嘲笑してしまいそうになる自分を感じていた。
「そしてですね。もう一つなんですが。ここの台所から摂取された薬物ですが。臭いに関しては有毒物質を含んでいますが、実際に触る分にはそこまではありません。ただ、皆さんも感じられたと思いますが、ホルマリンの匂いと、酢酸の臭いが交互にしましたよね。実はあれはそれぞれ、元々警察が極秘で開発していた薬物で、詐欺グループがノウハウを持っていると思われる変装用の薬物なんですが、それぞれに都庁はあります。未完成だったというのは、人間の細胞が死んでしまうと、その効果は消えてしまい、しばらくすると、元の顔が復元できるという特徴があるんです。だから、この間の整形を施された死体も、顔の復元はだいぶ進んでいます。そこで起こったのが、こちらの殺人であり、そして、台所から匂いが充満してきた。これがどういうことなのかと思ったのですが、あの薬品を混ぜることによって、溶解効果があるんです。つまり、それを使って密室に仕立てることができるということです」
 と鑑識官が言った。
「なるほど、だけど、問題なのはそこではなく。つまり、どうやって密室を作ったのかということではなく、密室にする必要があったのかということですね。確かに、捜査陣を惑わせることはできるでしょう。でも、その理由はどこにあるのおでしょう? いたずらに時間稼ぎをするくらいしか思い浮かばない。その間に高跳びを企んでいるとか、他の犯罪を計画しているのだとすれば分からなくもないけどですね。それを考えると、やつらの本当の目的はどこにあるというのか? 今見えていることだけを考えると、加倉井氏と思しき人物の殺害なのか、それとも、こちらの中西社長の殺害なのか。それともこれは単に何かの犯罪の序章でしかないのか。要するに、動機がまったく分からない、そのために、全貌が見えない犯罪だということになるんだよね」
 と浅川刑事は話した。
 その話は、その場にいる人たちにそれずれ驚愕を与えた。警察関係ではない、山下女史や涼音にまで分かるように話をしているのは、普通なら考えられないことだ。捜査に関する重要な話で、しかも警察内部に絡んでいる話ともなると、このようなデリケートな話を訊かせるわけにはいかないだろう。それでも、浅川刑事は聞かせた。そのことを一番気にしているのが、河合刑事だった。
――何だって、浅川刑事はこの二人にこだわるのだろう?
 という思いである。
「秘書をされていた加倉井さんがこちらにいられないので分かりかねるかも知れませんが、こちらに警察関係者の人が訪ねてくるということはありませんでしたか?」
 と、これはまったく何も期待せずに聞いた浅川刑事の質問だった。
 だが、戸惑っている山下女史とは対照的に、間髪入れずに涼音は答えた。
「ええ、それらしき人が訪ねてこられたことは、何度かありました。私は一度、警察署長さんと思しき、初老の制服警官の方が来られているのを見ています。貫禄があり、しかも、父が敬意を表しているようだったので、それなりの立場の人だったんでしょうね。父という人は、自分から見た相手の立場を態度にする人なんです。だから、父の態度を見ていると、おぼろげに相手の人の地位などが分かることがよくありあした。だから、あの警察関係者の方は、たぶん立場からすれば、県警本部長くらいの方ではないかと思うんです」
 と、彼女は言葉では曖昧そうに話してはいるが、かなりの自信を持った言葉だということを感じさせた。
 それを聞いた桜井刑事が、
「県警本部長といえば、東京でいえば、警視総監クラスの人だということですね」
 と言ったが、
「ああ、そういうことだ。たぶん、中西社長というのは、組織の中でもかなり上のクラスではないかと思われる。そんな人が敬意を表する警察官といえば、それくらいの地位にいる人でないとありえないことだろうな」
 と言いながら、苦々し気な表情をした浅川刑事だった。
 それは、あまりにも相手が大きすぎるために、どこまでこの事件を解決に導けるかという思いと、しょせん自分たちでは、大きな権力の前ではできないことを実感させられるだけだという思いが頭をよぎったからである。
 テレビドラマの刑事ものなどでは、そんな強大な権力に立ち向かう一刑事が描かれるが、それはあくまでも幻想であって、現実にはありえないだろう。
 もちろん、ドラマでも限界を示していて、そこをテーマに描いているものも少なくはないが、それはあくまでも、警察というものの裏を暴くだけで、しょせんはマイナスイメージを持たせるだけのものではないだろうか。
「それにしても。この事件の裏には何が潜んでいるというのか、何とも言えないが、見えている部分だけを整理しないと前に進めないのは間違いないことなんでしょうね」
 と、桜井刑事は言った。
 さっきから、河合刑事は、倉橋巡査の様子がおかしいことに気づいていた。
「どうしたんですか? 倉橋さん、少し顔色が悪いですよ」
 というと、
「ああ、大丈夫だよ。さっきの有毒物を吸い込んだことで、少し気分が悪くなったのかな?」
 と答えた。
 この二人の会話は、大っぴらに行われたものではなく、桜井刑事と浅川刑事が思案しながら会話しているその中でのものであった。
「少し、別室で休まれたらいいんじゃないですか?」
 というと、倉橋巡査は、
「うん、そうさせてもらおうかな?」
 といい、歩き始めると、
「皆さんには私から説明しておきます」
 という河合刑事の耳打ちを訊いて、手を挙げてそれを制しながら、別室へ引き上げていった。
 会話が白熱していたせいか、この二人のやり取りを気にしている人はいない。ここで倉橋巡査一人がいなくても、何ら問題ないと言ったところであろうか。
 だが、これは、この場にいた人たちの策略であったことを、その時の倉橋巡査には分からなかった。
 倉橋巡査が退室してから、河合刑事から倉橋巡査の話が出ることも、他の誰からも倉橋巡査の話題が出ることもなかったのである。
 とりあえず、事件考察の場において、並行してこのようなやり取りが行われていたのだが、それを気にする人は誰もいなかったということである。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次