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永遠のスパイラル

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 それを聞いて、何が言いたいのか分かった気がしたが、せっかくの演出なので、分からない風を装うようにしていた。
「というと?」
 と浅川が訊きなおす炉、涼音は得意になったかのように、
「だって、被害者の顔が分かっているんということなんですよね? それなのに、どうして今まで被害者を特定できなかったんでしょうか?」
 と言った。
 このことは、ちょっと考えれば分かることであるが、その発想は、見方を変えなければできないことである。この見方を変えるという発想は、ちょっとした距離でありながら、限りなく遠い存在でもあった。
 近くにある月に手を伸ばせば届くのではないかという発想と同じなのかも知れないと、涼音は感じていたのだ。
 浅川刑事は涼音を見ていると、
――この女性は、人と発想が若干変わっているので、違った視線から見る場合には重宝しそうだな――
 と感じ、
――こんな部下や同僚がいてくれたら、いいかも知れないな――
 と、刑事にしたいくらいの気持ちを抱いていた。
 浅川刑事はその話を訊いて、本当は極秘にしておくべきかも知れないが、涼音には敢えて聞いてもらいたいという思いから、話をした。
「実はですね。あの死体には整形手術が施されていたんですよ。死後数時間経った時、見た目にも違和感があり、その時整形をしていることを、感じたという話を訊きました。そして実際に鑑識の発表でも整形手術を施されているという話だったので、間違いないと思います」
 という浅川刑事に対して、
「じゃあ、あの人は整形している顔だったということでしょうか?」
 と、この話にはさすがに衝撃を受けたようで、興奮気味の涼音であったが、それを聞くと、彼女の中で、加倉井に整形を感じさせるものは一切なかったということを医師三していろと思った。
 ということは、死後にならないと、整形がバレるようあことはないということなのだろう。それだけ、生存時には、まったく気づかれないほどの腕の持ち主が手術を施したということなのだと、浅川は感じたのだった。

               異臭の正体

「あの人が整形していたなんて……、山下さん、気付いていましたか?」
 と訊かれた山下女史は、
「いいえ、まさかそんなことは知りませんでした」
 という話を訊いて、また涼音が少し反応した。
「ということは、知っていたとすれば、それは死んだお父さんだけだったということなのかしら?」
 というと、
「そうかも知れませんね。秘書という立場上、まったく知らないというのは、その方が却っておかしい気がするんですよ。それを思うと、今度の事件も、あの時の事件と何か繋がっているのではないかと思いますよね」
 と河合刑事はいった。
「少なくとも、被害者と加倉井氏が同一人物だったということになれば、まったく無県警ということはありえないでしょうが、どこまでどのように結びついてくるか、そこが問題ですね。もっというと、今回の事件がなければ、もっと長い間、あっちの事件の被害者が分からずじまいになって、どんどん、事件の解決の可能性が限りなくゼロになってしまうんですよ。だから今回の事件は、どちらの事件に対しても大きな意味を持っているということであり、桜井刑事の意見も聞いてみたい気がするんですよ」
 と、浅川刑事は言った。
「この事件が本当に偶然ではないんでしょうか?」
 という涼音に、
「何とも言えませんね。ただ、限りなくグレーであるとは思いますが」
 と、浅川刑事這は言った。
 それを聞くと、先ほどよりも少し目が血走っているかのように見えたのは気のせいであろうか。少なくとも、父親が死んだことに対しての興味よりも、加倉井が謎の死を遂げたかも知れないという方に興味をそそられたのは間違いない。
――ということは、彼女は、父親が死んだということではまったく見えていなかった事件の真相が、加倉井氏が殺されたということで、何かの進展があると思い、俄然興味を持ったということになるんだろうか?
 という思いがあった。
「加倉井さんというのは、どういう人だったんですか? 同じ家に過ごしていたわけですから、少しは分かると思うのですが、確か一年ほどご一緒だったということでしたね?」
 と浅川刑事がいうと、
「ええ、そうです。でも、ほとんどご主人様とご一緒だったので、家で私たちと面と向かうことはほとんどなかったですね」
 と、山下女史が言った。
「ということは、皆さんがご主人を含めた団欒の時には必ずそこにいて、逆にご主人がいない時は、いなかったという解釈でいいんでしょうか?」
 と、浅川が訊くと、
「ええ、その通りです。その指示に関してはすべてお父さんが仕切っていたので、私たちは逆らえないという感じでした。お父さんは、基本的に家にいる時は自分が仕切っていないと気が済まないタイプだったので、山下さんも大変だったと思います」
 と今度は、涼音が答えた。
 どうやら、二人の間には暗黙の老獪のようなものがあり、どんな質問があれば、どちらが答えるというようなものがあり、答えなかった片方がそれを聞いて、補足をするというようなそんな関係ではないかと思えたのだ。
 それを感じたのは、今の話が初めてではなかった。もっと早い段階で気付いていたのかも知れないが、それはきっと、涼音の気持ちが浅川に近づいてきたという感覚があったからだろう。
 実は、この写真を見て、
「写真に写っているのが、この間殺害された人物だ」
 と感じた倉橋巡査は、そそくさとその場から退室し、別室から署に電話を入れていた。
 もちろん、このことを捜査本部に連絡するためであり、もし自分の勘違いであったとすれば、大変なミスを犯したことになるので、自分だけの目ではなく、実際に立ち会った桜井刑事、福島刑事にも確認してもらおうという意思があってのことだった。
「そうか、分かった。ありがとう、今からそっちに向かうことにする。たぶん、三十分はかからないと思う。すまないが、それまで浅川刑事や河合刑事、そしてもちろん、君もその場にいてもらうようにできないだろうか」
 と、桜井刑事はそうお願いした。
「ええ、承知しました。そのようにいたします」
「それじゃあ、任せたよ」
 ということで電話を切ったのだ。
 倉橋巡査としても、自分の言葉が重大であったことは認識している。
――ひょっとすると、あそこで言わない方がよかったのかな?
 と感じたほどで、そういう意味で、後悔の念が襲ってきているようであった。
 倉橋巡査は、河合刑事のように、刑事課に赴任を希望しているわけではない。実際にはかなり年齢も過ぎているので、いまさら刑事になろうとは思わなかった。それよりも、庶民との関係を濃密にして、
「市民から愛される警察官」
 というような、まるで巡査の鑑のような言葉を頭に浮かべて、それをモットーに生きて行こうと思っていた。
 しかし、それでも今回のように、殺人事件のような重大事件に関わることも多いだろう。逃げるわけにもいかず、できるだけ目立たないように、表に出ている刑事の手伝いができることを考えるだけだった。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次