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永遠のスパイラル

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 確かに捜査員と、被害者の家族という関係であるが、二人はそれだけではないような気がしていたのだが、その甘い空気を他の二人、河合刑事と倉橋巡査には分かっていなかった。二人は待っている間に、会話はしなかったが、かつての先輩と後輩という懐かしさから、アイコンタクトを交わす時間を持っていたのだった。
 河合刑事は今は刑事として、巡査よりも立場としては上になってしまったが、だからと言って、倉橋巡査のことを下に見るなどということは決してなかった。
 それどころか、
――自分に警察官としての思いを感じさせてくれたのは、倉橋巡査だ――
 という思いがあった。
 河合刑事も、気が弱いところもあり、警察官になったはいいが、毎日、
「自分に務まるのだろうか?」
 とずっと悩んでいる時期があった。
 それを、倉橋甚さがいろいろ心構えから教えてくれたのだ。
「警察官というのは、本当に自分のことよりも、市民優先に考えることが大切なんだよ。ほら、よくテレビなどで、交番に道を訊きにくる老人がいたりするだろう? 優しく教えている警察官を見て、ホッとした気分にならないか? 刑事ものなんかで、活躍する刑事とはまた違う意味で、グッとくるものがあるのさ。だから、ホッとした気分にさせられるという意味で、ああおいうシーンを織り交ぜたりするんだろうな」
 と言っていた。
 河合刑事は、もっとシビアに見ていたのだが、
「そういうことではなく、警察の内部事情に切り込むようなドラマを作ると、警察のイメージが悪くなることで、中和剤としええ、巡査が活躍する刑事ドラマだってあったりするんじゃないかな? これもあざといということなんだろう」
 と思っていたので、倉橋巡査の話を訊いて、
―ーなんて都合よく考えるんだ。まさに僕に言い聞かせるために考えたかのようじゃないか――
 と最初は思っていた。
 だが、倉橋巡査と一緒に仕事をするようになってから、その思いが少しずつ変わってきた。
――倉橋さんの最初に言っていたことは、まんざらでもないんだ。都合のいいことを並べているかのように見えたけど、それだって、真実だから、口にできたことなんだ――
 と感じるようになったのだ。
 その時から、倉橋巡査の背中を見て仕事をするよういなったが、同時に、刑事に対して圧倒駅な劣勢が感じられたことは、大きな違和感だった。そこで、
「俺が刑事になって、巡査たちが仕事をしやすいように、導いてあげるんだ」
 と感じるようになったのだった。
 そんな思いを胸に、河合刑事は、仕事の合間にも勉強を重ね、昇進試験に受かり、刑事課勤務を拝命した。倉橋巡査は、そんな部下を見て、誇らしげに思っていたに違いない。お互いに、尊敬しあう関係。これほどうまくいっている関係もないものだと、二人はそれぞれに感じていたのだ。
 そんな感情を抱いていると、別室から写真が見つかったのか、山下女史が戻ってきた。
「お待たせしました」
 と、言って、写真をテーブルの上に提示した。
 その写真は、この屋敷尾庭で撮影したのか、真ん中に社長、それを囲むように、皆笑顔で映っていた。
 その写真の奥には。大きな松の木があり、その手前には綺麗に生えそろった芝生が、いい具合に生えていた。その奥にはさらに池があり、池のほとりに東屋のようなところがあった。いかにも日本家屋の庭園を思わせ、思わず、庭園の方に目が行きがちになるところだが、今日の目的は違っていて。そこに写っている秘書の加倉井を探すことだった。
 皆の顔を見ると、山下さんが映っている。社長と反対隣には、娘の涼音が映っていた。そして、その後ろに映っている一人の男性。これがどうやら秘書の加倉井氏のようだ。
 さすがに秘書というだけあって、控えめに写っているのを見ると、
「元々、暗いタイプなのかも知れない」
 と思ったが、声には出さなかった。
 その時、浅川は一瞬、
「おや?」
 と感じた。
 他の人が感じているかどうか分からないが、浅川が感じたのは、
「この写真、誰が撮ったのだろう?」
 という思いだった。
 自撮り棒で撮ったという雰囲気ではない。誰の手も、すべて写真の中に収まっている。それを思うと、
――まさか、昔のカメラの自動シャッターで撮ったのかな?
 とも思ったが、そうではないことは分かっている気がした。
 本当はそれを聞いてみようかと思ったのだが、それを聞くのはこの場においてタブーに思えたのは、どうしてだったのだろう?
 この写真をみんなで覗き込んだのだが、警察関係者の中で一番訝しい表情をしていたのは倉橋巡査だった。それに気づいた河合刑事が、
「倉橋さん、どうしたんですか? 何か気になることがあるんですか?」
 と言われて、ハッと我に返って、河合刑事を睨むように見つめたその顔は、まるで助けを求めているような感じだったので、さすがの河合刑事もドキッとした。明らかに尋常ではないと言わんばかりであった。
「この写真の後ろに写っている男性が、秘書の加倉井さんなんでしょうか?」
 と聞くと、山下女史と涼音は顔を見合わせると、今度は二人が訝しい表情になった。
 しかし、我に返ったとはいえ、顔色は真っ青で尋常ではない精神状態にいる倉橋巡査を見ると、胸騒ぎを起こさないではいられなかった。
「じ、実は、ここに写っている加倉井さん。私は見たことがあります」
 と、倉橋巡査は言った。
 見たことがあるというだけで、ここまで顔色が変わるというのはおかしい。緊張感を持ったまま浅川刑事が訊いた。
「どこで見られたんですか?」
 と聞くと、
「実はですね。二週間くらい前ですか。河川敷で見つかった刺殺事件をご存じですか?」
 と倉橋巡査が訊いた。
「ああ、桜井君が捜査している事件ですよね。確かまだ被害者が特定されていないという事件ですね」
「ええ、そうです。あの事件は特殊で、かなり難しい事件だという話は聞いているんですが」
 という倉橋刑事がそこまでいうと、浅川刑事は何かを悟ったような気がした。
「まさか、ここに写っている加倉井氏の写真、あの時に発見された被害者だったなんていう話じゃないでしょうね?」
 と、言った。
 あまりにも突飛な発想だったので、言葉にするのも迷ったが、言葉にしないと進まないような気がしたので、口にしたのだった。
「えっ、ということは、加倉井さんは誰かに殺されていたということですか?」
 と言ったが、それを聞いて、二人は、さほど驚きがないようだった。
 唖然としているかのようにも見えるが、それよりも、最初から分かっていたのではないかと思うようになったのだった。
 加倉井が殺されたということは警察の方では衝撃かも知れないが、それ以前に、主人が死んでいるのである。その時点でショックが大きかったということであろう。
「まさか、加倉井さんが殺されていたなんて思ってもいなかったんですが、少し不思議に思ったのですか……」
 と涼音は言いかけた。
「どういうことでしょうか?」
 と浅川が訊くと、
「いえ、あのですね、先ほど被害者は特定できていないとおっしゃいましたねよ? それなのに、この写真を見て、加倉井さんが被害者と一緒というのは変じゃないですか?」
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次