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永遠のスパイラル

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「社長の娘という目で見るんです。上司は、明らかにおべんちゃらを使ってきて、私に渡英慰労とするのが分かるし、後輩や部下は、そんな上司を私も含めて毛嫌いしてくるのが分かるんです。若い頃は上からのおべんちゃらだけだったので、まだ何とかなったんですが、さすがに、部下や後輩の妬みには耐えられなくなって。鬱状態に陥ったんですよ。それで、しばらく入院を余儀なくされて、思い切ってお父さんに相談したんです。するとお父さんはそんな私の気持ちを分かってくれて、それなら家にいればいいと言ってくれたんです。私も退院してから、少し自宅療養をしてから、社会復帰を考えたんですが、一度精神的な病で入院することになると、新たに社会復帰というのは、思ったよりも精神的にきついんです。それで、今はズルズル家にいるというわけなんです」
 と話してくれた。
「そうですか、いや、言いにくいことを話してくださって恐縮です。今のお話を伺っていると、やはり加倉井さんが不在というのは、かなりお寂しかったんでしょうね」
 と浅川はいった。
 本当はその後、
「一度精神を病んでしまったこともあって、今回のお父さんの死についてはショックが大きかったことでしょう」
 と言おうとしたが、言わずに正解だったということに、浅川は気が付いた。
 さすがに、鬱病で入院というと、かなりギリギリのところまで我慢していたということであろうか。女性というのは、よほど信頼できる相手がいなければ、自らの気持ちを人に打ち明けることなく、家に籠らせてしまうようだ。そして、ある程度まで限界に近いところまでくると、そこから先は性格が出るという。
 つまりは、我慢できなくなった場合をそのまま直接相手ぶつける人、ぶつけられた方は何が起こったのか分からないかも知れないが、本人にとってはそれが一番であろう。夫婦が離婚する場合などで、どちらかが一方的に切り出して、そのまま押し切るように離婚するパターンがあるというが、まさにこれではないだろうか。
 そういえば、離婚した友達に言われたことがあった。
「男女の仲は難しい。女というのは、何も言わずにギリギリまで我慢して、どうしようもなくなって初めて爆発するものなんだ。だから男の方とすれば、対処どころか、まったくの寝耳に水の状態で、何をどうすればいいのかなどということを考える余裕もない。何しろ、体勢を整えることすらできないのだから、本当にやってられないよな。男の方とすれば、そんな不意打ちを食らわされると考えてしまう。このままうまくいい繕って、その場をうまく収めることができたとしても、また同じことが起これば、今度はどうすることもできない。一度の延命が次には、修復できない形を作ってしまうくらいなら、ここで別れた方がいいと思う人もいるんじゃないかな? 逆に、男が開き直ったことで、女性も我に返り、自分がとんでもないことをしたと気付く人もいるだろう。だけど、今度は男性が完全に冷静になって、関係が冷めてしまったことを自覚してのことなので、こうなってしまうと、もう修復することは不可能なんじゃないかって思うんだ」
 と言っていた。
 その話を訊いて、身につまされた思いがした浅川は、男女の関係については、今はあまり考えたくないと思ったほどだった。
 浅川はまわりにファンが結構いるのだが、実際のプライベートでは、女性との付き合いは極端に少ない方だった。
 学生時代に、数人と付き合ったことがあるくらいで、警察に入ってからは、女性を付き合ったことはない。新人の頃に、合コンに呼ばれて行ったことはあったが、カップルになることもなかった。いつも人数合わせの一人として呼ばれるだけで、
――どうして、皆、俺を誘うんだろう?
 と思ったが、どうやら、ぴエルにさせられていたようだ。
 合コンに行って、こちらが警察官だというと、相手の女性は結構引いてしまうことが多く、それをトラウマのように皆が感じてしまったことで、誰かトラウマにならないようなやつを一人参加させればいいということになって、その白羽の矢が彼に当たったのだ。
 浅川は、大学時代から雑学などの知識も豊富で、歴史の話など、本来なら難しいと思われるような話でも、面白おかしく話すことができることが、合コンのメンバーとしては最高だったのだ。
 しかも、彼には合コンに出席しても、女性目当てではないところが、合コンを合コンとして楽しんでいる連中にはありがたかった。そういう意味でも、浅川は結構、女の子には人気が出てくることになるのだった。
 真剣に刑事をやろうと、浅川も最初から思っていたわけではない。熱血漢でもない浅川が警察に入ったのは、公務員を目指していて、入れるところが警察だったというだけのことで、
「警察官になるんだ」
 と、ずっと思っていた連中に対しては失礼だと思うが
「就職先を決めるなんて。しょせんはそんなもので、ほとんどの人が、消去法で、入れるところに入るだけ」
 ということではないかと思っていた方だった。
 今でもその気持ちに変わりはないが、警察を目指してやってきた連中と仕事に対する姿勢は変わりがないくらいになっているという自負はある、しかも、最初の志望動機は不純であったかも知れないが、実際に勤務してみると、
「これが俺の天職なのかも知れない」
 と感じるようになり、
「もし、他の道を歩んでいたとしても、同じ気持ちになったかも知れない」
 とも思ったが、それはそれでいいことのように思えた。。
 これが、浅川の浅川のゆえんで、だからこそ、まわりが浅川に対して信頼感を抱いているのだろう。
 涼音の話を訊いていて、自分がラッキーだったのかも知れないという思いと、これが自分の性格だという思いとが交錯している状態で、浅川はきっと優しい目を涼音に浴びせていたことだろう。
 そんな浅川の性格を、涼音という女性は看破していたようだ。涼音を見ていると、彼女もあまり男性と付き合いをした様子はなく、それは、浅川が自分だから分かるという風に感じているのであった。
 涼音はそんな浅川に対して、
――この人は、私が最初に抱いた好感を、まったくすり減らすことなく、私のそばにいてくれている――
 と感じたのだ。
 つまりは、いつも涼音は男性を見る時、なるべく一番いいところから出発させる。涼音にとて百パーセントに見えるところであるが、その部分を減算法にしてしまうのが、涼音の今までの男性の見方だった。
 今回の浅川に対しての、百パーセントの部分が、本当に百パーセントに限りなく近い形だったということを自覚しているからなのか、減算法をしようとしても、ほとんど、百パーセントから減ることはないのだった。
――こんな男性は私にとって初めてだわ――
 という思いを次第に抱くようになっていた。
 それが、あざといと見られるかも知れないが、甘えたような言い方をすることだったのだ。
 あざとさは、浅川に伝わったようだったが、そのあざとさだけではなく、彼女の真にある気持ちが浅川には垣間見れたことで、完全に自分が恋心を抱いているということを感じてしまっていた。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次