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永遠のスパイラル

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 桜井刑事にとっての最初の事件は、結構ややこしい事件であり、冷静に考えなければ、犯人の術中に嵌ってしまうところである。たぶん、浅川刑事の冷静な考えがなければ、犯人に海外に逃げられてしまい、下手をすると迷宮入りということになってしまっていたかも知れない。
 事件自体はかなり大きな影響を社会に与えていたので、解決できなければ、警察のメンツにも関わるというものだった。
 だが、それも犯人側の計画で、マスコミや世論の声も自分たちの犯行計画に含めていたというところが彼らが頭脳犯であることを示していた。
 マスコミに騒がれると、それに比例して敏感に世論は反応するものだ。警察という組織がメンツを一番大切にする組織であることは犯人グループだけではなく、警察や世論にも広く知られている。世論に攻撃されれば、完全に警察は浮足立ってしまい、死にもの狂いになることで、一番頭を巡らさなければいけない展開で、浮足がってしまうと、二度と事件の真相に辿り着けないだろうという計算が犯人グループにあったのだろう。
 しかも、浅川刑事のように、事前に調整していたり、内偵していなければ、理論的な犯人像に辿りつけたとしても、あくまでも状況証拠だけで、実際の証拠には辿り着けないだろう。
 それも、実は犯人グループの計算であった。
「どうせ警察には、推理としては真相に近づけても、その証拠を一切残していないので、逮捕や起訴は絶対にできない」
 という計算があった。
 犯人としては、
「何重にも張り巡らせた段階が警察を苛立たせて、結局は真相を目の前にして、判断を誤ることにあるだろう」
 とも思っていた。
 そういう意味では、
「恐るべき犯人」
 と言えるであろう。
 結局、事件は、
「犯人グループ対浅川刑事」
 という構図となっていたのだ。
 しかも、途中で浅川刑事はまわりの意見とはまったく別で、一人孤独な状態になっていた。犯人は、そこも狙いであったのだ。
「警察というのは、組織で動いているので、少数意見では動かない。だから、真相に行き着く捜査員がいたとしても、その人一人では何もできないのが警察というところだ」
 と言っていた。
 だが、浅川刑事は密かに内偵者によって、証拠を密かに掴んでいた。捜査本部長と捜査主任の二人には事情を説明し、
「ここは他の連中には悟られないようにしないといけないので、私が異端児の役をやりましょう」
 と言って、敢えて悪役を願い出たのだった。
 かといって、浅川刑事への信頼感は、ひょっとすると浅川刑事が思っているよりも大きいのかも知れない。
 浅川刑事の気持ちを皆知っていながら知らないふりをして、その様子を眺めていた。ただ、疑いの目で見ていたのが桜井刑事だけだった。
 事件は浅川刑事の誘導に伴って進んだ。犯人グループは自分たちの計画通りに動いていると思っていたので、簡単に騙せたのだ。
「俺たちよりも、警察に頭にいいやつがいるわけはない」
 という驕りが彼らの命取りだった。
 いざ、逮捕ということになると、犯人グループも潔かった。
「警察にも我々を追い詰めるだけの人がいるとは思ってもいなかったよ。まるで名探偵にしてやられたという感じだね」
 と犯人グループから言われると、浅川刑事はニッコリ笑って、
「私は、警察という組織内の一人の刑事ですyp」
 という言葉を訊いて、犯人は大声で笑いだした。
「ははは、そういうことか、あなたのような刑事が相手だと、我々が敗れたのも分かった気がする。完敗だよ。せいぜい、今の気持ちを最後まで通すことができるか、高みの見物としゃれこませてもらいたいな。特等席を用意しておいてくれよ」
 というと、
「任せておいてください。あなたたちには、私も敬意を表します。私のことをここまで分かってくれているのは、警察内にもいないくらいですよ」
 と言った。
「それは光栄だね。たぶん、君を敵に回した時点で我々の負けは決定していたなろうが、負けても初めてだよ、ここまで潔い気分になれたのは」
 と言っていた。
 彼らは、その後、裁判に掛けられ、執行猶予のついた実刑だったが、その程度で済んだのは、彼らが逮捕された時の場合も頭に入れて犯行計画を練っていたということであり、考えれば考えるほど彼らは犯罪者にしておくのはもったいないと思わせるくらいだった。
 まるで昔の探偵小説を読んでいるような醍醐味のある事件であった。サスペンス的なところはなかったので、頭脳戦が全般に渡って繰り広げられたということであったが、浅川刑事にとっては、
「たくさんある事件のうちの一つ」
 という思いなのかも知れないが、桜井刑事にとっては、刑事というものがどういうものなのかということを、口ではなく態度で示してくれたという事件であった。
「僕も浅川刑事には及ばないまでも、事件ではなるべく冷静になって、犯人を追い詰めるような捜査を行い、そのためには、まわりを最初に固めることが大切だということを考えないといけないのだ」
 と考えていた。
 ちなみに彼らの集団は、すっかり浅川刑事に陶酔してしまい、他の刑事にはまったく見向きもしないが、浅川刑事にだけは協力を惜しまない。そんな組織になっているのだった。
「俺たちは、浅川さんに協力することで、こちらも自分たちを守ることになる。だから取引をしているわけでもないし、ただ従っているというわけでもない」
 と自負していたのだ。
 今では彼らの信頼は、浅川刑事だけではなく、桜井刑事にも影響していた。
「桜井刑事という人は、浅川刑事とパートナーを組んでいくうちに、どんどん刑事としてしっかりしてきた、浅川刑事に似てきたと言ってもいいんだけど、もし、彼がただの浅川刑事の模倣であれば、私たちは桜井刑事に協力することはないだろう。桜井刑事の中には、あくまでも自分独自の考え方と信念がしっかりあるんだよ。だから、我々は桜井刑事をあくまでも、別人格として対等に見ているつもりなんだ」
 と、彼らのボスはそう言っていた。
 K市管轄の中にある反政府組織のほとんどは、彼らのやり方を賞賛していたが。他からの勢力を受け入れているところは、彼らの考えを容認することはできないようだ。
 実は、最近の事件で、K大学病院で起こった記憶喪失状態に薬物が絡んだ事件(因果応報の記憶喪失事件)の裏で彼らの組織が暗躍していたということを知っている人は少ないだろう。
 解決に至ったこととして、浅川刑事のまわりに彼らの組織があることを、川越博士が知っていたということも大きな要因だったのだ。
 川越博士は、浅川刑事というよりも、桜井刑事に対して思うところがあり、事件解決に影響を与えたのだった。
 あれから一年ほどが経って、いよいよ桜井刑事が独り立ちということになったのだ。
 本来であれば、すでに独り立ちをしていてもよかったのだが。刑事課の事情として、今まで桜井刑事の下が入ってこなかったという理由もあったのだ。他の刑事が育たないのは、今の状態がK警察署刑事課の一番いい状態で、誰かを異動させることも、異動させてK警察署に配属させるのも、躊躇してしまうのだった。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次