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永遠のスパイラル

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。

            二人の部下

 K警察署の刑事課には、浅川刑事がいるが、浅川刑事の部下に、最近、他の署から移動してきた刑事がいた。年齢的には三十前後というところであろうか。まだ冬のこの時期に、しかも二人もK警察署に移動してくるというのも珍しく、ずっとコンビを組んできた桜井刑事がある程度一人前になってきたことで、浅川刑事は、少し肩の荷を下ろした気分でであった。
 桜井刑事も配属されてきた時は厄介な刑事であった。管内の駐在からの刑事志望で、やっと念願叶っての刑事課移動だった。
 だが、彼は勧善懲悪なところが大きく、仕事であるということをしばしば忘れてしまうところがあり、感情だけで突っ走るところがあった。
 そんな桜井刑事を見て、上司の松田警部補が、
「浅川刑事、桜井君を君に預けたいと思うんだけど、どうだろうか?」
 という打診を受けた。
 もちろん、ノーの返事ができるはずがない。自分に刑事のいろはを教えてくれたのは松田警部補だったので、松田警部補は、浅川刑事の部下を育てる力を認めているというころであろう。
 桜井刑事も最初の頃一緒に捜査している時、
「自分が最初に解決するんだ」
 という気持ちが強く、自信過剰なところがあり、まわりとの協調には欠けるところがあった。
 桜井刑事が、そんな気持ちになったのは、巡査時代が長かったからだろうか。事件が起こって刑事が出張ってくると、いかにも命令口調で制服警官に命令している。ただそれだけならいいのだが、K警察というところは、しょせんは所轄警察であり、広域の重大事件が起こると、県警から捜査一課がやってきて、捜査本部を仕切るようになるのだ。
 そうなると、今まで捜査で自分たちを、顎で使ってきた刑事たちが、県警本部の刑事たちから、まるで奴隷のように扱われているのを見ると、
「俺たちは一体何なんだ?」
 と考えさせられるのだ。
 ただ、そんな中で県警の刑事と対等に話ができるのが、浅川刑事であった。浅川刑事は、それでも、県警本部の刑事に十分なくらいお敬意を表している。それは自分のためというよりも、自分が横柄な態度を取って県警の刑事を怒らせてしまうと、その怒りが他の捜査員に及んでしまうのを警戒しているからだ。そこまで浅川刑事は自分のことだけではなく、まわりも見ることができる刑事として、県警本部の刑事にも人気があるのだった。
「浅川刑事という穂とは不思議な人ですよね。何を考えているのか、普段は分からないのに、捜査になって協力が必要になったりすると、彼ほど分かりやすい人はおらず、その行動が気を遣ってくれていることがよく分かるような気がしますね」
 と言われた。
 桜井刑事も、そんな浅川刑事のことを、最初は分からずに、最初こそ、
「あの人は何を考えているのか分からない。俺のやることを全部否定するだよ」
 と言って、他の同僚に愚痴をこぼしていたが、その同僚も桜井刑事に同情的で、
「そっか、全否定されるというのは、実に辛いことだからな。何をやっても否定されると、何もできなくなる。最初はやる気があったのに、どうしてあんなに否定しようとするんだろうなって思うんだよ。でも、実際には、自信過剰になっている人の出鼻をくじくということもあるので、一様にその人の考えを悪くはいえない。それこそ、全否定しているのと同じことになるだろう?」
 と言われた。
 だが、頭に血が上っていた桜井は、その助言の意味が分からなかった。一生懸命に捜査をしても、認めてくれないことの辛さ、下手をすれば、
「刑事になんかならなければよかった」
 と感じたほどである。
 だが、浅川刑事は、最初の事件で、誰にも同情的な気持ちには決してならなかった。他の刑事や捜査員は、被害者の身の上を気の毒がって、
「あの人のかたきを自分たちが打つんだ」
 と言わんばかりに興奮状態だった。
 だが、そんな中で一人浅川刑事は、冷静に事件を見ていたのだ。
「浅川刑事って、どうしてあそこまで冷静になれるんだろうか?」
 と思っていて、しかもどうも、
「浅川刑事は被害者も疑っているようなところがある」
 というウワサもあったくらいだった。
 実際に捜査本部の会議においても、浅川刑事だけが、被害者を必要以上に調べていて、まるで容疑者であるかのような言動もあったくらいだ。
 そんな言動を他の誰も咎めることはなかった。
「やっぱり警察って、浅川刑事ほどに実績があれば、贔屓されることになるんだろうか?」
 と思われるほどであった。
 だが、捜査が進むうちに、浅川刑事の話が信憑性を帯びてきた。それが証明されるような形になったのが、被害者が急に外国に行くという話が出た時であった。完全に被害者ということであれば、犯人に狙われているので、
「怖いから、海外に逃げよう」
 と考えていると思うだろう。
 しかし、浅川刑事はそれを、
「高跳びだ」
 と感じたのだ。
 なぜそう感じたのかというと、会社の人からの情報として、
「ずっと前から海外に行く予定はあって、その証拠に、住む場所などは最初から手配されていて、期間としては、半年くらいを予定にしているようですよ」
 という話を訊いていた。
 しかも、浅川刑事は、この情報を得るために、被害者の会社に情報を得るためのルートを最初から組み立てていたのだった。
 事件が解決してから、
「浅川刑事は被害者が犯人側と関係していることをいつから気付いていたんですか?」
 と事件が解決してから聞かれると、
「最初の方から分かっていたよ。それはね。本来であれば、「この」と言わなければいけないところを、「あの」と言ったんだよ。どうやら、最初からその人はすでに死んでいるかのような言い方だよね。それを聞いて違和感があったんだ。君たちも覚えておくといいが、相手が言ったことに何か違和感があったら、それをすぐに信用するというのがどれほど危険なことかというのを理解できるようになれば、刑事としては一人前なんだろうね」
 と、浅川刑事は言った。
「じゃあ、どうして僕たちにハッキリと言ってくれなかったんですか?」
 と言われて、
「下手にいうと、君たちの態度で、相手に悟られるのは怖かったからね。何といっても、私は被害者の会社に内通者を持っていたので、相手にこちらが怪しんでいることを悟られると、相手は必ず自分の身内の内通者を考えるものさ。そうなると、せっかく協力してくれている人たちを危険に晒すことになるだろう。それだけは避けなければいけなかった。だから、皆に何も言わなかったのさ」
 と言われて、
――なるほど、浅川刑事の冷静沈着な様子は、全体を見渡すために必要で、片方からしか見ていないと、いたずらに犠牲者を増やすことになり、犯人の思うつぼになってしまうのだろうな――
 ということに気づいたのだ。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次