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永遠のスパイラル

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「死体が見つかった場所のあの風俗店、被害者があの顔になってから、そして、本当の若松と思しき人物があの場所に行っていただから、あの店が何かの秘密を握っていることは確かなんだろう? 何か情報はないのか?」
 と、松田警部補は言った。
 もちろん、そこに一番の重点を絞って捜査をしていたので、やつが贔屓にしていた女の子に、何度も話を訊いていた。その女の子というのは、普段は大学生だというので、少しビックリはしたが。
「そんな女の子、結構いますよ。ショックなことがあったら、買い物依存症、とでもいうんでしょうか? ギャンブルに嵌る人のように、カードやネットで衝動買いをしてしまうんですよ。それで、借金がかさんでしまって、こういうお店で働くことになった女の子も少なくはないでしょうね。あとは、これは昔からいると思うんだけど、ホストに嵌ってしまうというやつ、うまく嵌められちまったというところだろうね」
 と言っていた。
「なるほど、後者の話は、ソープとホストを一緒に経営しているところだと、一石二鳥だというわけだ」
 と、福島刑事はその女の子に言った。
「ところで、若松という男はどんな客だったんだい?」
 と聞くと、
「おかしな人だったのは間違いないだろうね。私も今回のことで知ったんだけど、あの人は最初から自分を若松だって言っていたんだ。普通、こういうお店に来る人は、ネットなどと同じように、偽名だったり、ハンドルネームのようなニックネームを使うので、若松というのも、どうせ偽名だと思っていたんだけど、まさか、本当だったとはね。でもね、あのお客さんはいつも秘密主義で、自分のことをほtんど喋ららなかったんだよ。もちろん、人によるとは思うんだけど、こういうお店に来てくださるお客さんは、何かしら、人に自分の気持ちや立場で苦しんでいる状態を誰かに話したいと思っているものなのさ、だから、利害関係のない、時間で恋人気分が味わえる私たちに愚痴や何かを言いに来ているんだよ。私たちも人が苦しんでいるのはよく分かる。自分も大なり小なり苦しんでいるわけだからね。だから、いろいろ愚痴ってくれるのは嬉しいんだよ。私に話すと気が楽になったなんて言ってくれるお客さんは、本当にいとおしいって思っちゃう。サービスに力だって入るし、クライマックスになると、本当にこの人を愛してるんじゃないかなんて気分にもさせられたりする。だから、私はこのお仕事嫌いじゃない。でも、あのお客さんは、そういう弱みを一切見せなかった。苦しんでいるのは見ていてよく分かるんだけどね。だから、そのうちに話をしてくれるんじゃないかって思っていたんだけど、一向にそんなことはなくて、途中で急に人が変わったようになったのよね。この間も言ったけど、首筋が冷たかった頃からね。そんな彼なんだけど、やはりそれからも、一切悩みを話してくれない。しかもまるで人が変わったかのようになった。来る回数も減ったし、私のことを指名はしてくれるんだけど、以前にもまして、他人のような感じがする。私もついには、ただの一見のお客さんという程度にしか見なくなった。もちろん、言葉ではまた来てくれたことを喜んではいるんだけどね。もう、彼に対しての関心もほとんどなくなってしまっていたのよ」
 というのだった。
「そうなんだね。でも、何か気持ち悪くなかった? 同じ顔の人が急にまったく別人のようになるなんて、普通は考えにくいと思うんだけど」
 と、福島がいうと、
「ええ、それは確かにそうなんだけど、ここにきているお客さんは、いろいろな人がいるのよ。ほとんどのお客さんは優しくて、でも、世間の女性が相手にしてくれないからここに通ってきているかのようなそんな雰囲気の男性ね。でも、私たちは思うのよ。自分たちに接してくれているような感じを表で出せば、きっともう少し持てるんじゃないかってね。でも、それは私たちが、一般の女の子を知らないからなのかも知れない。確かに私たちはお金をもらって商売をしている関係には変わりないんだけど、純粋に相手の男性を見ようとするのよ。短い決まった時間だけに、存分に満足して帰ってもらおうと思ってね。男性って、女性と違って、果てちゃうと、急に我に返ったりする人が多いっていうじゃない。つまり、お店を出てから、急に自己嫌悪に陥る人が多いらしいのよ。何かお金を無駄に使ったという感覚でね。それが私たちは一番つらく思っているのよ。だから、そんな思いをしなくてもいいくらい、お店を出たあとも、私のことを覚えてくれているように接しているの」
 というではないか。
 その話を訊いて、福島は彼女に同情を感じていたようだ、
「うんうん、僕もその気持ちはよく分かる気がする。正直、今まで風俗嬢というものをよく知らなかったので、君には悪いと思うんだけど、正直偏見を持っていたのは事実なんだ。でも、今の君の話を訊いて、風俗嬢であっても、いや風俗嬢だからこそ、他の女性よりも男性に対して、素直に、真正面から接しているんだろうなって思うようになったんだお」
 と福島は言った。
「ありがとう、刑事さん、優しいのね。私、なんだか涙が出てKちゃいそうよ」
 と言って、本当に涙を流しているようだ。
 この涙は、今まで犯罪捜査をやってきて見る涙とは種類が違っていた。刑事が見る関係者の涙というのは、そのほとんどが悔し涙であった。
 騙されて悔しがっている涙。自分の大切な人を奪われたことでの、その人に対しての望郷であったり、走馬灯のようによぎる記憶の一つ一つに送り涙。刑事としては、やり切れない気持ちになるものばかりだった。
 しかし、今回の涙はそんなものではなかった。
 純粋に男女の仲を深いところで垣間見たその涙なのだ。今までは嫉妬であったり、悔しさの涙との違いを感じると、女性というものがいかに歳暮と呼ばれるものを頭に描くことができるのかを思い起こさせた。
 今までは、
「そんな聖人君子のようで、聖母マリアのような女性が、こんなよどんだ世界の中に存在するわけはない」
 と思っていたが、そうではないということを教えてくれるのが、風俗の女の子だとは思ってもみなかった。
 そういう感情を抱くこと自体、風俗嬢に対しての差別的な感情なのかも知れないのだろうが、福島はそうは思わなかった。
 相手に対して抱く差別というのは、世間一般でいうところの差別と、自分が感じる差別とでは隔たりがある、世間一般に差別だと言われることでっても、自分の中で違う、これが差別ではないと思うことは、本当に差別ではないと思うようになった。それを教えてくれたのが彼女であり、よく考えてみれば、警察官の自分に、よくそこまで話をしてくれたことに、感動している言ってもいい、
 基本的に、風俗嬢というものは、警察を嫌いだと思っていた。何しろ、警察がやってくるのは事件があった時か、店を摘発する時、そんな時、自分たちが、いかに警察の取り調べで、吐き気を催すほどの嫌な思いをしているのか、取り調べの警察官は分かっていないのだろう。
 ただ、相手は社会正義に逆らっている連中という目でしか見ていないというう思いがあることで、彼女たちは、警察を嫌いであり、さらに敵視していると言っても過言ではない。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次