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永遠のスパイラル

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「それは、何かの理由で顔を変えなければいけない人さ。例えば身を隠さなければいけないけど、面が割れているので、逃げられないという事情の人。借金取りから逃げている人だったり、何かの犯罪を犯して、警察から逃げている人。行方不明になってでも、身を隠さないといけない人だよね。普通はそれも苦痛なはずなんだ。家族や恋人に会えないわけだからね。それでも顔が割れるとまずい人だろう。だって、もし、無事に逃げおうせたとして、相手がもう追いかけてくることがないと分かっても、一度変えてしまった顔を元に戻すことはできないんだ。そうなると、せっかく解放されても、家族や恋人に会えない。家族は信じないだろうし、恋人はもし信じてくれたとしても、顔を変えた上に、何年もいなかった相手をいまさらという気持ちになるというものだよ」
 と桜井刑事が言った。
「なるほど、それは確かに辛いことですよね。でも、目の前の危機から逃れるにはそれしかないとなると、少々の危険を犯す気になる人もいるでしょう?」
「たしかにそうさ。それこそ、藁をも掴むというところだろうね。だから、きっと整形をした人は多いと思うんだけど、それにしては、今回の死体のあの傷口は、あまりにもずさんに見えるよね」
 と桜井がいうと、
「そうなんですよね。私もおかしいと思ったんですよ。ひょっとすると、死んでしまうと急に劣化するという効果があるんじゃないですか? つまりは、生きている間は何とかごまかすために、生きている細胞に反応するものとしての技術を施しているとすれば、人間が死んでしまうと細胞も死んでしまう。そうなると、整形の痕があからさまに出てくるわけですよね」
 と福島刑事は言った。
「だけど、死んでしまって、その効果が薄れるのであれば、警察がおかしいと怪しんで調べを始めそうに思わなかったんだろうか? 警察に調べられても、我々にやつらの計画が絶対に看破できない。あるいは、捜査にも及ばない力でもあるのか、そのあたりも気持ち悪いと思うんだ」
 と桜井刑事は言った。
「今までに変死体が見つかって、我々に通報することがなかったのは、どうしてなんだろう?」
 と桜井がいうと、
「それは、事件性がないからじゃないですか?」
 と福島刑事が言った。
「それはそうかも知れないけど、すべて、刑事課に報告を入れないというのは、何か見えない力が働いているように思えてならないんだ。逆にいうと、整形をした人が殺害されて事件となるというのが今までになかったということなのだろうか?」
 と桜井刑事が訊くと、
「じゃあ、他の死体は、やつらの組織に秘密裏に処分されてきたのではないですか? 例えば、どこかにまとまって埋まっているとかですね」
 と福島刑事がいうと、
「その考えを間違いではないと考えると、この事件だけなぜ表に出てくるかということだよね? ひょっとすると、この事件は死体が発見されなければいけない理由があるのかも知れない。整形の秘密がバレることよりも、死体が見つからないと困る何かがあるということなんじゃないかと思うんだ」
「それは一体何なんでしょうね?」
「それは私にも分からないが、そのうちに、それもハッキリとしてくるんじゃないかな? それよりも、その組織が何を考えて整形というリスクを背負ってまで、整形した人を世に送り出しているのか、そこが問題になってくるんじゃないかって思うんだ」
 と桜井刑事がいうと、隣で聴いていた松田警部補も、
「うんうん」
 と、頭を下げて聴いていた。

                会社社長の死

 若松(と思しき)人間の死体が発見されてから、二週間が経とうとしていた。正直事件はあまり進んでいない、何しろいまだに被害者が特定できていないのだ。幸いなことに、福島がいた警察署に、若松の指紋が残っていたので、死網称号の結果、まったく違う指紋だと分かり、その時点で、被害者が若松ではないことが判明した。
 ここまでは早い段階で判明したのだが、
「では、この被害者が一体誰なのか?」
 ということになると、まったく分からない。
 福島にとって因縁の男、若松が被害者ではなかったということが分かり、本人は複雑な心境だったに違いない。もちろん、被害者が福島で、誰かに殺されたのだとすれば、人情として、
「なんで、俺を陥れたこんなやつを殺した犯人を、この俺が捜査しなきゃいけないんだ? 礼を言いたいくらいなんだぜ」
 という感情があってしかるべきであろう。
 だが、実際に被害者ではなかった。どこかでのほほんと生きているのかと思うと、それも腹が立つ。
「殺しても殺したりないくらいのやつなので、このまま生かしておいては、何をしでかすが分かったものじゃない」
 という思いもあり、それが警察官として危惧を抱く理由にもなっているのだ。
 今、今回の事件の捜査には、主に四人で関わっていた。桜井刑事と福島刑事のペア。そして、同警察署の別の刑事の二人だった。とにかく、手掛かりらしいものは何もなく、いたずらに時間だけが過ぎていく。
 実は、被害者が特定されてからの操作方法はすでに決まっていた。二手に分かれる方法で、まずは、被害者の足取りや、過去を洗うという仕事であった。さらに、もう一つは、被害者と整形手術を施した秘密結社と見られる組織との関係である。被害者から組織を解明し、そこから一網打尽に、彼らの組織を叩き潰すくらいの考えを持っていた。
 そうでもなければ、今はマスコミに伏せているが、いつマスコミに嗅ぎつかれるか分からない。
 そうなると、秘密結社のことが世間で話題になり、かたや、
「警察は何をしているんだ」
 と非難されることになり、威信は失墜してしまうだろう。
 さらに、我々が行っている捜査が、マスコミにバレバレになってしまい、秘密裏にお乞わなければならず、時には内偵も進めなければいけないものが、マスコミの、いわゆる
「表現の自由」
 という名前の捜査妨害が行われないとも限らない。
 そうなると、捜査はやりにくくなり、すべてが後手後手に回りでもしたら、ますますマスコミの餌食になり、世間から警察はまったく信用されなくなる。ましてや、
「警察は何もできない税金泥棒」
 などという誹謗中傷を浴びせられるのは目に見えていて、これを、
「マスコミが先導した、世間による警察に対する言葉の暴力」
 と言わずして何と言えばいいのか。
 とにかく、まだ何も分かっていない今は、完全にマスコミには情報を与えてはいけない。警察署に部では、完全に緘口令を敷いていたのだ。
 幸いマスコミも、今のところ騒いでは内々。だが、この殺人事件がまったく進んでいなければ、被害者が別人であることもバレてしまう。とりあえず、警察は被害者は別にあるのは分かっているが、若松という男だということを、限りなく確定した形で、マスコミには言わなければいけない。何と言っても、整形を受けているところから、隠さなければいけないのだからである。
 マスコミはいいとしても。思うように捜査が進まないのは、捜査員を苛立たせた。
「どうして、被害者を特定できないんだ?」
 と、松田警部補は苛立っている。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次