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永遠のスパイラル

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 そうなると、金銭は本当の目的ではない。
 ただ、それは詐欺の単独犯であれば、そうかも知れないが、基本的には組織で動いている。詐欺の方法を考えた人間。そして、それを全体的に仕切る人間、実際に行動する人間。そう、まるで演劇やドラマなどにおける、脚本であったり、監督であったり、俳優であったりという分業制になっているのではないだろうか。
 一人が出しゃばるとうまくはいかない。それぞれが相手の気を遣いながら演じるのが演劇でありドラマなのだが、犯罪に関しては若干違っている。
 失敗の許されない高いリスクのある行為なので、上からの命令はある意味絶対なのだ、意志の疎通がうまくいっていなければいけないところは間違いないが、末端の連中には、これが犯罪であることを知られてはいけないというところもある。
 そういう意味では詐欺行為というのは、それ専門の捜査員が当たることが多い、これが殺人に発展すれば捜査一課が乗り出すこともあるが、そうでなければ、別の専門の課が行うようになる、警察には、薬物であったりマルボーなどという専門部隊がいて、詐欺犯罪や、あるいはサイバー詐欺などに対しても専門部隊がいる。だから、他の課の連中が関わることは危険だったりする。
 詐欺犯罪は何といっても、頭脳犯である。百パーセント、計画的犯罪だ。
「衝動的に詐欺を働いた」
 などというのはあまり聞いたことがない。
 あったとすれば、何かの記事を見て、それをマネ下模倣犯くらいであろうか。正直その程度のものは詐欺犯罪とはいえず、ただのチンケな犯罪である。
 言い方は悪いが、詐欺グループからすれば、それを詐欺と言われるのは心外だとでもいうべきであろう。それを思うと、ある意味、詐欺集団には彼らなりの、思いもあるに違いない。
 さて、詐欺グループの話を訊いていると、サークルの中にいる一人の刑事が、彼女たちの間に入って、話を詳しく聞いていた。
 その男性は、どうやら、詐欺グループ検挙の専門家のようで、普段はあまり署で見かけることはなかった。だが、その男を見た時、反応したのが、福島刑事だった。
「おい、韮崎刑事じゃないか。君もK署に赴任してきたのかい?」
 と声を掛けられた男はそう言われて振り向くと、最初は顔色の悪そうな、少し脆弱な雰囲気に見えた刑事だったが、福島刑事を見てニッコリと笑うと、それまでの顔色の悪さが急に生き生きとしてきて、血色が明らかによくなっていた。
「脆弱さは顔色から来ていたんだ」
 と思わせるだけの、表情の明るさに、桜井刑事はビックリさせられた。
「ああ、去年、こちらに赴任してきてね。それでこのサークルにも去年から参加させてもらっているんだよ。福島もいろいろあったようだけど、元気そう何緒で安心したよ」
 と言っている。
「ありがとう、それはお互い様なので、俺もソックリ今の言葉をお前に返すよ、でも、また同じ警察署というのも、何かの縁なのかも知れないな」
 と福島刑事は言っているが、実際には、かつて曰くのあった刑事がK警察に赴任してくるというのは、昔からの暗黙の了解のようなものがあったのだ。
 だから、福島刑事や韮崎刑事が始まりではない。
 この傾向は十年くらい前から続いている。
 この傾向を始めたのは、今の署長が就任してからのことで、F県警管内のいろいろな場所で署長を歴任してきたが、K警察に来てから、特にこの傾向が強くなった。
 曰くのある刑事を受け入れると言っても、もちろん、事前に調査を行ってのことだ。せっかく今のうまくいっている体制を壊してまで、受け入れるようなバカなことはできるはずもないのだが、署長が考える最近の曰くというのは、
「表に出てきている問題の奥に、情状酌量しなければいけないような要素が含まれている」
 ということと、
「我が署には、そんな彼らを受け入れる包容力のある部下がたくさん揃っているという部下に対しての絶大な信頼感」
 があるからだった。
 署長がそれだけ信頼を置いているのは、刑事課の松田警部補を見たからなのかも知れない。
「松田君は、部下の刑事をあれだけ信頼できているのには、何か彼なりの考えがあるのだろう」
 という思いがあるからだが、そのことについて、実際に言及したわけではなかった。
 桜井刑事にとって松田警部補への忠誠心のようなものはハンパがなく、また浅川刑事に対しては、安心感とやる気を起こさせてくれるという意味で、尊敬の念が強いのだ。これが、捜査一課の強みであり、この雰囲気が、他の課にも充満しているのか、
「K警察署ほど、部下に恵まれた警察署はない」
 と、豪語するほどになっていた。
 ただ、このようなことをいえば、署長のかつて赴任していた警察署の部下から、
「それじゃあ、俺たちは何なんだ?」
 と言われがちなのだろうが、それどことか、
「あの署長がそういうんだから、本当にそうなんだろうな」
 と、署長の意見を認めるような発言をする人が多いのだ。
 つまりは、それだけ今まで署長の職をこなしてきた場所でも部下に慕われていたということであり、署長の人間性を知っている人は、
「よかったな。あの署長の元で働けるんだぞ」
 と、K署への赴任を喜んでくれる人も多かった。
「俺も行きたかったな」
 という人もいるくらいで、そんな警察署なので、福島刑事も転勤させられる際も、さほど悪い気はしていなかった。
 しかも、自分についてくれた桜井刑事とは気が合いそうなところがある。サークル活動にしてもそうだった。
 普通なら、
「サークル活動でまで、先輩と一緒にいたくないよな」
 という言葉をよく聞くが、その思いは桜井刑事にはまったく感じなかった。
 桜井刑事は、
「仕事は仕事、プライベートはプライベート」
 と、しっかりとした見切りをつける人なので、そのあたりも安心できる相手なのだろう。
――きっと韮崎刑事も同じことを考えているんだろうな――
 と思った福島刑事だった。
 その証拠に、前の署では、自分のことで精いっぱいで、相手をねぎらうような言葉を一切岩適ったのに、どうした風の吹き回しだろうとさえ思ったほどである。

          整形男

 それから数日して、捜査一課の電話がなった。内容を訊いてみると、さつ人事権の通報であった。
 場所は、繁華街の中でも風俗街が密集しているあたりで、ちょうど、裏に当たる狭い場所であった。
 そこに、ビール瓶などが置かれていて、発見したのは、ビールの配達員であった。このあたりは早朝営業もあってか、朝の八時にはすでに店が開いていたりする。その日の早番の従業員が店を開けた時には、そんな素振りは何もなかった。店の開店前には、一応裏理事の扉の鍵を開けて、表を確認するのが常になっていたからだ。
 なぜかというと、裏路地に何か悪戯されていないかを確認するというだけで、それ以外には深い意味はないが、以前は悪戯が蔓延った時期があったということで、店側も恒例の作業となり、誰も違和感のない作業であった。
 だから、裏の扉を開けた時には何もなかったのは当たり前のことで、そのことは訊ねてきた巡査にも説明をした。
作品名:永遠のスパイラル 作家名:森本晃次