永遠のスパイラル
そう意味での危機感であったり、小さな部分をこじ開けるというような手法は、相手の方が得意とするものだ。百戦錬磨の騙し合いに関しては相手の方が強いと思っておかなければ、痛い目にあってしまうだろう。
だが、警察官の中に桜井のような考え方を持っている人がどれほどいることだろう?
世間は確かに広く、想像もおぼつかないような考えを持っているひははかなりいるに違いない。実際に、おかしな考えのひとがいるので、猟奇的な犯罪も起こるのだ、
しかも、犯罪は猟奇的なものばかりではなく、様々な動機がある。欲というものが絡んでくる犯罪が一番多いのではないかと思うのだが、、探偵小説などでもよくあるではないか、
例えば遺産相続に絡む、肉親同士の骨肉の争い、これは明らかに、
「金銭欲」
絡んだ犯罪である。
また、次に多いのは、男女の仲が絡んだもの、夫婦のどちらかが不倫をしたり、付き合っている男女のどちらかが、相手を裏切ってしまったりした場合など、これは、
「性欲」
あるいは、
「独占欲」
が絡むものであろう。
「征服欲」なども絡んでくるかも知れない。
小説などを読んでいると、計画犯罪において、共犯者がいるという犯罪はかなり多く散見されるような気がするが、遺産相続に絡むものも、男女関係に絡むものも、どちらも共犯者がいある可能性が大きかったりする。共犯者はあくまでも、利害関係が一致さえしていればありえることで、その利害関係が共通したものでなくても問題はない。
例えば、ターゲットを殺すことで、自分に遺産が転がり込んでくるとして、共犯者とすれば、その人がいなくなれば、自分の好きな人を独占できるという考えから、協力して犯罪を犯すわけである。
だが、二人の共犯関係がうまくいくのは、犯行を行うまでではないだろうか。実際に相手を殺してしまうと、お互いに、自分が思っていたような結果が得られるとは限らない。遺産は相続できるかも知れないが、共犯者の方では決して彼女を独占できなかったとすると、もし、共犯者が殺人の教唆を主犯からそそのかされたとすれば、
「騙された」
と感じるだろう。
そうなってしまうと、せっかくの計画犯罪がズタズタになってしまう。主犯とすれば、共犯者が今度は邪魔な存在でしかなく、共犯者とすれば、騙されたという後悔の念が襲ってくることで、復讐を考えようとするだろう。
そうなってしまうと、犯行を犯してからの方が、共犯者としての扱いは難しくなる。もし、二人が仲たがいすることなく計画通りに進んでいたとしても、共犯の存在を捜査陣に分かってしまうと、ほぼ、犯行計画は頓挫したようなものである。
探偵小説などでもよく書かれているが、
「共犯者を持つことはそれだけ高いリスクを背負うことになる」
ということである。
だから、小説などでは、主犯の計画の中に、最初から共犯を始末するシナリオが描かれていたり、あるいは、図らずも共犯と仲たがいをしたことで、殺し合いに発展するなどというのは、よくあることだ。
もっとも、どちらかが死んだ時点で、計画に完全な綻びが生じたわけで、その時点で推理ができないようなら、捜査員としては失格ではないかと思うほどの計画の瓦解と言えるのではないだろうか。
さらに、欲から始まる犯罪というのは、そのほとんどが法律への挑戦と言えるのではないだろうか。
逆に言えば、犯人の方は犯行に関係する法律を熟知していないと犯罪計画を立てることができない。遺産相続などでは、民法の相続法を知る必要がある。男女の中に絡むことでは、不倫や、貞操などの問題が法律上どのように解釈されるかということも絡んでくる。特に男女関係などでは、人と人との気持ちが絡んでくるので、状況を先まで想像するのは不可能かも知れない。それを思うと、余計に法律を知っておかなければ、言い逃れのできない事態になった時、八方ふさがりになってしまうからだった。
そのあたりを警察の捜査官も理解しておかないと、違った道に進んでしまって、真相に辿り着くことは難しいだろう。
そもそも警察の仕事というのは、犯人を捕まえることであって、犯人を裁くわけではない。犯人を特定し、特定するためには、その動機や犯行に至った経緯、そして状況証拠や、決め手となる証拠を集めることが必要だ。そうしないと、裁判所が逮捕状を出してくれないからだ。
逮捕してから、警察と検察で取り調べが行われる。現行法では、基本的に四十八時間以内に起訴するか、不起訴であれば、釈放しなければいけない。釈放の場合は、証拠不十分ということになるのだろうが、そうなってしまうと、もう一度捜査のやり直しということになるのだ。
つまり、警察の仕事は、逮捕して、検察官が起訴するまでが、警察の仕事である。不起訴になって釈放されても、捜査は続くが、永久ではない。あまりにも捜査が暗礁に乗り上げてしまうと、警察はそこで迷宮入りの判断を下し、捜査本部を解散することになる、それが、いわゆる、
「未解決事件」
ということだ。
これだけ世間に犯罪が蔓延っているので、逮捕され、起訴され、そして刑が確定する事件も無数にあれば、逮捕にも至らず、犯人を特定することもできなかった時間、逮捕はしたが、最終的に証拠不十分で捜査打ち切りとなった、
「未解決事件」
こちらも、山ほどあるに違いない。
ちなみに、警察のいう検挙というのは、厳密には逮捕とは違っている。警察内部でよく言われる検挙率というものは、ここでの検挙を事件の数で割ったものをいう。
事件の数とは、被害届などの受理を含めたものになり、警察が事件として受付、捜査を開始したものは事件である、
検挙というのは、警察や検察が、容疑者を特定したことをいう。だから、容疑者を特定しても、逮捕状が得られない場合は謙虚はしたが、逮捕はしていないことになり、さらに、逮捕の理由として挙げられる、証拠隠滅であったり、逃亡の意志がない場合は逮捕に至ることはないが、検挙されたということになる、そしていわゆる検挙というのは、警察内部擁護であり、法律用語でもないということだ。
そういう意味では詐欺事件というのは、デリケートな部分を孕んでいると言ってもいいだろう。
詐欺というのは、最初から誰かを憎んで犯すものではない。自分の利益だけで行う場合が多いだろう。
「お金に困って、詐欺を働く」
ということも多いだろうが、基本的に、殺人事件のように、自分を陥れた相手に対しての復讐であったり、妬みや嫉妬からくる、精神的なものが影響していることから、精神的には、
「負の要素」
が大いに含まれていることであろう。
だが、その方が、まだ情状酌量の余地というものはあるもので、詐欺事件の場合は、情状酌量というものはあまり考えにくいものである。
人を騙すことで犯罪を楽しむ人もいれば、自分の存在価値を犯罪に見出すという人もいるだろう。
一種の愉快犯に近いものが考えられ、どこまで自分が相手を考えているかなど、分かったものではない。
「自分さえよければ」
という考えが蔓延っていて、自分の持ち味である頭を使うことで、金銭も得られるのであれば、それに越したことはないということなのであろう、