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因果応報の記憶喪失

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 実際の捜査員と思われるスーツ姿に腕には腕章をつけた男性がメモ帳を開いている姿をみっると、
「いかにも刑事さん」
 というイメージが浮かんできて、いよいよ死体発見現場の形が出来上がっているのが分かってきた。
 刑事は鑑識の人にいろいろ聴いているようだった。小声なのと、まわりのざわつきが気になってか、集中できないでいることで、そこでどのような会話が行われていたのか分からなかったが、死因や思考推定時刻の話などが主な割れていたのだろうということは容易に想像がついた。
 その時の捜査員の刑事と監察官は絶えず下を見ていて、その視線の先に、死体を捉えて離さないという雰囲気が感じられた。
 さすがに、死体発見現場としての臨場感がすごいものなのだということを、弘子も初めて感じていたのだ。
 警察や、医療関係者などでなければ、こんな場面に一生のうちで立ち会うことができる人など、そうはいないだろう。そう思うと、別の意味での興奮が自分の中に沸き上がってきていて、先ほどまでの恐怖と動揺とは打って変わって、どこか他人事のように見えている自分がいることに不思議な感覚を覚えていたのだ。
 速やかにそして手際のいい時間の経過は見ていると、心地よささえあった。気持ち悪さの十万した空間でも、心地よい時間の経過を感じられたのは、せめてもの救いだったのかも知れない。意外とそういう緊張した時間や恐怖の時間には、感じることができるかできないかという違いはあるが、
「その裏には何か心地よい時間が潜伏しているのではないか」
 と感じさせられたような気がした。
 刑事はある程度、鑑識からの報告を受けて頭の中がまとまったのかも知れない。そそくさとこちらに向かって歩いてきた。
 ずっと死体ばかりを見ていた刑事に、ずっとその場を見守っていた弘子の存在が分かっていたかどうか分からなかったが、鑑識との話が終わってから弘子のところに来るのは最初から計画されていたことで、一ミリものブレもないような気がしたのだ。
「あなたが、第一発見者の方ですか?」
 とその刑事がいうので、
「ええ、私はこの工場の事務員で、末松弘子と言います。いつも私が一番最初の出社ですので、いつもと同じくらいの時間に出社してきて。発見したというわけです」
 とひろ子が簡潔に説明した。
「私は、K警察署の桜井と言います。よろしくお願いします。まずは、あなたが、ここでお亡くなりになっている被害者の方をご存じですか?」
 と訊かれて、
「ええ、この会社の社長です。うちの会社は、K市を拠点に県内と、近隣の県にいくつかの視点を持っていて、工場もいくつかあります。近代的な工場も最近華道し始めたんですが、ここのように昔からの会社もあるというわけです」
「ここの工場ではどのようなものをおつくりなんですか?」
「そうですね。主にぬいぐるみや小さなおもちゃ関係が多いですね。ゲームセンターなどの景品になるような簡単なものを作っていると思っていただければ、ピンとくるのではにあでしょうか?」
 と言われた桜井刑事は。頭の中で通帳「ガチャガチャ」と言われるカプセルに入った小さなおもちゃであったり、アミューズメント施設などにある、UFOキャッチャーなどの景品を思い浮かべていた。
「なるほど、じゃあ、製品によって、工場が別れているという感じなんでしょうね?」
「ええ、そうですね。元々、うちの会社は、零細企業だったので、零細企業同士が合併することで生き残ってきたという側面があるので、別々のものを開発していたという会社同士の合併だったので、ある意味スムーズな合併でよかったと思っています」
「じゃあ、同じ会社に二つの事業部があるというようなイメージでしょうか?」
「ええ、そう思っていただけるといいと思います」
 と、弘子は答えたが。どうやら、話をしている様子では、桜井刑事には弘子が言いたいことはちゃんと伝わっているようだった。
 そう思った弘子は、ここから先の事件についての話も、相手が桜井刑事であれば、話がしやすいと思うのだった。
「ということは、社長さんはいつもこちらの工場にいるわけではないんですよね?」
 と訊かれた弘子は、
「ええ、その通りです。社長はいつも本社ですので、工場視察は社長のスケジュールの中で他の仕事の優先獣医を比較して計画されるので、一か月先くらいまでは決まっています。今回の社長の来場予定日は、二週間後くらいだったはずだと記憶しています」
 というと、
「その正確な日を後で構いませんから、ご提示ください。ところで、社長さんはいつも抜き打ちで来るわけではないでしょう? 誰も出社していない工場にいきなりいるようなことはないはずですよね?」
 という桜井刑事の質問に、
「それはもちろんです。第一それであれば、来場予定日を最初から示すわけはありませんよね? しかも今日私が一つ疑問に思ったのは、どうして社長がここに入れたのかということなんですよ。社長はこの事務所のカギを持っているわけではないですし、例えば工場から入ってきたのだとしても、工場からもこの事務所は中からカギがかかるようになっていて。工場からカギがかかった状態で入ろうとすると表と同じようなカギが必要なんですよ。先ほど確認しましたが、カギはちゃんと内側から掛かっていました」
 と弘子は言った。
 被害者は。床の上に倒れていたわけではなく、机にもたれかかっているようにしているんですよね。まるで宙に倒れているかのような感じ、私にはとても違和感があるように思えるんですけどね」
 と桜井刑事が言った。
「それは私も同じです。普通であればこんな殺害現場、見たことありませんよね。どうしてこんな状態になっているのか、私にも分かりません」
 と弘子がいうと、
「この机は誰の机なんですか?」
 と刑事が訊くので、
「今そこは、誰も座っていません」
「ということは、以前は誰かが座っていたというころでしょうか?」
「ええ、以前は主任さんが座っておられたんですが、ある日、工場内で事故があって、祖の事故が原因で向上の仕事が続けられなくなって退社されたんです」
 と弘子が説明すると、
「ほう、事故ですか。かなり重かったんですか?」
「ええ、数か月の入院が必要でした。事故の原因は、本人の注意力散漫だったので、そのことは本人も分かっていたことから、揉めることもなかったのですが、退院してきてから職場復帰をしたようなんですが、本人の中に何かトラウマが残ったらしく前のようには仕事ができなくなったんです。後遺症はないという医者の話えしたが、どうも本人の栄進的なものなんでしょうね。医者もそういうことはありえることだと言っていたので。結局、本人が退職願を出したということでした」
 と、弘子がいうと、
「では、その人が会社を恨んでいるということはないということですね?」
 と言われて、
「ええ、それはないと思います」
「それはいつ頃のことですか?」
「そろそろ一年くらい経とうかとしていますね。主人さんが辞められてから、この工場では補充は行っていなかったので、あの席は一年前から空いたままだったということです」
 と弘子は答えた。
「じゃあ、その人とこの事件は無関係のようですね?」
作品名:因果応報の記憶喪失 作家名:森本晃次