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因果応報の記憶喪失

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 今でも綺麗であるが、当時は少し違った意味で綺麗だった。それは明るさがある綺麗な雰囲気で、今はトラウマがあるからなのか、綺麗と言ってもその後ろには影を感じるのだった。
 聡子は中学の頃から、輪の中心にいる女の子で、いつも輝いていた。そのイメージが彼女を綺麗に見せていたのであって、その輝きがなければ、完全に火が消えてしまうであろうと思っていただけに、火が消えてしまっても、影という形で美しさが残っている聡子は想像以上の綺麗さが、その奥底にあるのだろうと思うのだった。
 聡子は地元の女子高を卒業してから、今の会社に入社した。桜井が彼女を知っているのは中学時代だというのは、彼女が女子高に通ったからだ、もし共学であれば、同じ高校に通っていたかも知れないと思うと、残念で仕方がなかった。ただ、それを感じたのは、かなり後になってからのことだった。
 もし、同じ高校に通っていれば、ひょっとすれば、彼女が事件に巻き込まれることはなかったかも知れないと思ったからなのだが、彼女が事件に関わっていたということをまだ知らなかったので、知ることになるというのは、知ったその時に、
「何て皮肉なことなんだ」
 と感じたのだった。
 その時のことはまるで風化してしまったかのように思えれていたが、それを思い出させることになろうとは、誰が感じたことだろう。それも、ある事件の発生で思い起こさせることになったのだが、事件が繋がっているということに気づくのはかなり後になってからのことであった。
――もし、もっと早く分かっていれば、事件の解決ももっと早かったのではないだろうか?
 と思われたが、実際にはそんなことはなかったというのが浅川刑事の話だったが、後になって事件の全貌が分かってくると、桜井にも分かってきたことだった。
 桜井刑事は、これからどのようなことが起こるのか分からずに、意識することなく毎日の勤務に追われていたが、
「気配もなく襲ってくるのが恐怖というものだ」
 ということを、いまさらのように思い知らされた気がしたが、今度の事件は全体的にそういうイメージを払しょくさせるものだった。
 その事件のカギを握っているのが、
「中学生のあの頃のイメージを忘れられない」
 と思っていた聡子だったのだ。
 桜井がその時、聡子のことを思い出していたというのは、本当に偶然だったのだろうか? それとも虫の知らせのようなものだったと言えなくはないだろうか。それを思うと、これも後から考えてのことだったが、今回の事件で、桜井は何度かこのような同じ思いをするのであった。
 事件が起こったのは、そんな頃だった。殺人事件というわけでもなかったのだが、これから起こる事件の前奏曲としての演出だと思うと、
――ここから始まったことなのかも知れない――
 と感じたのだ。
 いや、事件というのは大げさであった。最初に状況を見た巡査の話では、いかにも誰かに襲われたかのような状況だったので、しばらくの間、事件として捜査が行われたが、それが実は違ったということで捜査が打ち切られたのが、その二日後だった。
 なぜそのような単純なミスが起こったのかというと、被害者と思われた人が記憶を失っていたからだ。ただ、記憶喪失という病気なのだろうが、それが誰かに殴られたからということでの記憶喪失ではなく、何かの拍子に起こるものだというのだが、それが何が原因で起こるものだったのか分からなかったのだ。
「それにしても、あっちでもこっちでも記憶喪失というものが蔓延っているのもおかしなものだ」
 という状態だったのだ。
 その事件はショッピングセンターで起こったのだが、その時は夕方に差し掛かった頃で、学校が終わって、学生が溢れていた時間帯だった。
 人ごみの中では、人に酔うことですぐに気分が悪くなる人もいた。ちょうど表が寒く、ショッピングセンター内部は異常に暖房が利かせていたこともあって、余計に気分が悪くなったのだろう。しかも近くには化粧品屋さんがあり、香水やら化粧品の薬品の匂いで噎せ返っていたと言ってもよかった。
「香水の匂いで噎せ返った気持ちになってそれで意識を失ったのかも知れない」
 ということであったが、最初は、
「少し横になっていれば、そのうちに意識を取り脅すだろう」
 と言われていたが、一時間経っても二時間経っても意識が戻る様子がなかったので、ビックリした店員が救急車を手配したのだ。
 病院に行くと、その人は記憶を失っているということが判明したのと同時に、
「これは警察にも連絡しなければ」
 ということで、病院から警察に通報された。
 警察からやってきたのは、病院としても馴染みのある浅川刑事だった。
「どういうことですか、先生」
 と浅川は訊いたが、この先生というのは、川越博士というK大学病院でも権威と言われる博士号を持った先生だった。
 特に精神科や循環器関係に関しては日本を代表する医者ということで、テレビに出たりすることもあったりした。
「浅川さん、この患者は記憶を失っているだけではなく、身体から薬物反応がありましたよ。ただ、法律に引っかかるほどの量ではないんだけど、気を失ったことに対して影響があったと思うんですよ。ただ、今回気を失ったのは、あくまでも薬物だけが原因だとは言えないでしょうね」
 と言っていた。
「というと、どういうことですか?」
 と訊いた浅川刑事に対して、
「薬物はあくまでも促進剤のようなものだと思うんです、確かにこの薬物は『麻薬及び向精神薬取締法』で指定されているものではありますが、この薬物で記憶を失わせる効果があるとは言えないんですよ。あくまでも媒体という感じですね」
 と川越博士は言った。
「とにかく、この人は意識が戻ったらこちらに引き渡していただけますか?」
 というと、
「もちろんです。ですが、果たして取り調べができるかどうか疑問ですよ。何しろ記憶がないわけですからね」
「ん? 彼は一度意識を取り戻したんですか?」
「ええ、そうじゃないと、記憶を失っているかどうかなど分かるはずもないからですね」
 この二人の会話は、それなりに問題を提起していたが、浅川刑事は、この話にどんな問題があるかということをその時はまだ分からなかった。
 意識としては、
「漠然としてだが、何か大きな問題がある」
 ということは分かっていたのだった。

           殺害された社長

 浅川刑事は川越博士の話を訊いていて、記憶の喪失と、薬物の関係について興味を持つようになった。薬物というと、どうしても麻薬のようなものを想像し、摂取すると、一時期は幸福感に包まれ、自分の感覚は普段の何十倍、あるいは何百倍と言えるほどの覚醒し、覚醒したものすべてが快感に包まれることになる。
 感覚がマヒしてしまっていると言ってもいいのだろうが、その感覚をどのように表現していいのか分からないくらいに感じてしまうと、もう身体が薬がないとか満出来なくなってしまうのだ。
 快楽の後には恐ろしい禁断c症状が襲ってくる。昔テレビのコマーシャルであったが、
「あなた、クスリやめマシ化? それとも人間やめますか?」
 という名セリフがあったが、まさにその通りなのだろう。
作品名:因果応報の記憶喪失 作家名:森本晃次