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因果応報の記憶喪失

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 ちなみに、この三原則は、実は科学者が考えたものではない。あるアメリカの小説家が自分の小説のネタとして提起したものであった。そこでは、この三原則を保持したロボットが、いかに考えるか、さらにはこのよくできていると思われる三原則のどこに矛盾が隠れているのかということを、よく研究して描かれている。
 だが、今でもこの三原則は実際に組み込まれたロボットが開発中であり、ロボット開発のバイブルとして、大学の工学部などでは、最大の原則として研究が続けられているのであった。
 さて、このロボット工学三原則というのは、ある程度までロボットのAIが開発されていての話であるが、AIそのものを開発するうえで、一番の困難な問題は、前述の、
「フレーム問題」
 である。
 フレーム問題というのは、ロボットが人間の命令を訊いて、どこまで自分で判断できるかというところに関わってくるのだが、例えば、ロボットが命令者から、
「洞窟の中に燃料が入った箱が置いてあるので、それを持ってきなさい」
 という命令を受けて、洞窟の中に入った。そこには燃料のが言った箱があり、その下に上の箱を外すと爆発するという爆弾があったのだ。
 ロボットは何も知らずに、命令通り箱を持ち合えたので、そのまま爆発してしまった。
 では、次に開発されたロボットは、下が爆弾であり、爆弾を持ち上げれば、爆発することを理解する電子頭脳を組み込まれたものに改良され、同じように燃料を持ってくるように、命令した。すると、今度は洞窟に入ると、ロボットはまったく動作しなくなったのである。彼は頭の中で、爆弾が×初したらどうなるか?」などという問題の他にも、「天井が落ちてきたらどうしよう?」、「色が変わったらどうしよう」などという、爆弾とは直接関係のないことまで考えてしまったのである。
 つまり、何が問題なのか、それを選定することができないのであった。
 そこで、目的を遂行するにあたって無関係な事項は考慮しないように改良されたロボットに同じ命令をしたのだが、今度は洞窟を前にして、まったく動かなくなってしまったのだ。
 その理由は、最初に可能性を考えて。まったく動けなかったロボットに、目的を遂行するにあたって無関係なことを考慮しないと言ったとしても、何が無関係なのかという可能性も無限に存在しているのである。結局、無限を無限で補おうとしても、土台無理なことであり、ロボット開発は頓挫することになったしまうのだ。
 だが、考えてみれば、人間はそのことを意識することすらなく、本能で行動している。つまりは考え方として、フレーム問題の根本を解決できたわけではなく、ただ、うまく対処できているだけだという発想もありえることだということだ。
 フレーム問題が解決しない限り、ロボット開発も、そこで発生するであろう、ロボット工学三原則の問題にも行き着くことができないのだ。
 これはタイムマシンと同じで、社会倫理としての大きな問題を孕んでいて、開発における限界が見えているということの証明であろう。
 そういう意味で、人間はそれらを克服できていて、今はタイムマシンもロボットも必要なく、自分たちで生存できている都合のいい生き物だと言えるのではないだろうか。結局、話はそのまま曖昧なまま、その場でのラフな捜査会議は終了していた。

              意識と記憶の結界

 今、現実問題として、記憶喪失になる人間が増えているのではないかという話が捜査本部の中で言われるようになった。
 一つ言われているのが、
「薬物による副作用」
 という問題であった。
 九条聡子の身体から薬物が検出され、その彼女が記憶喪失になっていた。そこで初めて警察が薬物の存在を知ったのだが、同じように殺害を目撃した末松弘子がナイフの光が原因で貧血状態となり病院に運ばれると記憶を失っていた。
 たぶん、記憶を失うにはそれなりに失う理由があってのことなのだろう。弘子の場合は、目の前で死体を見つけてしまったという思いがそのままショックとなったのかも知れない。では何が事件に影響しているのか、そしてこの記憶喪失が意味するものは何なのか、それが問題だった。
 捜査本部でも話が出たが、今回の社長殺害は何かのきっかけになるものなのか、それとも陽動作戦のようなものがあるのか、カモフラージュなのかなどという曖昧な考えもあったが、それを否定できるだけの考えを誰も持っていなかった。特に桜井刑事は、その考えにほとんど踏襲していて、いかにそれを証明しようかとまで考えているほどだった。
 そもそも、桜井刑事は自分が思いついたことに対して自信過剰になるところがあり、それを跳ねのけるだけの力を持っていなかった。はねのけるつもりもないので、無理なことなのだろうが、少し気になったのは、
「殺害された社長の身体から、薬物が発見されなかったということである」
 それともう一つ気になることがあった、
「博士には記憶喪失の治療に、これほど偶然というには都合がよすぎるほど、たくさん患者が寄ってくるのか?」
 というものであった。
「一見関係のないような二人に見えるが、桜井には二人が共通している何かを持っているような気がして仕方がなかった。
 ただ、弘子からは薬物の反応が出ているわけではない。そこが気になったのであう。
 そんなことを考えながら、桜井の足はまたK大学病院に向かっていた。
 今日は博士に事情を訊きにいくわけではない。あくまでもお見舞いだった。それは刑事としてではなく、一人の男として、いや、昔好きだった相手としてであった。
 中学時代の記憶しかないのだが、桜井には聡子に対して、当時ウワサされていたことがあったのを、最近まで忘れていた。聞きたくもないウワサだったので、無視していたと言ってもいい。
 しかも、高校時代の桜井は今と違って、人と話をすることも苦手で、引きこもり一歩手前というところであった。まだいじめられっ子でなかったことがよかったのだろう。少しでも苛められていれば、きっと引きこもりになっていたと自分でも思っている。子供の頃というのは、それだけ多感であり、何かのきっかけで、違う大人になる可能性を秘めていることを、桜井は証明したようなものだった。
 彼が刑事になろうと思ったきっかけも、実は。この
「よからぬウワサ」
 が遠因だったと言えるであろう。
 臆病からか確かめることもせず、自分の中で勝手に否定して問題をすり替えようとまで考えていたような気がしている。
 聡子とは、高校から別々になってしまったので、彼女のことを気にしながらも、中学時代の彼女の幻影を追いかけることで満足しているような自閉症的な少年だったのが、その頃の桜井だった。
 高校に入ると中学時代の友達のウワサが訊きたくもないのに耳に入ってくる。中には、校則違反で退学になり、グレてしまい、何度も警察の世話になっているやつがいるなどという聞きたくもないウワサだった。
作品名:因果応報の記憶喪失 作家名:森本晃次