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因果応報の記憶喪失

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 と、松田警部補は言った。
「あの時のけが人はそのほとんどがK大学病院に搬送されたんです。重病の人も結構いましたからね。少し落ち着いてから、継承者は他の病院に転院させられる場合や、退院して通院に切り替わる人もいましたが、結構たくさんの人が入院となったんです。その時、死人が出なかった代わりに、かなりの人がショックからか、トラウマに見舞われて、後遺症となって残った人もいましたが、記憶喪失になった人も数人ですがいたようです。当時の博士はトラウマの治療を専門に行っていましたが、記憶喪失の人たちをどうしていいのか分からずに、右往左往していたんですよ。一人だったら何とかなると思っていたけど、たくさんだとなかなかうまくいかない。何しろ記憶喪失に立ち向かう人間が一人なのだから、限界がある。これをいまさら知ったわけだが、それは複数の記憶喪失者が反発しあって、記憶を呼び起こそうとする人の意志に目を向けないということになったんでしょうね。博士はそう言って、自分には記憶喪失を治すにも限界があるとおっしゃっていました。皮肉なことに、記憶喪失治療が、博士のトラウマになったんですよ。それなのに、今回の事件で博士が記憶喪失の治療ができるようになるなんて、トラウマが取れたのか、それとも博士が覚醒したのかの、どちらかなのかも知れないと思っています」
 と、鑑識官は言った。
「そうなんですね。でも、そんなそぶりは川越博士からは感じられませんでしたよ」
 というと、
「そうですか、じゃあ、克服されたんでしょうかね」
「ところで、その時の事故というのはどうんなものだったんですか? 私はあまり記憶にはないんですが」
 と桜井刑事は言った。
「ちょうど桜井君は、他の事件の捜査で、県をまたぐ広域事件だったこともあって、捜査本部のあるO県に出張っていたはずだと思ったけどね」
 と、浅川刑事が言った。
「ああ、あの時の事件ですか。だとすれば、私は意識がなかったかも知れません」
「あの事件は、ちょうど道路工事と、ガス管工事が行われていて、連絡がしっかり行き届いていなくて、不慮の事故ではあったんですが、作業を請け負った会社の監督ミスではないかということで、鑑識の方でも結構調べたつもりだったんですが、ハッキリとした証拠が出てくることもなく、請負会社を起訴することができなかったんです。松田警部補などは、歯がゆい気持ちだったと思いますが、我々鑑識もまったく面目は丸つぶれだし、あれだけの被害者に対して顔向けできないしで、これほど歯がゆかったことはなかったですね。死者は確かにいなかったんですが、重傷者や精神的な後遺症を持った人をたくさん作ってしまったことで、かなり世間から責められたりしましたね。請負会社の方も起訴は免れましたが、信用という意味では地に落ちてしまい。しばらくしてから倒産したようです。ちょっとしたことで防げた事故だという検証もあったことから、世の中に課題を残した事件としても言われるようになりましたね」
 と鑑識官は言った。
「それで、川越博士の方は?」
「博士も一生懸命に精神的な被害者の治療には当たっていましたが、どうしても精神的なケアは目に見えるものではない。専門的には徐々に良くなっていっているのが分かるんでしょうが、何しろ素人にはよく分からない。怪我が治って家に帰っても、ボーっとしているだけで、数区は気を遣わなければいけない。まるで痴呆症のような感じなので、目も話せない。中にはヘルパーさんを雇った人もいるようですが、いいヘルパーさんならいいのですが、中にはヘルパーになってはいけないという程度の低い人までいたりする。そんな人がたくさん後遺症としての記憶喪失を抱えたまま残ってしまったことで、家族からも非難を受ける。そんな状態だったのではないでしょうか?」
 と、鑑識官は言っている。
「私が話を訊いてきた限りでは。博士の理論は理路整然としていて、理屈に適っていたように思えました。それに、分からないことはしっかりと分からないと言っていたのが印象的だったので、過去にそんなことがあった人とは思えないほどでした。もっとも、私がその話を知っているうえで博士に逢っていたのであれば、また違った印象を持つのかも知れませんね」
 と、桜井刑事は言った。
「もちろん、今回の事件と四年前の事故、そして博士が関わっているとは思えないのですが、偶然と都合のよさというのを考えてみると、今のところカギを握っているのが、記憶を失った人の証言ということもあり、博士が関わっていることに違いはないですからね」
 と浅川刑事は言ったが、
「浅川さんは博士のことをどう思いましたか?」
 と鑑識官の人が言った。
「どうって、私も桜井刑事と同じイメージを抱いたにすぎませんが、確かに何か都合のいい環境を感じてしまう気がしますね」
 という浅川刑事に対して、
「そういえば、浅川刑事が面会した九条聡子さんなんですけどね。彼女は実は私の中学時代の同級生なんですよ。彼女は酒匂刑事もご存じの通り、記憶喪失なんですが、私はそのことを知らなかったんですが、車いすに乗って看護師に押されて散歩をしていたんですが、急に私を見て、懐かしそうに私に話しかけるんですよ。それは完全に中学時代の彼女でした。しかも、あれから十数年経っている私なのに、自分が中学生になったかのように振る舞っている彼女がどうして私を見て私が分かるのか、それも不思議でした。いや、不思議というよりも、都合がいいと言った方が正解なのかも知れないですね」
 と、桜井刑事が言った。
「それを都合がいいというのは、少し違うような気がするんだけどね。都合がいいというよりも、操られている人形。つまり傀儡人形というべきでしょうか? ピエロの恰好をしていれば、年齢も性別もごまかせる、そんな雰囲気を感じたんだよね。奇抜な格好をしているのには違和感がないのだが、それは逆に発言が奇抜な格好で五か貸されてしまうような道化師と同じなのではないかと思うんです」
 と、浅川刑事はそういうのだった。
「何か催眠術のようなものにでもかかっているのかと思いましたよ。馴れ馴れしく話しかけてくるんだけど、その様子は中学生。だけど、雰囲気は違っている。大人なんだから、いくら馴れ馴れしくても、表情は変わらないんですよ。そこに大いなる違和感があったのですが、その違和感がどこから来るのか分からない」
 と、桜井刑事は言った。
「傀儡人形と、催眠術。どちらも発想としては同じところから出ていると思うんだけど、行き着く先が違う。もっというと、目的の違いが大きく表れている気がするんだけど、考えすぎだろうか?」
 と浅川刑事が言った。
「まあ、皆それぞれに思いがあっての発言なのだろうが、とりあえず、今の我々には、集められるだけの情報を集めて、早期の事件解決に導くというのが目標としてあるので、そこを間違いないようにしていただきたい」
 と松田警部補は話した。
作品名:因果応報の記憶喪失 作家名:森本晃次