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モデル都市の殺人

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 初めて相手をしてもらった時、今までに何度も風俗経験があることで、勝手にベテランのように思っていた自分の鼻先を折られたような気がしたのが、睦月との出会いだった。
「あのねえ、どうしてそんなに俺を責めるんだよ。俺は客だよ。君たちは客を満足させてなんぼなんじゃないのかい?」
 と訊いてみた。
 それはあまりにもベテランだと思っていた自分のプライドを傷つけられるような相手をしていたと思ったからだ。
「いいや、そんなことはないさ。相手の伸びきった鼻を叩き追ってあげるのも、勇気というものさ。それにね、私は気に入った相手でなければそんなことはしない。どうでもいい相手だったら。あんたのいうような相手をして、それまでさ。相手ももう白けて私を指名したりなんかしないだろうからね」
 と言っていた。
「俺を気に入ってくれたということかい?」
「そうだね。正確には気になると言った方がいいかな? 気に入るよりも格上なんだよ?」
 と睦月は言った。
 言われてみれば、
「確かにそうだ」
 と感じた。
 その会話があってから、睦月をお気に入りに入れ、数日に一度は会いに行ったものだ。
 睦月も次第にその気になってくれたようだが、春日井が彼女に対して、お店の中でも風俗嬢の彼女の後ろにハッキリと本当の彼女を垣間見るようになったその時、
「睦月ちゃんは辞めちゃったんですよ」
 と言われてしまった。
「えっ?」
 と言って、途方に暮れるしかなかった春日井だったが、いなくなった理由を、
「自分のせいだ」
 と思って、しばらくショックを抱えていたが、そのショックは次第に膨れ上がる一方だった。
「恋の悩みは時間が解決してくれるなんて、ウソじゃないか」
 と感じた。
 今までに何度も女の子と付き合ってきたが、こんな気持ちになったのは初めてだった。どのように感じて行けばいいのか分からずに、今までの恋愛が薄っぺらいものであったことに気づかされた。
 今度の方が、相手をソープ嬢と思い、甘く考えていた自分が情けないと思うようになった。
「要するに何が大切なのかということを分からなかった自分が一番悪いんだ」
 と思い、それからしばらくは、風俗に通うこともなくなった。
 ただ、その代わり、キャバクラなどにはよく通うようになった。元々ちょくちょく通ってはいたが、
「今までの春日井ちゃんとはまるで別人のようね」
 と女の子が控室で話をしていた。
「何か落ち込んだかと思うと急にテンション上げてみたり、まるで失恋したみたいじゃないの」
 と、さすがにオトコを見る目がある彼女たち、彼女たちにかかれば、春日井程度の男であれば、少々のことなら分かってしまうというものだ。
「でも、あれが本当の春日井さんだとすれば、私あの人悪くないと思うのよ。顔立ちも整っているし、決して怒るようなことはない。気持ちにゆとりさえできれば、きっとついていくにはいい人なのかも知れないと思うの」
 と、一人のキャバ嬢が言った。
「確かにそうね。裏表はなさそうな気はするんだけど、気の性かしらね?」
 と一人がいうと、こういうことには、うんちくをいつも語っているアキという女性が案の定、口を挟んできた。
「春日井さんは、見た目があんな感じでしょう。だから、女性としては賛否両論があると思うのよ。顔は少し引いてしまうほどだけど、コンプレックスを持っている。その代わりに、人には優しいと思う人ね。でも、逆にそのコンプレックスが異常な性癖を目覚めさせるんじゃないかと考える人の二つね。そして女性にも二種類がいる。彼を可哀そうと思って、母性本能を擽られる人、そして彼の異常性癖に閉口してしまう人ね。でも、私たちって、結構、人のアラを探すよりも、人のいいところを一つでも探そうと試みるでしょう? それが春日井さんのような人に対してどのように感じさせるか。自分に気があると思ってしまうのか、それとも、かわいそうに思ってくれていると分かっていることで、さらに同情を誘おうとするか、どっちなんでしょうね?」
 とアキは言った。
「私は、同情しちゃう方かな? 好きになるかどうかは別にして。でも、あの人、話をしていると結構楽しいのよ。だから、放っておけないって気になっちゃうのかしらね」
 と、最初に彼の話題を出した女の子が言った。
「私が一つ感じていたのは、あの人にお友達っているのかしら? っていう思いなの。元々無口なんだけど、他人のことを決して話そうとはしないのを見ていると、ひょっとすると自分が怒りっぽい性格だということを分かっていて、それで争いを起こしたくないから、他人と関わらないんじゃないかって思うの。だけど、こういうお店だったら、お金を払えばお話だってしてくれるじゃない。楽しませてくれようとするのを感じて、それで満足しているじゃないかとも思うことがあるの」
 と、もう一人の女の子が言った。
「じゃあ、今日の春日井さんをどう思って?」
 とアキに言われて、彼女は、
「そうね。ひょっとすると、唯一、話ができていた人が、いなくなったんじゃないかしら? だから、あんなに寂しそうなんだけど、でも、まわりから人がいなくなることに慣れているのか、それとも感覚がマヒしているのか、どういう感情になっていいのか、分かっていないような気がするのよ。それだと、とてもお気の毒な気がするわ」
 と話をしていた。
「ひょっとして、春日井さんを好きになっちゃったんじゃないの?」
 とアキに言われて彼女はドキッとした。
 彼女の名前はゆりなという、ゆりなは少し考えて答えた。
「それがよく分からないのよ。私はどちらかというと惚れっぽい方で、好きになったと少しでも感じると、そこから加速度的に相手を好きになっていくのよね。でも、今度は春日井さんのことを好きになれそうな気がするんだけど、一気に盛り上がってくることもないの。いつもと違っているから、私自身戸惑っているの」
 と恥じらっているかのようなゆりなだった。
 ゆりなというのは、今年、二十八歳になっていた。このお店に勤め始めてから、三年ほどが経っていた。ベテランの域と言ってもいいだろう。
 ゆりなという女の子は、キャストの中では実に平均的だった。指名も、常連も、同伴も、アフターも、順位にすれば、本当に平均的だ。すでに店では若い子が増えてきたので、そろそろ下火になってもよさそうなのに、最初からずっと平均的な彼女は、男性スタッフからも、
「ゆりなさんがいるから、キャストの均衡が取れているんだよ」
 と言われ、
「いやあね。それって皮肉?」
 というと、
「そんなことはないさ。どこにでもいる存在というのは、逆にいうと、絶対に必要なという意味だからね。扇のかなめとでもいえばいいのかな?」
 と言われて、それほどでもない気分になっていたゆりなだった。
「春日井さん、本当に心配だわ」
 と言っていたゆりなが、翌日、春日井と同伴してきた時は皆驚いた。
 アフターはあっても、同伴はなかった春日井がどうした風の吹き回しなのか、とにかくゆりなは得意げであった。
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次