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モデル都市の殺人

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 あらたまって自慢げな態度は取らないが、満足気な表情が、彼女の感情を物語っている。初めて、平均的な女の子が目立った瞬間だったが、却って心配になる男性スタッフもいて、春日井の本心を知りたいと感じていた。
 前の日の落ち込みはどこ吹く風、たった一日でどうしたというのだろうか?

                  遥香の秘密

 殺害された直哉の死体を見て、奥さんの治子は思ったよりも気丈であった。
――まさか、この人が犯人?
 と思ってしまいそうなほど、身内の死に対して冷静に見えた。
 そのおかげもあってか、事情聴取にはさほどの時間が掛からなかった。普通であれば、泣き崩れて嗚咽のために、なかなか言葉も出てこないものだが、この時の奥さんは、ショックのためか、死体を凝視したまま、身動き一つせず、表情も固まったまま変わらなかった。
 感情の表し方は人それぞれなので、余計な詮索になってしまいそうだが、ここまで冷静だと何か知っているかも知れないと思うのも無理もないことだろう。ただ、事情聴取もやり方によっては、まったく答えてくれないことも十分に考えられるので難しいかも知れないと思った捜査陣だった。
 まずは、浅川刑事からの質問であったが、
「旦那さんを最後にごらんになったのはいつだったんですか?」
 と訊かれた治子は、
「昨日の寝る前でした。私は朝が早いので夜の十時過ぎには寝るんですが、主人は仕事から帰ってきたのが、昨日は九時だったので、その時に見たくらいです」
 というと、
「じゃあ、旦那さんとは何かお話されましたか?」
 という浅川刑事の質問に、
「いいえ」
 とだけ、短く答えた。
「じゃあ、旦那さんが何時頃に寝られたのか、ご存じではないですか?」
「いいえ、分かりません、昨日は九時に帰ってきましたけど、他の日はもっと遅いこともあるので、顔を合わせない日などしょっちゅうなんです。休みの日も出かけていくことが多く、ほとんど会話もありません。いわゆる家庭内別居状態と言ってもいいのではないでしょうか?」
 と、今度は聴かれもしないのに、治子は答えた。
「なるほど、ということは、寝室も別々だったんでしょうか?」
「ええ、そうですね。最初は主人の仕事が遅いことで、すれ違いが多かったんですが、そのうちに私の方が疲れてきましてね。それでそんな状態になりました」
 と治子がいうと、さすがに、そのことを深堀してしまうと、話が長くなりそうなので浅川刑事は話題を変えた。
「分かりました。では、昨夜、どこかの段階でご主人はお出かけになったということなんでしょうね?」
「ええ、そうだと思います」
「ところで、ここは、義弟さんの工場だそうですね?」
 と訊かれて、まだ無表情のまま治子は、
「ええ、そうです。うちの人の実家でもあります」
 と答えた。
「そうなんですね。かあ、奥さんも時々こちらにお邪魔したりしたこともあったんでしょうか?」
 というと、治子はビクッとしたような微妙な反応を示して、
「いいえ、私はほとんど来たことはありません。亡くなった主人が実家を避けていたところがあるので、かなり敷居が高かったというのが事実です」
 と、治子が答えた。
「いろいろはご事情があるようですね?」
「ええ、主人は元々このK市というところが嫌いでした。小さい頃から家族からも疎まれていたり、学校でも苛められていたんだそうです。だから、自分だけが特別なんじゃないかと思っていたそうですが、中学に入った頃から、このK市というところは他の土地と違って特殊であることに気づくと、急に、自分の方が普通なんだと思うようになったそうです。それで高校を卒業して、家を出て、大学のK市以外のところに通うようにしたんだそうです。そんな主人を春日井の先代社長は最初こそ何とかしようと思っていたそうなんですが、いつの間にか弟さんに希望を託すようになって、将来、主人が春日井家と決別する目的で私の家に養子に来てくれることになっても、思ったほどの反対がなかったのには、私たちもビックリしたくらいです。そんな経緯もあって。こちらにはほとんど赴くことはありませんでした」
 ということであったが、あくまでも奥さんの私見であり、実際にはどうだったのか分からない。
 奥さんから聞ける情報というと、今のところ、それくらいしかなさそうだった。また何かあったら、話を訊くということにして、その時はそれで一旦奥さんへの事情聴取は終わった。
 死体が発見されてから、すでに三時間が経っていたので、詳しいことは解剖してみないと分からないということであったが、分かっていることとしては、死亡推定時刻は、今朝の四時頃ではないかということであった、死因は一目瞭然、胸に刺さっているナイフが死因を物語っていた。ナイフを抜き取らなかったのは、血が飛び散るからだろうということで、そうなると、殺害した人間が大量の返り血を浴びることになる。下手に捨てられないし、持っていれば、証拠にもなってしまう。それなら、なるべく返り血を浴びたとしても、最低限の量で済ませるだけの方法が取られてしかるべきである。
 もう一つ、鑑識官の話では、
「この死体は、どこかから運ばれてきたのかも知れないですね」
 ということだった。
「根拠は?」
「いくら、ナイフが刺さったままとはいえ、あまりにも血が残っていない。どこかで殺されて、ここに放置されたと考えるのが妥当ではないでしょうか?」
 ということであった。
 そして、片桐の話では、
「ええ、私がいつものように工場に一番乗りで入ってきたのですが、ちゃんとカギはかかっていました。オートロック形式ではないので、カギを表から掛けるか、中から掛けるかしかないので、犯人はカギを持っている人間だということになります」
 ということだった。
 それからしばらくして、工場の社員全員が出社してきたが、片桐が少し慌てだしたのを浅川刑事は気になっていた。
「どうされたんですか?」
 と訊かれた片桐は、
「実は工場長と連絡が取れなくなっているんです」
 と言われて、
「この状態を工場長には連絡されたんですよね?」
 と言われた片桐は少し戸惑いながらも、
「いいえ、実はこのことをお知らせしようと、工場長のケイタイに連絡を入れて、折り返し電話をもらうようにしていたんですが、いまだに連絡がないんです」
 というではないか。
「もう、死体が発見されてから三時間近くも経っていますよね。それで連絡がないというのはちとおかしくはないですか?」
 と浅川刑事に言われて、まずます近楽した様子の片桐は、浅川刑事を。
「ここでは何ですから」
 と言って、工場長質の応接席に案内した。
「どういうことですか?」
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次