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モデル都市の殺人

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「ええ、その通りです。死体を動かしたことが事後共犯だとすると、ある程度辻褄が合うような部分があるんです。例えば、K市河川敷で発見された現場ですがね、あそこには二つの血液型の痕跡が残っていた。二つの死体が並んでいれば、確かにまず疑われるのは、治子か遥香のどちらかということになる。片桐氏ということも考えられるが、二人が並んでいれば、逆に考えにくい。彼にどちらかを殺害する動機があったとしても、二人を同時に殺すというのは考えにくいですからね。でもですね、ただ、もっと考えると、死体を動かすということは、それだけ危険性もあるんですよ。その証拠に春日井板金工場で死体が見つかった時、死体を動かしたかも知れないということは簡単に看破されましたよね? だから、死体が見つかった時、被害者がどこで殺されたのかを考えているところに、弟の死体が発見された。一緒に殺されたかも知れないと思って調べると、二種類の血液型が見つかった。ここまで共犯者は考えていなかったとも言えるかも知れないが、そのおかげで血液型がクローズアップされ、犯人が分かりやすくなってしまった」
 と浅川刑事は言った。
「河川敷で二人の死体があったら、どうして困るんだろう?」
 と松田警部補が言ったが。
「それはですね。普通殺害された人が二人いたとすれば、どう考えます? 犯人がまとめて呼び出して殺したと思ませんか? でも、普通それは考えにくいですよね。だって、一人で二人を殺すよりも、一人ずつ別々に殺害する方が成功率は高いですよね。二体一だったら、明らかに返り討ちに遭ってしまう。相手だって殺されないように必死になっていますからね。犯人がそんなことに気づかないわけはない。それをわざと我々に、被害者は二人同じ場所で殺されたと、一周して考えさせることで、この当たり前の考えを思い起こさせないようにしているということも言えるのではないでしょうか?」
 という浅川刑事は、言ったが、
「ということは、共犯者は相当頭がいいということでしょうか?」
「いや、そういうことはないと思います。これは偶然そういうことになっただけで、本人としては、少しでも犯行を晦ませることで、真犯人を救おうとしていたのではないかと思うんですよ。犯人は偽装工作までは考えていなかったかも知れないですね、でも、自分の知らないところで、誰かが思いもよらない偽装工作をしてくれたことで、それが誰なのか分かっていたけど、今度は自分がその人を助けなければいけないと思ったのかも知れない。お互いに相手のことを思いやっているところが、この事件の大きな特徴なんじゃないかと思うんですよ」
 と、浅川刑事は言った。
「ということは、事後共犯者は、真犯人が犯行を犯すのではないかと絶えず見張っていたんでしょうか?」
 と桜井刑事は訊いたが、
「それはそうだと思いますよ。ただ、犯人にも計算できないところがあった。遥香がおじさんを殺そうとしているところを、両親は別々の場所から見ていたんでしょうね。ちなみにここでは事実とは別に、実際に表に現れている家族関係で話をさせてもらいますが、被害者は、殺されるつもりでいたので、さほどの抵抗は受けなかったと思います。だが、何とか防ごうとして、衝動的に飛び出したのが父親だった。そこで完全に遥香は頭の中が混乱してしまったんでしょうね。たぶんですが、大きな声で叫んで、叔父さんを刺したナイフで父親を刺した。おじさんと違って父親は自分が殺されるなどと思ってもみなかったと思います。衝動的に飛び出しはしたけど、頭の中には、まさか娘が自分を殺すなどとは思わなかったんでしょうね。結局二人までも殺してしまった遥香は、もう完全に半狂乱になって、その場を立ち去った。一部始終を見ていた母親は、すべての責任は自分にあると思い、何があっても娘を庇わなければいけないと思った。そこでできることが、何とか犯行を複雑にしようということだったんでしょうね。だからおじさんの死体を自分の家に運ぶのではなく、敢えて夫の死体を運ぶことで、犯罪を複雑にしようとしたんでしょうが、却って疑いを招くことになった、だから私もある程度まで犯行を想像できることができたんだと思います」
 と、浅川刑事は言った。
「でも、母親は娘がおじさんを殺した理由は分かっていたんでしょうね?」
 と桜井刑事が訊いたので、
「ええ、分かっていたと思いますよ。だから、ここまでであれば、想定内だったはずなのだけど、まさかそこに夫が出てくるなど、しかも、その夫を刺し殺してしまうなど、思いもしなかった。そこで完全にこの事件の元を作ったのが自分であることに気づいた母親は、何としてでも娘の犯行をごまかさなければいけないと思ったんでしょうね。彼女のような性格は、そう思ったら、他のことが考えられないという思い込みで行動するんでしょうね。それが悲劇となり、こんな形で、自分たちに関係のない人まで巻き込くことになるとは思ってもいなかったでしょうね。それがこの事件の一番罪深いところで、余計なことさえしなければよかったと思われるところなんですよ」
 と浅川刑事は言った。
「ただ一つ気になるところがあるんですが」
 と浅川刑事は続けた。
「どういうことだね?」
 と、松田警部補は訊いてみると、浅川刑事は今度はさっきよりもさらに苦々しい表情になり、やり切れないという顔をしていた。
「母親がどうしてここにいたのかというのが少し気になったんですよ」
 というと、
「それはやはり娘のことが気になったからじゃないかな?」
 と松田警部補が答えたが、
「それはそうかも知れませんが、そうなると四六時中見張ってなければいけなくなるわけです。でもそんなことはまず不可能であり、あの時は偶然見かけたというのも、少し話がうますぎる気がしたんですよ」
 と浅川が答えた。
「じゃあ、君はどう解釈するのかね?」
 と訊かれ、さらに苦々しい顔になり、
「これは考えすぎかも知れませんが、母親にそこに来るように娘が言ったのではないでしょうか? 直接言ったのか、電話を掛けたのか、置手紙をしたのか、メールしたのか、どれかは分かりませんが、考えられるとすれば直接いうか。電話を掛けるかではないかと思うんです」
「どうしてだね?」
 と訊かれた浅川は、
「証拠が残るのを恐れたのかも知れませんね。電話なら録音もあり得ますが、母親がいちいち娘の電話を録音するというのも考えにくいですからね。メールや置手紙なら、消したり捨てたりしなければ、残っていますからね」
 と言った。
「なるほど、では、なぜ母親に連絡する必要があったんだね?」
「私が考えますに、母親に過去の自分の罪を顧みてほしかったんじゃないでしょうか? 過去の母親の過ちがこんな事件を起こした。それを思い知らせるためですね」
「じゃあ、遥香の殺害の動機がなんだというんだね?」
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次