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モデル都市の殺人

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「たぶん、直接的にはおじさん、いや実際には血の繋がった実父への復讐でしょうね。春日井氏は、ゆりなさんの前で、二度の反省があったというではないですか。っ一つは兄の嫁との不貞。そして最近にも何かあったとすれば、それは遥香のことではないでしょうか? ひょっとすると、春日井は自分の娘、表向きは甥っ子に乱暴をしたのかも知れない。ひょっとすると、遥香は春日井のことを父だと知っていて、春日井は甥だとしか思っていない関係であれば、春日井のような男であれば、甥でも何でも蹂躙するくらいのことはしそうですからね。だけどさすがに娘ともなると別です。いつ春日井が遥香を自分の娘だと知ったのか、ハッキリ分からないが、ひょっとすると、その暴行された時、遥香がそのことをいったのかも知れない。春日井にとっては、地獄のような気持ちだったでしょうね。知らないとはいえ、自分の娘をと思うと、そおショックは加¥計り知れません」
 と浅川刑事は言ったが、
「でも、甥だって同じことですよ。やっていいことと悪いことがある」
 と、桜井刑事は怒りを込めて言った。
「でもね、春日井は今だ独身で、子供もいない。子供がほしいと思っていたというのは、ゆりなの証言にもあるんだけどね。想像はしても、ピンとこない自分の娘、甥っ子の遥香を娘のように思っていたのかも知れないが娘というわけではない。それがジレンマとなったのかも知れないね」
「それは理由にはなりませんよ」
 と、相変わらず怒り剥き出しの桜井刑事だ。
「それはもちろん、その通りだ。でも、春日井という男、実はそこまで悪い男ではないような気がするんだ。でも、遥香にとっては、それ以上に大きなジレンマが襲ってきた。そしてその矛先は母親にも向く。そもそも二人が不倫などしなければ、こんなことにはならなかった。だが、それであれば、自分が生まれてきたかどうか分からない。そうなると、自分がこの世で不要な人間に思えてくる。それが遥香にとってのジレンマであり、苦しみでもあり、恨みであった。直接的な恨みは実父であるおじさん。そしてほぼ同罪と言えるのが母親。さすがに一緒に暮らしているので殺すのはためらったが、母に容疑が向くように仕向けようというくらいは思ったでしょうね。その第一歩が母親をあの場所に連れてきて。影から自分が実父を殺すところを見せつけることだった。本当は母親を第一発見者にしたかったくらいなんじゃないでしょうか?」
 と、浅川は言った。
「じゃあ、どうして母親は事後共犯などをしたというのだろう? 娘を助けるためというのは分かるが、娘はそこまで計算していたんだろうか?」
 と松田警部補はいった。
「そうなんですよ、もう一つの疑問はそこにあったんですよね。事後共犯をすることによって、ある意味、事件がややこしくはなったが、結果として、血液型を調べる結果になったと思うんですよ。もちろん、血液型を確認はすると思うんですが、それをいちいち問題にすることはなく、捜査員の中で血液型を意識することはないと考えられるんですよね。そう思うと、死体を動かしたことによって図らずも血液型がクローズアップされることになり、自分が犯人であるということの暴露よりも、ひょっとするともっとリアルなとことで、自分の家族関係の歪な関係を知られてしまうことになる。本当なら墓場まで持っていきたい事実だったかも知れないのにですね。そういう意味で、娘は復讐から母親に罪を着せようとした。そして、母親は損な娘を不憫に思い、事後共犯を行ったところ、却って娘の計画を踏みにじることになるという実に皮肉な結果をもたらしたのではないかと思うんです」
 と、浅川刑事は話した。
 誰もが浅川刑事の意見に異論を唱えるものはいなかた。何となく事件の真相めいたことを分かっていた人もいるかも知れないが、改めてこうやって話をしてみると、事実と思えることは衝撃的だった。
「結局、娘としては一番誰を憎んでいたんでしょうかね?」
 と、桜井刑事が口にすると、さっと皆の視線が桜井刑事に向いた。
 それは非難に近い視線であり、最初は誰も口を開かなかったが、
「それは、ここで言及すべきことではないと思います。取り調べの中で、そういう話になると自然と訊けばいいことではないかと思います。こんなことを言ってはいけないのかも知れないですが、私個人の意見とすれば、そのことは誰も知らなくてもいいことのように思えるんです。これこそ、遥香が墓場まで持っていきたいことではないでしょうか?」
 と、浅川刑事は答えた。
「よし、それではとりあえず、まずは遥香の逮捕状を取って、彼女の自白を促すような取り知らbを行う必要があるな。まずはそこからだ」
 と松田警部補はそう言った。
 事件は、急転直下、遥香が逮捕されたことで、素直に自供を始めた遥香だったが、その内容はほぼ、浅川刑事の推理通りだった。本来なら言いたくもないことを口にさせたことは、まるで傷口に塩を塗るかのような後ろめたさがあったが、警察官としては罪悪感はなかった。
 今回の事件は、血縁関係の中に歪な愛欲が渦巻いたことと、若気の至りともいうべき若い頃のちょっとした浮気が事件の発端となっているが、その奥底に、モデル都市としてのK市の存在があったことが原因であることを忘れてはいけない。

 ちなみにこの作品は、K市という特殊な街の存在を、まるでパラレルワールドのような発想から描いてきた。したがって、K警察署の浅川刑事という刑事の存在も他の小説とは同じようで同じではないパラレルワールドのなせる業なのかも知れない。
 そしてその発想は、作者の浅川刑事が関わっていない他の事件簿にも言えることなのかも知れないが、それを決めるのは、読者の方の感性と言えるのではないだろうか。

                  (  完  )



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作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次