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モデル都市の殺人

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 娘の血液型に関しては、母親である自分が分かっているのは当たり前のことだった。生まれた時から母子手帳を持っていて、特に血液型に関しては手帳にも書かれていたので、いくら天真爛漫な治子でも気にしないわけにもいかなかった。
 だから、自分の血液型と娘の血液型は分かっていたつもりである。
 だが、今になって知らされた衝撃の事実によって何が分かったのかというと、
「遥香の父親は、川崎直哉ではない」
 ということであった。
「では、誰が父親なんだ?」
 と訊かれた時に身に覚えとしてあるのは、何と、義弟にあたる春日井悟であった。
 その頃、少し治子もそして春日井氏も、どこか精神的に不安定だった。川崎は仕事の長期出張で、ちょうど海外に行っていたということもあり、最初こそ、直哉が長期いないということで少し気楽だった治子だったが、帰国が近づいてくると、また少し鬱になっていた。
 その頃、軽いDVに悩まされていた治子が、助けを求める気持ちで春日井にすがったというのも、無理もないことだったが、それが今となってそれが再燃してくるとは思いもしなかったのだ。
 そこに間違いは確かにあったが、そこまで前後不覚に陥るほど深い悩みだったということを自覚できなかったのが、一番の問題だった。
 そして、そのことを知っていたのかどうか、そこまでは分からないが、娘の輸血ということに少なからずの驚愕を感じた納屋は、娘が自分の子供ではないことを知っていたということになる。その方が今回の事件に関わっている問題としては大きいのではないかと思うのだった。
 そして、今回、義弟の血液型がA型であるということが発覚したことで、もう間違いないと思うようになった治子だった。確かに確率の問題ということなので、父親が絶対に春日井だということはいえないのかも知れないが、治子には完全に分かってしまったのである。
 そういう意味で、事件の全貌を知っているのは、現時点では治子だけだと言っていいというのは、こういう経緯からであったのだ。
 治子にとって、今まで意識しなかったのは、確かに血液型を確認する機会がなかったからというのが一番大きな理由だが、それ以上に、自分で事実を知るのが怖かったという気持ちもあったのかも知れない。
 まさか娘の父親が違うなどという風に考えたくないという思いもあったし、それを知ったところで、
「いずれは娘も知ることになる」
 という危険性を自らで演出してしまうことを恐れたのだ。
 放っておけば、何ともないことを動いてしまったことで、自分がずっとそのことに苛まれなければいけなくなることを恐れたと言ってもいいだろう。それを思うと、治子はどうしても確認する勇気がなかったのだ。
 彼女のいうところの天真爛漫という性格は、裏を返せば、不安に苛まれるという自分を創造したくないというところから来ていると言えるだろう。その恐怖を抱えたまま生き続ける勇気を持てないことが、裏返しとして、まわりに天真爛漫に見せていることなのかも知れない。
 娘がいつ知るかは別にして、その時に考えればいいというくらいに思えるのであれば、何も気にすることはない。それができないことに治子の悲劇があったのだろう。
 いや、娘がもし知った、あるいは疑問に感じたとすれば、それを最終的に母親に確認することはしないに違いない。治子が臆病な性格であることは娘である遥香が一番よく分かっていた。
 母親の血を確実に引いているAB型としては、そこまで考えたとしても、不思議はないことであろう。
 AB型だからということではなく、親バカということでもないのだろうが、治子は遥香の頭の良さを認めていた。勘の鋭さ、的確な判断力、これは親二人にはないものであり、父親としては、
「自慢の娘」
 と称していたくらいだった。
 母親の治子も同じことを思っていて、
――お互いに娘に対して感じていることが同じなのだから、三人が親子関係であることは間違いない――
 と思っていたことだろう。
 娘の遥香は、母親に決して質問はしなかった。子供の頃から好奇心が旺盛な娘だったので、どんなことでも、父親だったり母親だったりに質問していた。その質問は的確なもので、回答者に対しての気遣いも行き届いていると思わせるほどだった。
 父親は、あまり何も考えずに答えていた。
「あの子が興味を持つのだったら」
 というのが一番であり、それに対して真摯な姿勢で答えるのが親の義務だとも思っていたのである。
 その思いは自分たち以外の家庭環境であれば、しっくりきたのであろうが、途中からぎこちなくなっていった。
 その原因を作ったのは、今まで一番何でも話をしていた父親だった。遥香が中学生の頃から、急に治子に対しても、遥香に対してもぎこちなくなった。ちょっとしたことでハットしてみたり、大げさに反応してみたりした。それに対して遥香が何ら反応しないことに対して、直哉は不満だったようだ。それよりも一番不満だったのは、母親の治子に対してであって、
「お前はいつも他人事のようだ」
 と一度直哉に言われたことがあったが、それ以来、その意識が強くなってしまったのだった。
 治子は母親として、夫として、全体を見渡せるような中立的立場にいるのが一番だと思っていたのだ。特に娘というのは、父親に似るというし、一番父親に懐くとも言われている。それであれば、二人の様子をちょっと距離を持って見つめているのが、一番親子関係がしっくりくる要因だと思うのだった。
「お母さんは、お父さんと仲が悪いの?」
 と言われたことがあったが、
「そんなことはないわよ」
 と答えはしたが、明らかに動揺していたという自覚はあった。
 明らかにこの動揺は遥香に伝わっているはずである。そもそも、こんな子供のような質問を高校生にもなった遥香がしてくるということ自体おかしなことである。それをしてきたということは、母親の様子を垣間見ようという意思がそこにあり、何を探りたいのか分からないだけに、何を考えているのか、娘だけではなく、自分を見失ってしまうかと思うほどであった。
――もう、その頃には、あの娘には分かっていたことなんだろうか?
 と思ったが、思い出せば思い出すほど、そう思えて仕方がなかった。
――知らぬは私ばかりなりか――
 と感じたが、その通りだったのだろう。
 だが、一体どうして父親が知ることになったのか、もし考えられるとすれば三つであった。
 自分が、知らなかったということは自分以外のところからである。まず最初に考えられるのは、、夫が何かに気付いて自分で調べたということだ。これは、一番考えにくいように思えるが、この家族関係の中では一番信憑性はある。これはあくまでも消去法で考えてのことであって、後の二つから考えるよりも筋としてはありえると思ったのだ。
 次に考えられるのは、父親である直哉に教えてもらったという考え方だ。これは彼の態度を見る限り、夫は分かっていたと考えられることであるから、もしそうだとすれば、いつのタイミングかというのも少し分かってきそうな気がする。それは、
「娘が学校で献血があるということをいった時よりも後」
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次