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モデル都市の殺人

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 そして、甘んじて殺されていった彼は、きっとその相手に自分の死を持ってだけでは償えないと思ったのではないだろうか。だから、甘んじて兄との死に対して、疑問を持つことがなかったことで、春日井は、死の間際で頭に浮かんだゆりなの元に、魂をつかわせたのかも知れない。
「やっぱり彼は、いつも私のことを気にかけてくれていたんだ」
 と、ゆりなは感じていた。
 ゆりなにそんな思いをさせている春日井は、実に罪作りな男だった。彼のことを本当に気の毒に思っているのは、ゆりなだけで、会社では有能な参謀と言われ、いろいろと後始末をしてきた片桐でさえ、彼を気の毒だとは思っていない。
 いや、むしろ彼とて被害者の一人であり、彼が聖人君子でもない限り、心の奥底では恨んでいることだろう。今まで工場長という立場を使い、さらに容姿端麗であることが災いしてか、数々の女性問題を引き起こし、そのすべてにおいて揉み消しや後始末をしてきたのは、間違いなく片桐だったのだ。
 中にはいわれのない恨みを買ったことだろう。どうして彼がそこまで工場に尽くすのか疑問であった。
 警察でも、一番の重要参考人として怪しまれているのは、片桐だった。今のところ見えているところでは動機の面で一番強いからだった。
 今警察で考えられている事件への疑問であるが、一番の疑問は、
「なぜ、二人の被害者は同じ場所で殺されて、片方は他に遺体を移動させることになったのか?」
 ということである。
 考えてみれば、多重殺人事件という、同じ時間に利害関係のある人間が、別の場所で殺されたり、同じ場所で死んだとしても、毒殺のような、犯人が直接死因に関わるようなことでない場合が多い。利害関係のある人が同時に同じ場所で刺殺されたというのは、あまり聞いたことがない。
 もし犯人にとって、それがバレることを恐れたのだとすれば、その理由も分かるというものだ。
 しかし、まず最初に発見されたのは、工場での兄の方だった。明らかに意図を持って死体を動かし、工場に放置した。朝一番で社員が出社し、続々と皆がやってくるのだから、すぐに死体が発見されるのは目に見えている。つまりは、
「弟よりも先に兄が発見されなければ困る」
 という何かがあったのだろう。
 もしあったとすれば、
「弟が兄を殺して逃げている」
 という発想であろうが、すぐに弟も、元々の殺害現場で、少し遅れてではあるが発見されている。ここにどういう意味があるというのか、考えさせられるのであった。
 捜査本部がそんなことを考えている間。妻であり、母親である治子は頭を抱えていた。正直に言えば、、この時点で母親は事件の真相を知ったのであった。今、生きている人間の中で、事件のすべてを知っているのは、母親だけだった。
 ここで暴露してしまうが、真犯人は母親ではない。ということは、真犯人も事件の全貌を知らないということになる。何とも不可解な事件ではないか。謎の部分も多く含まれていて、真犯人にも分かっていない部分があるのだった。
 それはさておき、警察でいろいろ分かってきたことを、家族の方でも少し情報として与えられた。
 これはやはりということであったので、警察も別に隠しておくよりも、情報を与えることで何か思い出してくれるようなことでもあればという思いがあったからである。そういう意味では別に捜査機密でも何でもない、普通の情報だったのだが、この情報によって、は母親には旋律が走り、ある程度の事件が見えてきたと言っても過言ではなかった。
 情報を持ってきてくれたのは、浅川刑事ではなかった。浅川刑事と同僚の桜井刑事で、彼は、三十代の浅川刑事に比べてまだ二十代の若々しい刑事だった。
 最近、巡査から刑事課に配属になり、まだ経験も浅かった。浅川刑事の元、将来が期待される刑事であった。
「この間の河川敷で、義弟の春日井さんが殺害されたことでの続報なんですが」
 ということで話し始めた桜井刑事であったが、ニコニコしている桜井刑事とは対照的に緊張感溢れる表情で目を見張っている奥さんの治子が印象的であった。
 桜井刑事は続ける。
「やはり、あの場には二種類の血液が付着していました。二種類というのは、A型とO型の血液で、A型というのは、義弟さんの血液型になるんですが、もう一つの血液型のO型というのは、ご主人の春日井板金工場で発見されたご主人の血液型と同じだったんですよ」
 という報告を受けた。
 それを聞いて、最初は考え込んでいた。そして、少しして、母親の表情が急に恐怖に歪んでいくのを感じた。激しく動揺しているようだったが、少しして、急に落ち着いてきたのだった。だが、また急に表情が変わった。今度は?みつかれそうなその表情は、怯えと後悔のようなものを感じた桜井刑事だったが、こんな不可解な表情を凝視できるのは、他にはいなかった。ひょっとすると、事件解決の一番の功労者は、桜井刑事だったと言ってもいいかも知れない。
 ここでなぜ治子が二度驚いたのか、そして最初と二度目で別の表情を浮かべたのか、それが一番大きな謎だと言っておいいだろう。
 治子が驚いたということに対して、最初の驚きは想像のつくものだった。これは今までなぜ当事者である自分が知らなかったのかということと、それを知ってしまったことで、何かが頭の中で閃いたということであった。
 それは血液型の秘密に関わることであった。
 血液型というのは、いろいろな区別の仕方があるようだが、基本的にいわれているのが、ABO型と言われるもので、一般的に知られている、A型、B型、O型、AB型という四つに分かれるものである。
 日本人の多くは、A型がO型と言われていて、一番少ないのはAB型だとも言われている。血液型占いというものもあり、それぞれの血液型によって、どういう性格なのかというのを判断する材料にされることもあるが、何しろ四つしかないわけで、絶対にどれかに当て嵌まるのだから、当然統計学的な面が大きく、一番多いパターンがその血液型だと言われるようになったわけで、
「当たっている」
 というだけで、その信憑性がどこまで確かなのか、怪しいものである。
 だが、一つだけ言えることがあり、
「血液型は遺伝というものに関しては、厳格である」
 ということである。
 どういうことかというと、両親の血液型によって、生まれてくる子供の血液型は決まっているというわけである。両親の血液型によって、絶対に生まれてくるはずのない血液型が存在するというわけで、このことが今度の事件の核心をついているということに、治子は初めて気づいたのだ。
 母親の治子の血液型はB型、娘の血液型はAB型である。実は治子は父親の血液型を知らなかった。だからというのもあるが、あまり血液型に対して気にすることもなかったが、
今回の事件で父親の血液型がハッキリし、O型であるということが分かると、治子はハットした。
「果たしてO型とB型から、AB型が生まれるなんてあり得るのだろうか?」
 ということであった。
 それを考えた時、今まで自分が父親の血液型に興味を持たなかったということよりも、この間娘が格好に献血車が来て、献血をしようと思っていると聞いた時の父親の動揺を思い出した。
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次