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モデル都市の殺人

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「どうもありがとうございました。ひどい役目をお願いして、申し訳ありません」
 というと、治子はそこで泣き崩れてしまった。
 そして、それを慰めるように肩を抱くようにした遥香を逆に抱きしめて、まわりに憚ることなく鳴き始めたのだ。
 さすがにこれには浅川も驚いた。
 自分の亭主の死体を見た時よりも、今度の方がリアクションが激しい。
「これが本当の奥さんの姿なのではないだろうか?」
 とも感じた。
 こう毎日、自分の近親者が殺され、その現場に見せつけられるというのは、男でも相当な神経を痛めるであろうことを、女性の身に押し付けることになったのだから、いくら仕事とはいえ、何とも打やり切れない気持ちになるのであった。
 ただ、もう一つ頭をよぎったのは、
「この奥さん、ひょっとすると、義弟の方を愛し始めていたのではないか?」
 という思いである。
 そもそも気の毒で結婚した旦那、その容姿は今も昔もきっと印象は変わっていないのだろう。
 いくら死に顔しか見たことがないとはいえ、見せてもらった写真を見る限りは、容姿が決していいとは言えない顔立ちであった。なるほど、誰もが彼の容姿に関しては、いい話をしているわけではないということが頷ける。
 そして、おこがましい性格であればまだいいのだが、自分の容姿がよくないということにコンプレックスを感じていることで、
「自分が他人に対して何が勝っているかということばかりを気にして生きていたような人だ」
 とまで聞いたことがあったくらいだ。
 この性格がひょっとすると、この事件の動機の一つになっているのかも知れないと思ったのだが、弟も殺されているということになると、また分からなくなってきた。
「この事件の最重要参考人だったのに」
 という嘆きの声が聞こえてくるが、これが濡れ衣だったということになると、一から捜査のやり直しというよりも、考え方をリセットした方がいいのではないかと思えるのだった。
 現場検証も終わり、治子、遥香の二人の母子を返した後、浅川刑事は部下に周辺の聞き込みを行わせて、一度捜査本部に戻った。
 捜査本部には鑑識で分かったことが報告されていて、浅川刑事が一番気にしていた、
「もう一つの血痕」
 についての報告がされていた。
「あの場所に残っていた血液は、やはり二種類のものであり、A型とO型の血液がありました。殺されていた春日井悟の血液型はA型だったので、あの場所に残っていたもう一つの血液型はO型ということになります。それでですね、この間の春日井板金工場で殺されていた川崎直哉の血液型がO型だったんですよ。ということは、あの河川敷にあった血液は川崎直哉の血液である可能性が高くなったと思われます」
 という話であった。
「なるほど、私は最初に春日井の工場で発見された死体を見た時、ナイフが刺さったままで、血液がさほどこぼれていなかったのを見て。殺害現場が他にあったのではないかと思っていましたが。本当にその通りのようですね」
 と、浅川刑事がいうと、
「鑑識の見解もその通りです」
 と鑑識官がそう言っていた。
「ところで、春日井と同棲していた、キャバクラのキャストの女の子はどうしているかな?」
 ともう一人の刑事に訊ねてみると、
「先ほど連絡が取れたので、もうすぐこちらに来られると思います。でも、連絡をした時、ゆりなという女性はかなり落ち着いていましたね。声は完全に落ち込んでいたのですが、取り乱した様子はありませんでした」
 と答えた。
 そんな話をしているうちに、ゆりなが警察署に出頭してきた。さっそく死体霊安室にて面会したが、先ほどの電話のように、泣き崩れることはなかったようだ。
 彼女に面会したあと、監察医に回され、司法解剖が行われることになっている。
 ゆりなの希望で、春日井と面会した。春日井も本人が言い出さなければ。捜査本部に来てもらおうと思っていたので、ちょうどよかったと思っている。
 春日井も彼女の顔を見た時、やはり混乱はしているようだが、ひどく動揺している様子はないと思った。混乱も当事者としては最低これくらいはあるだろうという許容範囲で、さらに落ち着いていたことで、彼女がそれなりに覚悟をしていたのではないかと思わせるほどだった。
「わざわざ出頭いただき、ありがとうございます。私にお話しがあるということでしたが?」
 と問うてみると、
「ええ、初めてお目にかかった時には、ハッキリとした確証がなかったですし、警察も捜索していただいているということで、見つけていただけるとは思っていました。ただ、生きている彼を見つけてくれる可能性は少ないのではないかと私は思っていたんです。先ほどは、本当は言いたくてたまらなかったのですが、もし違っていれば、警察の手を煩わせることになるという思いがありました。ですが、私はそこまで彼を信用していません。だから、彼の様子から、彼が何かを後悔しているということは分かっていました。なので行方不明だと聞いた時、ひょっとすると、その公開に苛まれ、自ら命を断つということを決断するかも知れないとは思っていました。そういう意味で彼が死ぬということは覚悟はしていましたが、まさか殺されたとは思っていなかったので、私が混乱したのは、そのあたりに理由があったんです」
 とゆりなは言った。
「後悔していたと言いますが。どういうことだったのかというのは、想像がつきますか?」
 と浅川刑事に訊かれて、
「ハッキリとは分かりませんが、かなり過去のことを後悔しているようです。しかも、その後悔は一つではなさそうなんです。一つのことに関連した後悔が二つあるようだったんですが、それも時間がかなり経っている後悔のような気がしました。つまり、かなり昔にした後悔を、最近、と言ってもここ数年のことだと思うのですが、思い出させるようなことをもう一度してしまったかのような後悔です。完全に二度目の後悔は彼から生きる気力のようなものを奪っているようにも思えました。普段は虚勢を張っているからか、楽天的に見えますが、誰かの助けがなければ、彼という人間は生きてはいけません。私はそれが分かっていたので、もし彼が死を選ぶのだとすれば、私が止めるのは却って気の毒に思えたし、止められる立場でもないような気がしたんですよ」
 とゆりなは話した。

                 血液型の秘密

 春日井が後悔していたおの、それは一体なんであろうか? 一つではなく二つ、その間には十数年というくらいの期間があるという。しかも、その二つは延長線上にあり、きっと本人の春日井氏には、因縁のようなものが感じられたことだろう。
 それは本人に何倍ものショックを与え、そのことが、たぶん事件に大きな影響を与えているのではないだろうか。
 そのことを、ゆりなは知っているのだろうか? 彼女が知っているのは、事実としては警察で把握している程度のことしか知らないが、実際に彼の苦悩を目の前で見てきた分、彼の死に対してのショックであったり覚悟というものは、常人が考えるものとはかなり違っていただろう。
 彼女の話を訊いてきた警察官の話では、かなりのショックを感じていたようだが、それは、他の人のように、
「どうして死んだの?」
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次