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モデル都市の殺人

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 そんな経緯を持ったK市だけに、急速な発展が、ドリームとして扱われたのであろう。
 病院、学校、公園なども整備され、こちらは、最先端の設備が整っていた。工場が昔ながらの場所が多い中、アンバランスと言われながらも、何とかもっていると知らない人には思われているK市だったが、治安の良さも実は地味ではあったが、一部の人から見て、注目されるところであった。
 県庁所在地の隣ということで、ベッドタウンでありながら、独自の市政を敷くK市では、凶悪犯罪が起こったことはほとんどなかった。
 たまに殺人事件はあるが、傷害致死のような、喧嘩が嵩じて殺人になってしまうということはあっても、殺害目的での殺人というのもあまりなく、学校や企業でも、苛めやハラスメントなどというのは、まったくないわけではないが、他の都市に比べれば、格段に少なかった。
 それが、K市の魅力でもあった。ただ、一度減ったこの街にまた人が流入してくるということはなかった。K市にいれば分からないこともあるのだろうが、一旦他に流れてしまい、外からK市を見ると、
「あそこほど、おかしなところはないんじゃないか」
 という人も結構いた・
 何を持って、
「おかしなところ」
 というのかは、その人それぞれなのだろうが、それだけにいろいろなところで、他との違いが、いい悪いは別にして散見されるのも事実であった。
 K市中心街は、F交通電鉄という私鉄が走っているK中央駅周辺になっている。駅前からは商店街が伸びていて、その先には、ショッパーズと呼ばれるちょっと大きなスーパーがある。他のところではとっくに消えてしまった光景だが、ここでは、昼間はほとんどの店が開店していて、朝市などでは、歩行者天国のアーケードの店先まで惣菜屋、豆腐屋などがワゴン販売をしているという、まるで立体感溢れる商店街というイメージを醸し出しているのだった。
 県庁所在地と反対側の隣の街は、完全に県庁所在地のベットタウンとなっている。しかし、K市に仕事場のある人はほとんど住んでおらず、K市に仕事場のある人のほとんどは、K市に住んでいるということになる。そういう意味で、K市の郊外には住宅街が広がっていて、実際に賃貸にしても、分譲にしても、他の地区と比べて、かなり安い。
 だが、K市は明らかな客の差別化を行っていて、
「安く借りられる人は、K市に仕事場のある人が優先で、他の街に仕事に行っている人にとっては却って割高になる」
 と言われたほどだ。
 K市に仕事場のある人が入るだけで、結構マンションはいっぱいになる。他の市の住宅事情から比べれば、結構な需要の高さで、この街だけで十分に活性化され、街が機能しているといういい意味でのモデル都市であった。
 実際に、全国的にもこのK市のモデルは注目を浴びていて、よく他の県から、取材にくるテレビ番組も後を絶たない。ただ、他の場所でこのような市の経営を行っている土地はない。どうしても目は進化する垢ぬけた街づくりに行くというもので、なかなかK市を真似るというところに舵を切るという行政が現れないのは、市会議員の意見が揃わないからだ。ハードルの高さは市会議員の頭の固さにあると言えるであろう。
 こんな街を、計画都市と呼ぶには、時代錯誤なのかも知れないが、この成功を市の方ではある程度の検証も行っていた。ただ、その検証結果を国に対しては公示しているが、県やその他の行政に関しては、極秘にしていた。
 これは、国の要望で、
「まずは、国も検証を行って、モデルとして他でもできるかどうか、国による舵取りを行うようにする」
 という国からのお達しであったが、実際には、国がその情報を独占することで、他で好き勝手な情報操作ができないようにしたのだ。
 これは国の勝手な言い分であったが、実際には功を奏したと言ってもいい。この状況を様々な判断によって乱用してしまうと、きっと行政は立ち行かなくなってしまうところも出てくるに違いない。そういうところが同時多発で発生すれば、防ぎようがないというのも事実だった。
 それだけ、やり方によってはうまくいかない場合がある。
 世界的には成功している例もあるかも知れないが、それはあくまでも民族性の違いだからではないだろうか。外国の習慣をそのまま日本に持ち込めば、混乱が生じるのは明らかで、そんな混乱が生じれば、今の自治体や国家で鎮静化できるかというと、微妙なところである。
 そんなK市に対して、成功例としては、その根拠となる数字は極秘になっているが、市政に対しての研修、あるいは、その状況の学習に関しては禁止しているわけではない。そのため、他の土地にある大学の研究グループがやってきて、市によって開示されている情報を学習したり、実際に工場で研修してみたりしたが、なかなか、その成果に繋がるものが何なのか、分かるところまではおぼつかない。
「そんな簡単に分かるものか」
 というのが、市の側からの思いなのかも知れないが、どこかに秘密があるのは事実で、やはり検証結果として現れた数字に、見るべきものがあるのだろうというのが、専門家の意見であった。
 そんな中、もう一つの注目点である。
「治安の良さ」
 を研究しようと、警察官もこの街に定期的に研修させられることが多かった。
 研修をしているうちに分かってくることとして。
「この街は、法律に則らない彼らなりの法があり、それを破ると、この街では生きていけない」
 と言われるルールがある。
 これは他の街にもあるルールだが、破ると、いわゆるまわりが相手をしてくれないという「村八分状態」になるという。さらにひどいと、市外追放となり、今までこの街だからこそ生きてこれた人が、何もなくして放り出されることを一番怖いと思っている。
 これはこの街における法規であり、懲役などよりも、よほどの重い罪のようだ。何しろもうこの街では生きていけないというレッテルを貼られたようなもので。しかも、他に行ってもいまさら生きてはいけないというもので、
「なるほど、これなら治安が守られるのも分からなくもない」
 と考えられた。
 何から何まで他とは違うと言ってもいいK市、そんなK市に珍しくも起こった殺人事件、他の土地ではどの新聞社もトップに持ってきていたが、逆に当事者であるK市は、世間が騒ぐそこまでの大事件という感じではない。
「珍しいはないか」
 とウワサになる程度で、そんなまるで天地がひっくり返ったかのような騒ぎにはなっていなかったのだ。
「平和が当たり前」
 という市民にとっては。それだけ治安という感覚がマヒしていたのかも知れない。
 毎日のように事件のある都会では、少々突飛な事件が起こるとセンセーショナルに騒ぎ立てる。それだけ週刊誌や新聞を売りたいという気持ちもあるのだろうが、マヒしている感覚にカンフル剤を打ち込む形としては、ちょうどいいのかも知れない。
 ただ、今回の殺人事件は、謎が多いということもあって、全国でも注目されたが、一番の問題は、
「殺害されたその人が、K市の住民ではなかった」
 ということだった。
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次