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モデル都市の殺人

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。少し都市開発など、時代錯誤が見えるかも知れませんが、国家自体が架空、あるいは、パラレルワールド的な発想で見ていただけると、面白く読んでいただけるかも知れません。

            K市というモデル都市

 県庁所在地に隣接したF県K市は、都会に近い割には、まだまだ開発が遅れていた。発展途上といえば聞こえはいいが、実際に開発の進んでいないところが散見され、思ったよりも空き地が残っていたりする。
 対照的に県庁所在地の開発は、県を始めとして推進されていて、都心部の発展は目覚ましく、そこだけは、全国大都市でも一、二を争う近代化ともうわさされるほどであった。
 F県は、完全に都心部のみの開発に重点をおいていて、格差という言葉に蓋をしている状況をどう考えているのか疑問に思うほどだが、逆にK市では、昔ながらの工場や市場などが残っていることから、逆に古き良き時代をそのままに経営できるという意味では、悪いことばかりではなかった。
 古い工場でも、今の最先端のものを作る技術も開発されてきていて、それがいかに大切なことであるかということを、県庁所在地以外の市長には分かっていることが、街の経済をうまくまわしている要因であった。
 ただ、街に住んでいる人の中には、いろいろな人がいる。近代化しないことを、罪悪のように考える人もいれば、やはり過去のいい部分を遺産として継続していくことが大切だと思っている人もいる。
 それは、年齢層で別れているわけではない。若年層であっても、老年層であっても、二つの意見は両立していた。それがF県の特徴でもあったのだ。
 特にK市の場合はその傾向は顕著に見えていて、県庁所在地のように、ほとんどが近代化されたモデル都市では考えられないような状態が、他の都市に波及していた。
 都心部が近代化すると、都心部には企業が多く、近隣の都市がベッドタウンのようになり,、いわゆる
「ドーナツ化現象」
 と呼ばれるものが出てきてしかるべきであった。
 ここの県庁所在地にも、住民が住めるような場所を模索しようという意見が巻き起こり、県議会などで、
「ドーナツ化現象に歯止めを掛けたい」
 ということで、県庁所在地のあり方を見直す計画が設けられた。
 つまり、
「県庁所在地の住宅地区充実計画プロジェクト」
 が発足したのだ。
 建築、環境、都市計画の専門家が有識者会議を形成し、F県の直轄プロジェクトとして、最優先課題として、県の肝入り事業としての地位を確保していた。
 委員長は県知事が兼任する形で、その姿勢が他県に対しても、この事業を真面目に取り組んでいる最重要なことだとのアピールに繋がっていた。
 国もF県の考え方を推奨していた。ただ、これはあくまでもモデルケースとして、一種の実験台で、本当は国も似たような考えを持っている人がいたのだが、どうしても、国単位で考えることではないとい理由から、敬遠されてきた。
 そういう意味で、県単位でその取り組みを行ってくれるF県はありがたかった。本音としては。
――俺たちが計画したわけではないので、失敗しても責任を取らなくてもいい――
 という思いから来ているのだが、そのために、県がモルモットとして動いてくれているのを、支援という形で、国からささやかにお金を出したりはしていたので、F県も、国が認めてくれているということもあり、すっかり増長していた。
 そういう意味で、F県は他の県とは少し違った面を持っていた。国からの肝入り計画を持った都市として、有名になることで、いろいろな大企業が、誘致に応じ、F県に工場を作った。
 県庁所在地以外の場所に工場は作られ、高速道路などのインフラも一気に整備され(もちろん、国がいくらか金を出しているという要素もあってのことだが)、首都圏、関西圏などと同じレベルの、新興圏として、伸びてきていた。
 このプロジェクトは、二十世紀末から計画されているので、まだ二十年とそこらであったが、計画が進んでいるかと言えば、いまいちだともいえる。理由は、
「最初の勢いが減ってきたからだ」
 と言えるのではないだろうか。
 K市の工場は、まだ昭和のイメージを残したような、自動車修理工場であったり、工業部品の会社であったりが、密集している場所もある。駅前の商店街も、いまだに残っていて、郊外にも大型の商店街があるのだが、K市からはあまり行く人はいないようだ。
「駅前でほとんどの商品は揃うので、わざわざ郊外に行く必要がない」
 という話が暗黙の了解となっていた。
 最近では、K市にわざわざ引っ越してくる人もいる。都会でリストラに遭った人、あるいは失恋によって、孤独感に苛まれた人がこの街に移住してくるパターンが一時期あったが、それはある時、週刊誌で紹介されたことがあったからだ。
 その週刊誌には、都会で事業に失敗して、この街に流れてきた人を、ある工場の社長が雇ってあげて、工場のノウハウを、技術から経営まで叩きこみ、いずれはその工場を継いだとして、一種のサクセスストーリーで紹介されたのだ。
 工場長としては、自分に跡取りがいなかったので、有望そうな青年に後を託そうと考えたら、それがうまく嵌ったというだけなのかも知れない。そのエピソードが週刊誌で紹介されると、K市がまるでアメリカンドリームでもあるかのような話が盛り上がってきたのも無理もないことだった。
 そういう意味で、一時期K市の人口が増えた時期があったが、しょせんは昔の工場であり、時代についていけずに、工場を閉めるところも目立ってきた。そういう意味では、ドリームと言われたK市も他の土地と類に漏れず、爆発的に増えた人口が減少していったのも無理がないことだった。
 だが、F県としては、K市を盛り上げるということで、国から支援を受けているために、簡単に見捨てるわけにもいかなかった。県としても、K市に貸し付けもあるので、K市には盛り返してほしいという気持ちがあって当然だった。
 K市は、一時期、人口の流出が止まらなかったが、一旦ある程度落ち着いてくると、残った人は、かつてのK市を盛り上げてきた人たちだけになったことで、いい意味で、
「浄化ができた」
 と言えるのではないだろうか。
 K市としては、致命的なまでに人口が減ったわけではなかったので、そのあたりは助かったと市長は目論んでいる。
 K市というのは、市政が敷かれてから、そんなに古いものではない。最初は市町村合併で、K市は県庁所在地に吸収されるかどうか、大いに議題に上がったようだが、昔からの工場を持っている連中が反対してことで、県庁所在地に組み込まれることはなかった。そのうちに増え行く人口の中で、市への昇格が議題となり、その時は反対派皆無であり、一気に市へと昇格した。
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次