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モデル都市の殺人

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 また、これが他人の血液型ともなれば、まったく分からなくて当然である。ここでいう他人というのは、血縁関係という意味以外でだが、例えば配偶者。これは知り合うのが基本、大人になってからなので、これも何かない限り、相手の血液型をいちいち聞いたりしないだろう。治子が夫の直哉の血液型を知らなかったとしても無理はない。だが、母親が子供の血液型を知らないということ、これはおかしな話であり、子供を産む際には、絶対に母親と子供の血液型は確認されるはずだ。
 分娩も最悪の場合、輸血を必要とされることもあるかも知れないということである。
 さて、そんな話を思い浮かべている時、浅川のケイタイが鳴った。
「はい、こちら浅川」
 と言って電話に出たが、その電話をかけてきたのは、K警察署の捜査主任である上司に当たる松田警部補だった。
「はい、はい」
 と、話をゆっくりと聞いていた浅川刑事だったが、急に、
「なんですって?」
 と少し大きな声を挙げた、
「ええ、はい、今は被害者のお宅に伺って、奥さんと娘さんにお話を伺っています……。はい、分かりました。それではまた後で」
 と言って電話を切った。
「浅川さん、どうかされたんですか?」
 と訊かれて、
「実は、行方不明になっていた、被害者の弟である春日井悟工場長が、死体で発見されたそうです」
「場所は?」
「K市の外れにあるK川河川敷のちょうどガード下になっているところだそうです。もしよかったらご一緒いただけませんか?」
 と言われ、
「じゃあ、用意してきます」
 ということで、三人で向かうことになった。
「おじさんが殺されたということは、父の殺害事件と関係があるんでしょうか?」
 と遥香が聞いてきた。
「遥香ちゃんはどうして殺されたと思ったんだい? 私は死体で発見されたとして言ってないよ」
 と突っ込みを入れると、存外に平然として、
「だって、死体で発見されたといえば、他殺だと思うじゃないですか。自殺だったら、自殺死体というと思ったからですね」
 と答えた。
 確かに理屈には合っている。この子にはカマかけは通用しないということだろうか? それとも、本当に頭がよくて、頭の回転で、ハッとしなかったということであろうか? どちらにしても、この娘から目が離せないのは確かなようだ。
 母親の方は気丈に振る舞ってはいるが、その様子は明らかに動揺している。その証拠に足が震えているのが分かった。彼女のような性格であれば、普段は天真爛漫で限界を感じさせないが、いざとなると、天真爛漫さが災いしてか、正直な身体を隠すことができないようだった。
 パトカーになど乗るのは初めての二人だろうから、緊張していた。殺人寺家の現場に赴くのだから、当然、パトランプを照らして、サイレンを鳴らして走っている。パトカーと厩舎、消防自動車のような緊急車両は、たとえ赤信号であっても、緊急車両の方が優先である。他の車は、端に寄って、緊急車両をやり過ごさなければいけない。
 例えば違法駐車がいて、緊急車両が通れなかった場合、駐車車両を破壊してもいいくらいだ。
 強引に緊急車両が駐車車両を押しのけるように走ったとして、傷つけられたということで、違法駐車が警察に訴えて出たりしたら、それこそ、
「飛んで火にいる夏の虫」
 である。
 自分の車を傷つけられたとして訴えても、逆に、
「お前があんなところに駐車しているから、こちらが強引に行かなければいけなくなったんだ。そのために、緊急車両が傷ついた。その分はお前が払わなければいけないんだ」
 ということになる。
 当然、相手がパトカーであれば、保険も出ないだろう。何しろ、こちらが青信号で、赤信号のはずの道路を緊急自動車が横切った場合、誤って衝突したとした場合も、こちらが八、緊急自動車が二の割合で、一般車両が悪いということになる。それだけ緊急自動車というのは、緊急性に置いて、道路の上では無敵なのだ。
 それでも交差点に入る時は徐行をして、細心の注意を払わなければいけないのは緊急自動車も同じで、いくら犯人を追いかけていると言っても、無謀運転は持っての他である。昭和の時代の刑事ドラマのようなカーチェイスなど、本来であれば、
「あってはならないこと」
 なのである。
 パトカーで現場に到着すると、捜査員がロープを張って、野次馬を整理していた。
 この場所は静かなところで、そんなに人がたくさん集まってくるような場所ではないが。よく見ると、皆さん、みすぼらしい服装をしていて、いわゆる「ホームレス」というところであろうか。
 なるほど、このあたりはすすきの穂のようなものが生い茂っているので、何かを隠すにはちょうどいいのかも知れない。それなのに、結構早く見つかったのは、このあたりにはホームレスが多いからなのかも知れない。
「ご苦労様です」
 と言って敬礼をしたのは、田島巡査だった。

              血痕と死体移動

 浅川は敬礼をしながら、白い手袋を手にはめているところだった。
「指紋がつかないようによく刑事ドラマなどで見る光景だ」
 と、遥香は思った。
 「誰が発見したんだい?」
 と田島巡査に聞くと、
「このあたりに居を構えているホームレスです」
 と言われ、
「なるほど」
 と答えたが、
――居を構えるというのは、ホームレスという言葉とは反しているようでおかしなものだ――
 と、浅川は感じていた。
 もちろん、田島巡査の皮肉なのだろうが、ホームレスというものを巡査の目からよく見ている田島巡査だから言えることなのだろう。
「この人が発見したホームレスです」
 と田島巡査に引きつられて恐縮そうに背を丸めた初老の男性がやってきた。
「君は、いつもこのあたりを根城にしているのかね?」
 と訊かれて、
「ええ、ここの川では、結構いい魚が獲れるので、魚が食べたい時は来るんです。最近では三日に一回は来ていますね」
「じゃあ、今日も三日ぶりくらいだったのかな?」
 と訊かれて、
「おととい来ました」
 というではないか。
「その時に死体はなかったということだね」
「ええ、その通りです。一目で死んでいるのは分かりましたし、死んですぐではないのも分かりました。だから何をおいても警察だと思って、田島さんのところに駆け込んだんです」
 という。
「そんなに簡単に分かるものなのか?」
 と言われると、田島巡査が引き取って、
「彼は元医者なんですよ。まだ、その時の目がしっかり残ってるんだね」
 と、田島巡査はねぎらうようにそのホームレスに言った。
「ええ、ありがとうございます」
 というではないか。
「その私がいうのも何なんですが、そこをご覧になってほしいんですが」
 と言って、死体があったあたりを指差した。
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次