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モデル都市の殺人

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「ええ、見ましたよ。でも、ご遺体は現場検証も終わったので、警察医の方で司法解剖に回されていますよ」
 というと、
「そうでしょうね。とにかく私ビックリしちゃって、最初、私が出かける時、ちょうど電話が入って、お母さんが少し驚いていたという感じだったんですが、それほど気にすることもなく、学校に行ったんです。すると、昼休みに先生から、父が殺害されてこの工場で見つかったと聞いて、私ビックリして、それでいてもたってもいられずにやってきたんです」
 と娘の遥香は、少しビクビクした様子で答えた。
「朝出かける時、母親の様子が変だったにも関わらず、そのまま出かけたんですか?」
 と言われた遥香は、
「ええ、たまに母はかかってきた電話で驚いたようなことがあるんですが、いつも何でもないと言って、話を逸らすんです。どうも何か怪しいと思っていたんですが、そんなことが何度かあると、次第にこちらも、またかと思うようになってしまって、慣れてきたんですね」
 と言って笑った。
「今でも、その母親の様子がどうして変だったのか、理由はわかりませんか?」
 と言われて、
「何となくですが分かる気がします。いつも驚いた時、まわりを見渡すんです。癖になっているんでしょうけど、明らかに私やお父さんを気にしているんですね。それで今ではきっと男からの電話なんだろうって思うようになりました。本当のところは分かりませんけどね」
 とまるで他人事という顔で言った。
「それは、お母さんが不倫をしているということでしょうか?」
 とわざと直球で聴くと、
「ええ、そういうことなんだと思います」
 と、今度は断定的に近い言い方をした。
 どうやら、この遥香という娘。一筋縄ではいかなそうな気がしてきた。逆に母親の方が、危なっかしくて、放ってはおけないタイプなのかも知れない、それが男心をくすぐるのだとすると、結構あざといことをしているのではないだろうか。
「遥香ちゃんは、それを誰か心当たりがあるのかい?」
 と言われて、
「よく分からないわ。ただ、お母さんならあり得ることだと思ってね」
 という遥香の表情には軽蔑と怒りが浮かんでいるように思えた。
 ただ、これだけ自信を持って言えるということは、何か確証のようなものがあるからなのか、それとも、自分にも浮気性のところがあり、母親の遺伝だと思っているのか、どちらにしても、母親を快く思っていないのは分かる気がする。そんな状態だから、朝出かける時、母親の電話を気にはしながら、放っておいて学校に行ったというのも分かる気がする。
 遥香という娘は、完全に母親に似たのだろう。
「美女と野獣」
 と言われるだけあって。両親がまったく違った容姿の雰囲気からすれば、明らかに母親似であることは分かっている。
 コケティッシュな表情は、明らかに男性ウケしていそうであり、母親もさぞやモテたであろうことを考えると、母親の性格をそのまま受け継いだと言ってもいい。そうなると、彼女も二代目の美女と野獣を受け継ぐことになるのかと思うと、何か複雑な気がする浅川刑事だった。
「ところでね。お父さんが殺されたことに何か心当たりあるかい?」
 と訊かれた遥香は、少し考えてから、
「お母さんが本当に浮気をしているのであれば、その浮気相手とのトラブルということも考えられるわね」
 と答えた。
 遥香のように見た目であるがしっかりした考えを持っているように見える彼女が、相木らかにすぐ答えられそうなことを少し考えたのは、ひょっとすると、わざとではないかとも思えた。なぜわざとそんな素振りを見せるのかなどは分からないが、
――まさか、こちらの考えをあくまでも母親の浮気相手へと誘導しているかのように見える――
 と浅川刑事は考えた。
 なぜそのような必要があるのか?
 考えられることとしては、
「遥香が相手を知っていて、その人を気に食わない人だと思っていて、その人が殺したのだということであれば、理屈に合うとでも思ったのか、あるいは、相手が誰か分からないけど、そんな人がいることは間違いないので、自分にできない捜査を警察にお願いしようと考えたのではないか?」
 と思ったのだ。
 どちらにしても、あの母親も何かを隠しているような雰囲気があったが、隠そうとするので、その分分かりやすい。だが、その娘は逆に刑事の推理を誘導でもしようかというようなあからさまな態度を取るのは、年齢に違いがあるからなのか、母と娘という立場の違いからくるものなのか、どちらにしても、二人は何かを隠していて、その似ている性格から、両極端な行動に出たのではないかと浅川刑事は考えたのだ。
 この二人の女性は、明らかに春日井兄弟、あるいは、片桐氏とは違っている。K市という特殊な市に育った三人は、本当に閉鎖的な感じに見えた。直哉の奥さんである治子は富豪のお嬢様だという話だが、
「世間知らずのお嬢さんが、K市から出てきたちょっと変わった直哉氏と知り合い、しかもその容姿に同情などをしてしまったことで、恋心を芽生えさせてしまったことが本当だとすると、この事件がそのあたりから引き継がれているのかも知れない」
 と浅川刑事は感じた。
「私にとって、あの人は初恋だった」
 と思っているかも知れないほど、世間知らずだとすれば、娘の遥香はどうなのだろう?
 彼女は決してお嬢様というわけではない。ただ、一つ母親と似たところがあるように感じられるのは、
「世間知らずなところがあるので、アブノーマルな世界に変に興味を持ってしまう」
 ということであった。
 事件が解決した時、誰かが、
「あの娘は。Mっ気があったからな」
 とボソッと言っていたような気がした。
 解決した時点ではピンとこないその言葉だったが、もし遥香との初対面の時にその言葉を聞いていれば、事件解決はあっという間のスピード解決だったかも知れないと感じるほどだった。
 それはさておき、遥香は父親がどのようにして死んでいたのかを、聞きたいようだった。
「お父さんは、ナイフで胸を刺されていて、そのまま絶命したようだね。死亡推定時刻だけど、たぶん、今朝の四時頃ではないかということでしたよ。お母さんは、お父さんを最後に見たのは夜の九時ことだと言っているけど、家では家庭内別居状態のようだね?」
 と訊かれると、遥香は明らかに憎悪の感情を剥き出しにし、舌打ちでもしたかのようだった。
「ええ、そうよ。あの二人、どうにかしてほしいわ。どっちもどっちってところね」
 と吐き捨てるように言った。
「遥香ちゃんは、お父さんとお母さん、どっちが好きなの?」
 と訊かれた遥香は、また少し考え込んでいるようだ。
 しかし、今回の長考は、先ほどのと違って、明らかに考えていた。答えに窮しているとでもいえばいいのか、だが、すぐに考えをまとめて、
「どっちが好きなのって質問には抵抗があるわ。その質問に対しては。どっちも嫌いとしか答えられないわ。どちらがどれくらい嫌いと訊かれた方が、答えやすいかも知れないわね」
 と言った。
「じゃあ、そのまま質問に変えようか?」
 と言われて、
作品名:モデル都市の殺人 作家名:森本晃次