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逆さ絵の真実

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 どちらにしても、両極端な話ではあるが。相手から声をかけてくるような女性は、そのどちらかというのがほとんどだった。
 どちらにしても、一人で不安であったり、好きになったことで積極的にあることを恋愛成就の秘訣だと勘違いしている女性なのだと思うと、少し残念であった。
 何にしても、
「あの時のドキドキを返せ」
 といいたいくらいになっていて、ほぼ、一か月ほどで別れが来るのは目に見えていた。
 それでも、言い寄ってくると、また付き合ってしまうのは、やはりあの時のドキドキには勝てないという思いと、
「こんどこそは、まともな恋愛ができるかも知れない」
 という淡い期待があったからだ。
 分かり切っていると思っているくせに、またしても同じ失敗を繰り返してしまうのは、なかなか諦めきれない往生際の悪さがあるからなのかも知れないと思っていた。
 そんなせいもあってか、途中から、男性からも女性からも嫌われるようになっていた。自分ではそんなつもりもないのに、嫌われるのは理不尽だと思った。理由が最初は分からなかったが。男性から嫌われるのは、
「あいつは、ちょっと顔がいいからと言って、いつも女の子から声を掛けられて付き合い始めるくせに。すぐに別れて、またすぐ声を掛けられる。そんなに何度も相手をふるのに、また声を掛けられるなんて、贅沢だ」
 というやっかみであった。
 さらに人によっては、
「そんなにすぐに別れてしまうくらいなら最初から付き合わなければいいのに」
 と思っている人も多く、それは自分もその通りだと思う。
 しかし、自分の中では、
「断るのはせっかく声をかけてくれた相手に失礼だ」
 という思いがあるからで。
「いやいや、そうじゃないだろう。最初はいい顔をして、後で裏切るのと一緒で、相手だって、どうせフラれるのなら、早い方が痛手が少なくていいに決まっているんだ」
 と言われたこともあった。
 また、女性からにしても、そうだ。
「あの人は言い寄られたら断りきれないのは、自分がモテると思っているからなんじゃないかな? それを断ると失礼などと思っているとすれば、何様のつもりなのよ。女の子はあんたの自尊心のおもちゃじゃないっていうのよ」
 と思っていることだろう。
 そして、もっとも多いのは、
「中途半端に付き合うというのは、相手を舐めていて、思いあがっているのと一緒よ。あの人、付き合ってみて分かったんだけど、全然優しさがないのよ。その理由が、別れの時に、必ず女の子の方から言わせるのよね。そのあたりが巧みだというのか、自分が傷つかないようにしているとしか思えない」
 という思いであった。
 こんな思いを抱かせるのだから、よほど、相手にとっては、ひどい仕打ちだったのだろう。
 確かに、彼は、自分から女性をふることはなかった。ふり方が分からないというのが本音なのだろうが、その本音を相手に示さない。準之助が女性に抱いているあざとさとりもさらにあざといことを相手にしているのだった。
 そんなことはまったく気にしていない準之助は、
「基本的に女性とどう付き合っていいのか分からない」
 という思いを抱きながら。とりあえず、告白されたからという理由で付き合うようになる。
 何度も付き合い、別れを経験しているのに、まったくそれが生かされていない。なぜなら、準之助は勉強しようとは思わないからだった。
 これが準之助という男の神髄でもあった。
 つまりは、
「自分の好きなことであれば、どんなことがあっても、一生懸命に進んで勉強するが、それ以外のことは、自ら進んで何かをしようとはしない。勉強をしようという意識すら感じないほどなんだ」
 ということであった。
 ここまで極端な人も珍しい。
 だから、彼に言い寄ってくる女性が両極端なのもしかるべきなのかも知れないが、それにしても、相手も純情な女の子であることに違いはない。そうでなければ、自分から勇気をもって告白などしないだろう。その一生懸命さが、告白の時のドキドキをくれているのではないか。
 そのことに、準之助はまったく気づいていない。いや、気付こうとしないのだ。
 高校生になると、まったく準之助を意識する女の子はいなくなった。女の子もフラれて成長するのだろうし、大概の女の子は、自分で好きになれる相手を見つけて。その人と仲良くやっているので、その時点で残っている女の子は、準之助を相手にするようなことはない。売れ残った女の子も両極端で、準之助のようなイケメンには最初から声を掛けられないという、すべてにネガティブ思考な女性か、フラれ続けて、目だけは肥えてしまった女性なので、そんな女性は、最初から準之助の正体など見切っているので、相手になどするはずがない。
 学生時代の準之助は恋愛経験がないまま、弟子入りした。当然、女性のことなどそれ以降考えたことがない。まるで朴念仁のようになっていたのだ。

               跡目継承対決

 弟子を持たないと思った勝野光一郎が準之助を弟子にしたのは、彼がまったくの素人だったということと、もう一つは、そういう朴念仁のようなところがあるからだった。勝野光一郎自身も独身で、今までに付き合った女性も数少ない。もっとも、本当に結婚したいと思った女性がいるにはいたが、それが前に仕えていた先生の娘だったから大変だ。
「弟子は師匠の娘に手を出すとはどういう了見だ」
 と、先生から厳しい叱責を受け、折檻まで受けた。
 それでも、彼女を好きだった気持ちに変わりはなかったので、彼女の、
「一緒に逃げて」
 という言葉に乗ってしまったのは、今から思えばまだまだ分かったからだろう。
 こんな悲劇とも喜劇とも取れるようなベタな設定で、結末は分かっているようなものだったにも関わらず、その時は一直線の気持ちに逆らうことができなかったのだ。逃げるつもりで約束の場所まで行っても、彼女は来ない。
――用意をして、私に会いに来る途中で、捕まってしまったんだ――
 という思いで、いても立ってもいられなかったが、この場所を離れるわけにはいかない。
 それでもさすがに来ないので、彼女の家の近くまで行ってみて、そっと影から見ていると、普通に生活をしているではないか。これから駆け落ちというそんな状態ではまったくなく、自分の目を疑ってしまったほどだ。
「裏切られたのは俺だったんだ」
 と、急に身体の奥からすべての力が抜けていく感じて。たった今まで自分が何を思っていたのか、それすら記憶の彼方に追いやられてしまった。
 完全に置き去りにされて、自分だけが、駆け落ちしていて、後から誰も追いかけてこずに、どのまま戻ることもできず、先に進むこともできず、その場でどのようにすればいいのかも分からずに、結局は、断崖絶壁の谷に掛かっている木製の吊り橋に、風に吹かれて、どちらにも行くことができず、谷底に落下するのを待っているだけという虚しい状態に陥ってしまっていたのだ。
 勝野光一郎は、その時の経験から、人を信用しなくなり、特に女性を信用しなくなった。その時を機会に師匠の元を離れ、半分やけくそで独立した。
 後ろ盾も何もなければ、まだまだ修行中だったこともあって、絵の才能も中途半端だ。
作品名:逆さ絵の真実 作家名:森本晃次