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逆さ絵の真実

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 だが、羽村氏の芸術への取り組みは、決して舐めているというわけではない。逆に、芸能人としての彼を隠れ蓑にして、何かチャラいイメージを世の中に植え付けるための何かの理由がそこには存在しているのではないかと思ったくらいだ。
 だが、その理由は分かるはずもなく、ただ、一つ言えることは、あの時の逆さ絵に対しての彼の手法は見たことのないもので、彼オリジナルであった。
 ただ、きっとそれは、彼を師匠として誰かが弟子になったとしても受け継がれるものではないと思えた。つまり彼の技法は、訓練さえすれば、誰にでも出せるものではないという考えがあったのだ。
 芸術を継承するのが難しいということは、絵画に限らずに他のものでもあることだった。華道であったり、茶道などもそうである。日本の有名な格式のある流派の跡目争いなどは、探偵小説に描かれるようなものであり、それをどう解釈すればいいのか、難しいとろこであった。
 準之助は、絵を見て少し角度を変えて見ていたりしたが、急に顔色が変わってきていたようで、そのことに気づいた刑事から声を掛けられた。
「どうしたんですか? 何か気になる点でもあったんですか?」
 と訊かれて、
「ええ、あくまでも私の感覚がそう言っているというだけで、確証はありませんが、どうもこの絵は、あの時に羽村氏が描いていた作品ではないように思えるんです」
 というではないか。
「えっ、でもこれに間違いないと、まわりの人は言われていますが?」
「ええ、確かに絵の主題、構成などはあの時の絵なんですが、私が見る限りは違うと言わざる負えないんです」
「というと?」
「角度や光が当たる濃淡、さらにバランスなど、どこか違和感がすべてにおいて考えられる。一つが違うと、それに付随していろいろ変わってくるものなのですが、この絵も一つの違いからいろいろ教えてくれます。ただ、それは最初に感じたことの派生ではないのです。だから勘違いなどではないと思うようになったんですよ」
 と準之助は言った。
「ということは、非常に似た作品ではあるが、この作品がその時の作品だと思わせるための模倣だというんですか?」
 と刑事が訊くと。
「ええ、そうだと思います。だけど、どうしてこんなことをしているのかが分かりません。そもそも、あの場所に絵があって、しかもこれが模倣だということが普通の人では分からない。やはり相手を騙すのか、混乱させるのが目的だとすれば、その目的がもたらす真意が私には分からない。刑事さんたちには分かりますか?」
 と訊いてみると。
「なかなか難しいですね。考えられることは、あの時の結構に、この殺人が絡んでいるということを言いたいんでしょうね。考えようによっては。一緒にダイイングメッセージにも思えなくない。確かにダイイングめーっせいーじとしては薄いですが、ここまで情報がなく、なぜ失踪したのかも分からず、まったく彼に関係のない場所で殺されている。分かっている部分はほとんどなく、謎ばかりが残っているとすれば、少しでも手掛かりになりそうなことがあれば、そこを広げていくしか、捜査のしようはありませんよね? そう考えると、あの絵はダイイングメッセージだと思っても無理もないと考えます」
「なるほど、私は違う意味で一つ興味があるんですけどね?」
 と準之助が言った。
「というと?」
「あの絵は確かにあの時に描いた被害者の絵ではないです。だからと言って、あの絵を描いたのが、被害者ではないと言い切っているわけではありません。もし、犯人があの絵がその時の絵ではないと看破するのがこの私だと考えて、そして、あの絵を描いたのが本当は本人なのに、それも違うのだというミスリードをさせることが目的だとすれば、これは恐るべき相手だと言えるんじゃないでしょうか? 考えすぎカモ知れませんが、警察としては、そういう意見も聞いてみたいと思うのではないかと思ってですね」
 と準之助がいうと、
「なるほど、そこまで計算ずくの犯人だったら、恐ろしいですよね。でも、確かにこの絵を描いたのが誰かということは、今後も捜査で重要になってくるでしょうね。少なくとも誰かがあそこに置いたわけですからね。被害者が置いたとすれば、犯人が処分しなかったのには何か意味があるだろうし、犯人だとすれば、そこに計画性があったと考えるべきでしょうからね」
 と刑事が答えた。
 そこまでいうと、もう一人の刑事が思い出したように。
「あっ、そういえば、被害者なんですが、直接の死因はナイフで刺されたことによる出血多量でのショック死だったんですが、その前に首も絞められているようなんです。それは解剖の結果分かったくらいの軽いものだったんですが、その時、どうも脳に鬱血のようなものがあったということなんです」
「なるほど、それも不思議な状況ですね。ただ、もう一つ気になったのは、この絵ですね。この絵は、ある意味私が見て完成された逆さ絵だと思うんです。ただ、それは私のものでも、私の師匠の勝野先生のものでもない。ただ、逆さ絵というものの精神、つまり目指すものが一つの場所だとすれば、そこに近づいた作品だと思うんですよ。私ではない。勝野先生でもないとすると、やはりこの絵は、被害者本人が描いたと考えるべきなんでしょうね。それも。模倣するために描いたのではなく、ひょっとすると、失踪中に彼は脳が覚醒したのかも知れない。負けたことのショックがそうさせたのかは分かりませんが、そう思うと、あの絵はやはりあそこにあったのは意味があると思います。ただし。それが犯人に直接結びつくものかどうかは、私は分かりませんがね。ところでね刑事さん、被害者の羽村氏ですがね、行方不明になってから死体が発見されるまでの行方をいうのは、分かっているんですか?」
 と準之助は、自分の意見を語って、思い出したかのように、羽村の消息を訊ねた。
「ああ、それが、今のところまったく分かっていないんですよ。なぜ失踪することになったのか、失踪してから殺されるまでの足取りはまったくなんですよ」
 と警察はお手上げ状態だった。
「でもですね、他殺死体で発見されたということは、殺人犯人が必ずいるわけですよね? そう考えると、被害者は狙われておるのに気付いたと考えるのは自然なことではないでしょうか? そうなると、失踪の一番考えられる原因は、殺されるのが分かっているので、怖いから身を隠したと考えるのが、妥当ではないんでしょうか? 犯人だって被害者のことをよく知っているのであれば、被害者が立ち寄るようなところに身を隠すわけがない。だから、普通の失踪のように、彼の頼りにする人や知人ばかりを探していても見つかるわけはないと思うんですよ。やはり、それよりも、まず最初は、失踪したと思える段階から人脈中心に見るのではなく、土地や、状況を探ってみるか、あるいは、他殺死体ではありましたが。少なくとも彼は発見されたわけですよね? そこから逆に足取りを探るというのも一つの手かも知れません。ただ、死体発見から遡るのは、死体を移動させていることから、難しいかも知れませんね。もっとも、それが死体を移動させた一番の目的だったのかも知れないですが……」
 と準之助はそこまで言ったが、それを聞いて刑事は考え込みながら、
作品名:逆さ絵の真実 作家名:森本晃次