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逆さ絵の真実

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「ほう、じゃあ、兄弟でパトロンがいるのか、それとも、どちらかが、何かでお金が入ってくることがあるのかですね」。ところで、その橋本教授の方の評判というのはどうなんですか?」
「悪くはないようですおよ。彼の研究は実際に成功していて、学会でも認められることが多いというし、研究に没頭し始めると。何をおいても、そっちに集中するそうですからね。この間の対決も自分から申し込んだようになっていますが、実際にそうだったんでしょうか? 彼はいつ研究が入るかも知れないということで、基本的にああいう決闘のようなものを自分から申し込むことはないはずなのにという風にまわりの人は思っていたようです。しかも研究室や大学関係者の人はそう思っていたはずです」
 と言われて、
「確かに、ハッキリと対決を申し込むというわけではなかったんですが、あまりにも言い方が挑発的だったので、こちらがその挑戦に乗ってやろうという程度のことだったと思います。私も侮辱されたりすると、すぐに怒り心頭に発する方なので、見境がなくなってきたのは私の方だったのかも知れませんね」
 と、思い出しながら言った。
「あなたの逆さ絵に対しての挑発だったわけですよね? 実際に教授はあれだけ研究に没頭する人なので、逆さ絵に関して自分で趣味にでもしていない限り、手を出しているとは思えないんですよ。それはまわりの人の話でも伺えました。ただ、教授の助手に話を伺うと、『先生は独自に自分の自宅にある研究室で何かの研究をしていたのは確かなんです。心理的なことだとは思うんですが、よくそこを弟の羽村氏が訪れていたと言います。最初の頃は、ちょくちょくという程度だったのが、そのうち頻繁になってきて、週に二回くらいは来るようになったと言います。朝から来て、夕方近くまでいたそうですが、芸能人で結構スケジュールが詰まっている中での週に二回というのは、結構大変だったんじゃないでしょうか? それだけ兄弟の中で、重要なことだったのではないかという話でした」
 と刑事がいうと、
「やはり逆さ絵に対して何か実験されていたということでしょうか?」
 と訊くと、
「ハッキリは分かりません。もちろん、教授に訊ねてみましたが、研究の話なので口外できないということでした。音うろが行方不明になったというだけのことなので、こちらもそこまで強くは言えないので、今のところ、不明としか言えないですね。ちなみに逆さ絵というのは、どういうジャンルになるんですか?」
 と訊かれて、
「そもそも、私の師匠である勝野光一郎先生が始めた技法だったのですが、最初は左右を逆に描く。つまり鏡に映ったような描き方をするのが、逆さ絵というジャンルだったんですが、そのうちに上下反転も描くようになったんです。それを今は逆さ絵というジャンルになったんだと聞いています」
「それは、最初に写真で逆に写るように現像したものを見て描いたりしていたんでしょうかね?」
 と訊かれて。
「本当の最初はそうだったのかも知れません。もちろん、その時は一つの画法として確立されるなど思ってもいなかったのでしょう。実はこれは心理学の話で聴いたことがあったのですが、幼児などが、何も分からずによく逆さの絵を描くというらしいのですが、それは、視覚と脳の問題から、一種の病気であり、ディスレクシアという名前の病気だという話も聞いたことがあります。元々が逆さまに見えてしまっているということのようですね」
 と準之助は答えた。
「そうなんですね。逆さ絵というのは、左右だけではなく、上下逆さというのもありますよね。いわゆるだまし絵なるものもあるように聞いたことがあります。これは写真などでよく聞かれる話ですが、『サッチャー錯視』などという言葉み聞いたことがありました」
 と刑事がいうと、
「そうですね。いろいろな研究はなされているようですが、左脳モードから右脳モードへの転換ということが言われていると聞きます。逆さ絵を描くというのは、そういう脳のモードが影響していると言えるのではないでしょうか?」
 と準之助が言うと、
「そういえば、教授の助手が面白いことを言っていましたね。教授の研究というのは、誰もが不思議なことだと思っているんだけど、問題視しない。つまり、言われるとなるほど不思議なことで誰もそれの回廊を言い当てることはできない。もちろん、ハッキリとした理屈が解明されているわけではない。そんなことを自分は研究しているんだという話をしているようでしたけどね」
 と刑事は言った。
「なるほど、そういうことですね」
 と準之助は、何かに気付いたような気がして、どうやら、目からうろこが折れたような気がしているというのを刑事にも分かった気がしたが、ここは準之助を言及することはしなかった。
 下手に追求しても、ハッキリとは言わないのが準之助であって、そういう意味では準之助という人間の頭の構造は、教授という人種と似通ったところがあるのかも知れない。つまりは、芸術家でありながら、研究家のような部分もある。だから、逆さ絵においても、完全な助手ではなく、先生と違ったかたちの流派を作り上げることができたのだろう。
 普通であれば、そんなに簡単に、弟子として、別の流派を確立するところまでは来ないものだ。破門にでもなったのであれば分からなくもないが、あくまでも弟子であることに違いはない。
 刑事もさすがに先代の勝野氏と準之助の今までのいきさつの詳しい話までは分かっているわけではないので、その気持ちに変わりはないのだと思っているが、そういう意味で、準之助はたぶん、最後まで心の奥底を話すことはないだろう。
 刑事は、そんなことを考えながら、行方不明者の捜索するにおいて、失踪した理由を精神的に分析したいという立場で、少し立ち入ったことも聞いたが、これ以上の話をしても、捜索に関係のある話を伺うこともできないと考えてか、その日は引き下がることにした。
「最後に聞きたいんですが、ズバリ、今回の失踪に何かの犯罪が絡んでいるとお考えなんでしょうか?」
 と準之助は訊ねた。
「どういう意味でしょうか?」
「捜索願を受理して捜索している事情として、彼が芸能人だという意味での影響力があるのは分かりました。でも。警察が動くからには、何か芸能人であることで、その裏に事件の匂いを感じておられるから、捜索を最優先にしたと言えるのではないかと思ってですね。もしそうであるとすれば、この事件がただの失踪事件ではなく、失踪だけではことは解決しないということになるんですよね? いなくなったことで、何かの事件に巻き込まれたという可能性について伺いたいと思ってですね」
 と準之助が訊いた。
「そこは捜査上の秘密というところでご勘弁を願いたいと思うのですが、警察は、事件、事故、そして本人の意志による失踪、あらゆる可能性を考えて捜査をしているつもりです。一つ一つ事実を見つけていくうちに、少しずつ、事実でないことに関しては消えていく。それを目指すのが警察の地道な捜査というものだと私は思っています」
 と刑事は言った。
作品名:逆さ絵の真実 作家名:森本晃次