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逆さ絵の真実

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「だったら、この失踪事件も、その彼特有であるパフォーマンスとは考えられませんか? 失踪したことにして、後で平然と出てくるというやり方は、彼なら許されるとでも思っているんじゃありませんか? 注目を集めるためなら、なんだって利用するというのは、今の若者なんじゃないですかね? 有―ch-バーと呼ばれる連中にもそういうのが多いでしょう」
 というと、
「それも実は考えてみました。特に彼はどこかお騒がせなところのある芸能人ですからね。でも彼は芸能人であって、ユーチーバーではない。そこまで露骨なことはしないでしょう。下手にファンを舐めるようなことをして干されたり、まわりの芸能人も海千山千が多いので、あまり目立つと疎ましがられて潰される可能性がある。それを考えると、とても失踪などということを簡単にできることではありませんよ」
 と刑事は言った。
「それにしても、これによがしに部屋の机の上に置手紙するなんて。あくまでも誰かに見せるためですよね? しかも、警察の権力がなければ、いくらマネージャ―と言えども中には入れない。マネージャーが見るところであれば、楽屋だっていいわけじゃないですか。それなのに、自室のテーブルの上に置いておくなんて。あたかも捜索願を出すという前提のもとに計画されているわけですよね。これを彼のパフォーマンスと見るかどう見るか、マネージャーはどういっているんですか?」
 と準之助が訊くと。
「いやあ、マネージャーとしては、あの人のあの態度はパフォーマンスにしか過ぎないので、彼がやっていることは計算されたことであるから、ほとんどにおいて意味があると思ってもいいと言われるんですよ。だから、我々もその言葉を信じて捜査しているわけですが、最近の彼と深くかかわったと言えば、何と言っても直接対決したあなたしかいないじゃないですか。それを思うと。私どもとしても、あなたが何かを知っているような気がしてならないんですよ」
 というではないか。
 そんなのは警察の勝手な思い込みだが、それを面と向かって口にするのはよしにした。下手に言っても、言い訳にしか聞こえなければ、嫌疑が深まるのは間違いない。今のセリフにもあったように、深くかかわったのが自分しかいないということは、完全に何かを知っていると確信しているということである。要するに疑われているわけで、そんなことは簡単に承服できることではない。
――一体。どういうことなんだ――
 と、訳が分からないのはこっちだった。
「そういえば、一つですね。面白いことを他の人に訊いたんですけどね。彼は自分の取り巻きというか、マネージャーだったり、メイクさんだったりですね。そういう人たちは、いわゆるチャラいというんですか? そういう連中ばっかりだったらしいんです。本当にみていると、『お友達』にしか見えなかったといいますね」
 と言っていた。
 そういう連中をまわりに置いて、自分の自尊心をくすぐろうというわけか、もしそうであれば、何ともちっちゃな男だし、呆れてものが言えない類の人物だと言えるだろう。
だが、そんなやつが、急に父親の対戦相手を横取りしたり、しかも、それをパフォーマンスのような形に利用しようとしたり、負けたことで失踪するという、いかにもやりそうなことを次から次にするというのもおかしなものだ。まるで図ったようであり、そこに何らかの計算があるのではないかと思うのは準之助だけだろうか。
 しかも、作為がないように見えて、作為がなければ思いつかないようなこともしている。それも立て続けにしているので、却って怪しまれないのだが。それも計算ずくであったりすると、果たしてどういうことになるというのだろう。

                発見された死体

 だが、少なくともあの男は、競い合っている間は、真剣だったことは間違いない。そこまで否定してしまうと、同時に自分も否定することになる。それを思うと、準之助は考え込んでしまった。
 それに不思議なのは、このあざとい失踪事件である。
 一体何を考えて彼は失踪したというのだろう。考えられるのは自殺であるが、彼に自殺をする何かがあったとは思えない。
「刑事さん、彼には何か、自殺をするようなことがあったんですか?」
 と言われて、刑事は頭を傾げていた。
「彼は確か芸能人なんですよね? よくあるのが女性関係の縺れだったり、三角関係だったりが考えられるんですが。ちなみに、彼は独身だったんですか?」
 と訊かれた刑事は、
「ええ、独身ではあったみたいだけど、愛人と呼ばれる女は複数いたようです。週に何度も外泊していて、それがどうも曜日によって、違う女のところに通っているという感じのようですね」
 と言われ、訝しそうになった準之助だが、
「それで女の方はよかったんですかね?」
 というと、
「そりゃあ、よかったと思いますよ。週に一度相手をするだけで、お金は貰えるし、いずれは結婚できるかも知れないし、中には芸能界に口をきいてやると言われた女もいたくらいですね。もちろん、ウソだったようですが、遊び相手のオンナで、芸能界志望の人は、やつの口車に騙されて、プロデゥーサーなる男性のところに行って、『そのうちにデビューさせてやる』という甘い言葉にコロッと騙されて、売春をさせられた子もいるようです。でも、やつの付き合っている女たちは利用価値があるんでしょうね。そういう意味では、どっちもどっちというところでしょうか?」
 と訊かされて、ますます訝しい顔になった準之助だった。
「私はそういう世界にはまったく疎いので、よくは分かりませんが、少なくとも私と勝負している時の彼の顔は、なかなか精悍な表情だったと思います。ちゃんと芸術と向き合っていたとでもいうんでしょうか。そんなやつを、ちょっと見直した時間帯があったくらいです」
 というと、
「なるほど、じゃあ、相手と場所によってまったく違う顔を持っているのかも知れない。しかもカメレオンのようにその時々でしっかり姿や色を変える。保護色になってなれるというもので、ひょっとすると。やつが影から操っている目に見えていない犯罪も結構あるのかも知れないな」
 というような物騒な話をしていた。
 きっと、それだけのことをしかねない男だということが、ここ数日の捜査で分かってきたのだろう。
「でも、それだけ好き放題できるということは、誰かパトロンのような人がいるのかな? ただの芸能人なら、そんな好き勝手はできないでしょう。しかも、出る杭が打たれるのが、芸能界というところではないんでしょうか?」
 と訊くと、
「その通りです。我々もそのあたりを探っているところですよ」
「そういう意味で、もう一つ気になるウワサを聴いたんですが、彼のお兄さん、つまりあなたと最初に戦う予定になっていた人も、最近結構金回りがいいらしいんです。女遊びやギャンブルに嵌ったりをしているわけではないんですが。自分の家を改造して、自宅に研究室を作ったり、お金がかかる研究を独自に行ったりしていて、まわりからも、『どこから金が出ているんだろう?』といわれているそうなんです」
 と言っていた。
作品名:逆さ絵の真実 作家名:森本晃次