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逆さ絵の真実

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 と、相手を怒らせてハプニングを狙っていた芸能レポーターの予想を十分に裏切る回答をしたのだ。
――なんてやつだ――
 と、その場にいた人、そして、中継を見ていた人、そのほとんどがそう思ったに違いない。
 完全にその目は上から目線での笑顔だった。したり顔とも少し違うその表情は、きっと見ている人間、百人いたら、百人すべてに不快感を与えたに違いない。しかも、不快感だけではなく、怒りまで伴わせるので最悪だ。あたかも、怒らせるべくしての演出に思えてならないのであった。
 週刊誌などでは、彼のことを、
「時代の寵児」
 などと持ち上げているやつもいるが、一度その週刊誌の不買運動まで起こったほどの注目度だった。
「何が時代の寵児だ。ふざけるな」
 というのが大方の意見であったが、実はそれもやつの注目を集めるための作戦だった。
 次第に時代は、ユーチューバーなる人物が現れるようになる、中には真面目な情報発信者もいるのだろうが、時代が進むにつれ、
「迷惑ユーチューバー」
 であったり、
「お騒がせユーチューバー」
 などという連中が増えてきて、中には犯罪者であったり、犯罪ギリギリのところで収まっている連中が増えてきた時代だった。
 つまり、世間で叩かれることが、その人の負ではなくなってきたのだ。
 彼らは自分が配信したものを、どれだけの人が見たかで収入が決まる。つまり、アンチであろうが見てくれれば。それがそのままお金になるのだ。よくても悪くても、注目さえされれば、生活ができる。そんな理不尽な世の中になってしまったのだ。
 中には人が取材された人間がどうなろうが関係ないと言わんばかりの迷惑なやつもいて。叩かれることで収入を得ることを正義と考える勘違い野郎まで出てくると、もう収拾がつかなくなる。
 この羽村という男もその走りだったのだ。
 やつは、ユーチューバーというものにはなっていなかったが、明らかに注目を浴びるにはいいことであろうが悪いことであろうが関係ないというスタンスだ。ひょっとすると、今のユーチューバー問題は、間接的にこの男が主犯になるのかも知れないと考えている人も多いだろう。
 だが、昨今では、本当に迷惑ユーチューバーが注目を集めることが多くなり。羽村がいくら表に出ようとしても、後から後から出てくるそんな迷惑ユーチューバーのために自分が目立たなくなってしまった。
「これじゃあ、本末転倒ではないか」
 と思った彼は、自分が先駆者であることを思い出し、先駆者に対して、あるいは跡目争いに対して介入することで自分の注目を浴びようと考えるようになった。
 これが、いわゆる、今回の準之助と橋本教授の間に持ち上がった、
「逆さ絵選手権」
 とでも言おうか、その諍いにちょっかいを掛けることで、自分の注目度回復を狙おうと考えたのだ。
 さすがに迷惑ユーチューバーほどのインパクトはないが、ある筋での注目度はかなりのものである、そこから火がつく可能性と、自分の境遇の似ている感覚がある二人の戦いに打って出ることで、自分の今まで分からなかった実力の一端が分かるのではないかという思いもあってのことだった。
 運営員会への買収は簡単だった。それなりのお金での買収なので、彼らのように、絵画や芸術などウンザリと思っている連中であれば、少々の金でも動くことだろう。
 あとはマスコミだったが、マスコミはそうも簡単にいかない。そのため、以前から自分びいきの人間を一人作っておき、その男に金を渡して、何度か自分の悪の片棒を担がせて、逃げられなくしてあるので、そちらはうまくやるだろう。
「もう、お前は俺と共犯なんだ。一蓮托生なんだぜ」
 と囁くだけのことだった。
 何か大きなことをやるだけの下準備はいつもしていた。そうでなければ、こんなクーデター的なことを起こすなどできるはずもないからだ。
 クーデターとまでは大げさであるが、やろうとしていることは彼の中での、
「正義」
 であった。
 正義をまっとうするための危険な行動は、クーデターという言葉が一番ふさわしい。ただ、クーデターは成功してこそ正義である。
「勝てば官軍、負ければ賊軍」
 まさにその通りであろう。
「俺は官軍になるんだ」
 と、羽村は思っていた。
 出来レースではないかと思っていた選手権に、思わぬ闖入者が入ってきたことで、いささか橋本教授も戸惑っていたが、それと同時にけしかけたはずだったのに、その自分が一番最初に冷めてしまった。
――俺は一体何をしようとしていたんだ?
 と言わんばかりに独り言ちると、後は、
――あの二人に任せておいて、高みの見物とでもいくか――
 と思っていた。
 どうせ、自分のかわりに出てきたやつは、緒戦目立ちたがりの画家としては大したこともないやつ。そもそも、画家がダメなら、他にいくらでも道はあるとでも思っていたやつではないか、それを思うと、さっさと引き上げた方が身のためだと思ったのだ。
 主役が変わって、却って盛り上がっているようだ。挑戦を受けた方も、やめてもよかったのだろうが、ここでやめると世間が何をいうか分からないし、負けることもないと思うので、せっかくだから、胸を貸してやろうということになった。
 ただ、気になったのは、相手がマスコミに顔の利くやつで、ひょっとすると政財界にまで幅を利かせていると、こちらがヤバいかも知れない。
 だが、このままこちらが負けると世間が黙っていないだろう。それこそネットの威力で、のし上がってきた人間が、ネットで叩かれるということになりかねない。
 いや、叩かれることも計算済みなのだろうから、どっちに転んでもおいしいことに変わりはない、そんな根性のやつに負けるはずもないだろう。
 途中で相手が変わっただけで、あとは、何も変わっていない。主題は逆さ絵を描くということも変わっていない。
 その日になって、いつものように目を覚ました準之助は、半分、茶番劇だと思いながらも、
「まあ、ショーのようなものだ」
 と思って気楽に構えていた。
 実際に会場には、まるで討論会のような舞台が作られていたのだが、客席は無観客だった。それはネットでの配信だけで、そのネットも有料ということなので、どれだけの人間が見ているか分かったものではない。もっとも見ている人間は、ほとんどが羽村のファンであることはいうまでもない。
 それだけに、こっちは気楽なものだ、観客がいないことで緊張するなどという精神は持ち合わせていない。そもそも最初から茶番だと思っているので、問題なかった。
「時間としては、最初決まっていたのは、橋本先生が相手の時でしたが、今回はどうしましょう?」
 と司会の人が二人に訊ねた。
「そうですね。五時間もあれば、デッサンであれば、できると思います」
 と、羽村は言った。
「デッサンでいいのなら、私もそれでいいと思います」
 ということで、五時間勝負になった。
「こちらは、それで構いませんよ」
 というと、
「では、ということで、今から五時間、ご自由に作品を製作してください。拘束はありませんので、どこでされても構いません」
作品名:逆さ絵の真実 作家名:森本晃次