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奴隷とプライドの捻じれ

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「そうなんだよ。我々は、死亡推定時刻をごまかそうとするトリックを使う場合の犯人の目的を、自分のアリバイ作りにあるということを、ハッキリと自覚していますよね。そこが逆に盲点で、本当に曖昧にする理由が、凝り固まった頭ではなかなか行き着かないですよね。それは毛県が豊富なほどそういうトラップに陥りやすい。それも犯人の計画だったのかも知れません」
「なるほど、だけど、じゃあ誰が被害者を入れ替えたのかな?」
「ここまでの事実から一つ言えることは、ひょっとすると共犯者は女将で、女将は主犯から、邪魔になったから殺されたという話はなくなります。つまり、女将は可哀そうな被害者でしかないんです。そしてもう一つは、女将が犯行を目撃したというのもおかしなことになります。となると、女将は犯人にとって、計画した犯行の準備をしているところを見つけたということが有力ではないかと思うんですよね。もちろん、犯人の殺害目的はハッキリと分かっているわけではありませんが」
「じゃあ、犯人の目的は。佐山先生の殺害ということなんでしょうね?」
「ええ、そうだと思います」
「どこで一つ気になる事実として、今回この宿に偽名を使った一組の偽装夫婦が宿泊しています、自称、柏木と名乗る夫婦ですが、奥さんは本名そのもので、住所も男の住まいと、何か犯罪を犯すための偽名ではなかったので、偽名をしようちていたことに関しては、この際問題ではないと思われますが、夫役である本名を山内というこの男が、前日に露天風呂で、前の日に宿泊を終えて帰った鳳麗子という女性に出会っています。これは鳳麗子という名を相手は名乗ったことから、男はそう信じています、二人は小学生の時の同級生で、彼が翌日宿泊することを知って会いに来たと言っていますが、話そのものよりも会いに来たという方が、問題のようですね。で、彼女の正体は前日まで宿泊していた女流作家の坂東あいりだということですが。それもその時の話で聴いていたようです。その時彼がもう一度露天風呂に入ったのは、彼自身、胃下垂だということで、食事を済ませてからかなり経って、しゃっくりが出たり、苦しくなったりするということなので、それを補うために、風呂に一日に何度か入るくせがあったということ、それを麗子は知っていたんでしょうね。それで露天風呂に一人でいるところに入ってきたようです。他の宿泊客である老夫婦も、佐山先生も、ほとんど露手ブロには一日一度入るだけです。もし、もう一度風呂に入りたければ、部屋に備え付けの小さな露天風呂に入るでしょう。絶えず準備はできていますからね。だから、大きな露天風呂には誰もこないと麗子は分かっていたんでしょう。そこで彼女は彼に遭って、話をして、その後、バスで駅まで帰るのを彼に目撃させています」
「その山内という男はこの事件に何らかのかかわりがあるということかな?」
「アリバイという意味で利用したのだと思いますね。ただ重要なのはそこではなく、鳳麗子という女性が、どうして山内氏が胃下垂であるということを知っていて。そのために風呂に何度も入るということを知っていたかということです。しかも、彼はこじんまりとした風呂よりも大浴場を好むので、こういう大きな旅館では基本的にと点風呂にしか入らないという習性も分かっていた。そこで怪しいと思ったのが、女房役の由香という女性です。彼女は、かつて出版社でアシスタントのような仕事をしていたことがあった。その時に、佐山先生や、坂東あいりとも面識があったということで、少し調査してみると、どうやら佐山先生と深い仲だった時期があるとのこと。しかも、ある一部の人からは、今もまだ関係が続いているのではないかとも聞いているんです」
「それは何か怪しいですね」
「ええ、だから、柏木由香と犯人によって、山内は利用されたと考えたんです。だから、由香は一種の共犯者ではないかとですね。そうなると、この事件の動機は、男女間の愛情の縺れか、小説家による何か恨みのようなものがあって、そこに隠されているかというところ当たりではないかと思っています。佐山先生が殺され、坂東あいりが絡んでいるということになると、そう思うのが当然ですよ。でも、それをごまかすために、女将をわざと分かるところに死体を晒し、佐山先生を隠しておくという方法を取ったと思うんですよ。ひょっとすると、女将との恋愛がこじれて、佐山先生を女将が殺して逃げているんだというシナリオにしたかったのかも知れない。それで一度、あの場所に佐山先生の死体を隠しておいて、ほとぼりが冷めたら、どこかに埋めに行くつもりだったんでしょうね。それを逆に利用した人がいた。つまり、途中までは、犯人と共犯者がうまくいっていたけど、途中で、共犯者が裏切ったか何かなのではないかと思うんです。そこで、共犯者という意味で有力な証言が富田刑事からもたらされた。それが昨日の富田刑事が鳳麗子と、坂東あいりの所属する事務所に聞きこんできたことだったんですよ」
 というと、富田刑事はその話を引き取って。
「ええ、私は昨日鳳麗子に遭い、そして坂東あいりの事務所に行きました。そこで少し疑問を感じたので、鳳麗子が本当に坂東あいりかどうか聞いたんです。もちろん、殺人事件の捜査だからと釘を刺してですね。すると編集長がシブシブ教えてくれたのは、最初は確かに鳳麗子が坂東あいりとしてデビューをしたのだけども、鳳麗子が描けなくなった時期があって。ゴーストライターを雇った。その人が今は坂東あいりになってしまって、描けるようになった鳳麗子が戻ってくるところをなくした。しかも、ここからが一番隠しておきたい部分でもあったそうなんですが、どうやら鳳麗子は佐山先生とできていたらしいんです。ただ、その佐山先生がそのうちにゴーストライターに乗り換えた。これを鳳麗子はかなり恨んでいたということで、彼女は結構陰湿な性格だったようなので、却ってまわりには分からなかったんですが、そういう複雑なことになっていたらしいんです」
 というのが、富田刑事の話だった。
「じゃあ、佐山先生に一番殺害動機があるのは、鳳麗子ということになるんですか?」
 と本部長が訊くと、
「いや、一概にはそうも言えないんですよ。佐山というのは女性に見境がないようで、他のオンナにも手を出しているようで、その相手が由香ではないかという話でした。実際には由香は言い寄られて困っていたようです。そんなことがあり、麗子とあいりのゴーストライター、さらに由香の間で共通の仮想敵が出来上がったというわけです」
「じゃあ、この三人はグルということになるのかな?」
 と訊かれて、ここからはまた山田刑事の謎解きの時間に戻った。
「ええ、正確には、麗子とゴーストライターが共犯で、由香は教唆ということになるのかも知れないですね。つまり、死体を動かしたのは、由香だったんですからね」
 と言われて、
「あっ」
 とどこからか声が漏れた。