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奴隷とプライドの捻じれ

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 一体どのように事件を解釈し。解決の糸口をこれから組み立てていこうというのか、山田刑事の手腕が試されるというものだ。
 捜査本部で、山田刑事が事件の事故推理を語っていたその時、富田刑事が却ってきた。富田刑事は、事件関係者から再度の聞き取りを行っていたのだが、その中で仲居さんから興味ある話が訊けたと言って帰ってきた。
「興味ある話というのは、どういう話なんですか?」
 と山田刑事が訊ねると、
「実は、あれから仲居さんから話を訊いていたのですが、最初は皆が話しているのと同じようなことしか聴けなかったので、一種の人の話の裏付けにしかならなあったんですが、私が、事件の前日までは、結構宿泊客がいたという話をした時、急に何かを思い出したようにハッとしたんです。それで聞いてみたのですが、前日まで宿泊していて、最終日の昼過ぎにはチェックアウトを済ませて、帰っていった人が、翌日、露天風呂にいたという話だったんです。その人は、どうやら、宿泊客の中の柏木夫妻の旦那さんである、柏木徹さんと親しくお話をしていたということだったので、柏木さんのことを調べていると、どうやらあの夫妻、偽名を使っていたようなんです。ただ住所は、男の方の本当の住まいを記載していて、まったくの偽証というわけではなかったんですね。もっとも、名前を偽っているというのは、それだけでおかしいんですが……」
 と富田刑事は報告し、一旦口に水を含んだ。
「怪しいような気がするけど、この事件に、どこまで関係があるのか、疑問というところですか?」
 と山田刑事が訊くと、
「そういうことかも知れませんね。その柏木徹に訊いてみると、本名は、山内竜彦というのだそうです。ただ、女性の方は本名のようで、名前を柏木由香というのだそうです」
 というと、
「二人は不倫なのかい?」
 と訊かれ、
「不倫ではないようですね、お互いに独身で、ただ、これは山内本人から聞いたのですが、お互いにアブノーマルな性癖があるということでしたが、さすがに今の段階では、それ以上を聴くのは忍びなかったので、話題を変えましたが、二人は、ところどころ中途半端に名前を偽っているのは、何か悪いことをしているからというよりも、ここにいる間は自分でいたくないという思いがあったからのようですね」
 と富田刑事は言った。
「昨夜の露天風呂では、どんな感じだったんですか?」
 と山田刑事が訊くと、
「ええ、露天風呂に二度目に入った時のことのようです。山内は、由香という彼女にも誘いをかけたのだそうですが、由香は一人で部屋にいるから、露天風呂に言っておいでと言って、送り出してくれたと言います。その露天風呂の中で、山内が出会ったのが、小学生の頃の知り合いであった、鳳麗子だというのです」
「鳳麗子?」
「はい、今は恋愛小説家として有名な。坂東あいりだというんです。風呂で昔の懐かしい話をしていると、のぼせるのを忘れて話をしていたというので、結構長く風呂で話をしていたということでした。その時、麗子が昨日まで宿泊していて、今日自分が泊まるということをどこからか聞きつけて、それで話に来てくれたんだと言ったそうです:
 と富田刑事がいうと、
「何となく都合がよすぎる気がするな」
 と山田刑事がいうと、
「それも話したんですが、山内は怪訝な顔をして、それ以上でもそれ以下でもないと言っていました。山内が事件に関係がないのであれば、山内の言い分は分かる気がしますね」
 と富田刑事は答えた。
「とりあえず、私は明日、その鳳麗子を当たってみることにしますね」
 と言った。
「ところで、その山内という男は怪しいという感じはないのかい?」
 と山田刑事が訊くと、
「彼は偽名を使ってはいますが、あの温泉についてからの行動に怪しい点はありませんね。ただ、それは彼の証言がすべて裏付けられての話ですけどね。そういう意味でも鳳麗子に遭ってみる必要はあると思っています。宿帳の住所は控えているので、明日にでも行ってこようと思っています」
「住まいは遠いのかね?」
「いいえ、同じ県内に在住のようです。宿帳を見る限りですね。ただ、電話で連絡だけはついたので、アポイントはつけてきました。明日の昼頃に、会う約束をしています」
「ところで興味深い話というのは?」
「その山内の証言なのですが、彼はどうも胃下垂らしくて、不規則な時間にお腹が減ったりするそうなんです。それで深夜の一時頃に、お腹がカップ麺を食べようと、ロビーに飼いに行った時、玄関の方に向かって歩いている殺された佐山先生を見かけたというんですね」
 という。
「ということは、佐山先生は少なくとも、午前一時頃までは生きていたということになるんですね?」
「ええ、そういうことです」
 この証言は、ある意味興味はあったが、分かったのは、女将が殺害されたのは、それ以降ということになる。ただ、これは山田刑事の捜査を裏付けるだけで、何かの新しい発見ではない。それでも何か興味を感じるのは、この時間をこれでもかと考えさせるところに何かがあると言えるのではないかということだった。
 その日の捜査会議が終わり、翌日富田刑事は、さっそく、アポイントを取っていた鳳麗子に会いに出かけた。
 富田刑事は、実は彼女のもう一つの姿である作家の坂東あいりの作品が好きで読んでいた。まわりには、恋愛小説が好きだというのも恥ずかしく誰にも言っていなかった。富田刑事は、普段から自分が軟弱な男だと思われたくないという思いから、結構まわりに自分の姿を隠すところがあった。その影響か、恋愛小説を読んでいることを誰にも話していなかった。
 特に刑事になってからは、その傾向が大きく、どこか謎めいた雰囲気と、人に馴染もうとしない協調性のなさから、彼に対してのイメージは賛否両論があったのだ。
 富田刑事が知っている坂東あいりという作家は、普段から謎めいている作家であった。決して顔出しもせず、どんな女性なのか、誰もが知らないその存在は、編集者の人でも彼女のことを知っているのは、担当と役職クラスの人だけで、編集社に顔を出すこともなく、そのほとんどが表で会っていた。家に招くこともほとんどないという徹底ぶりだった。
「秘密主義の方が好きなのよ」
 と言っていたが、それで彼女に何のメリットがあるのか分からなかったが、作家というのは大なり小なり変わった人が多いので、彼女もその範囲内だと思われていたのだ。
 鳳麗子を訪れた富田刑事は、山内の話と、彼女を見たという仲居の話をすると、
「ええ、山内さんに逢いに行ったのは事実です。ただ、それは懐かしさと、自分の仕事のために遭ってみたかったからの行動なんです」
「お仕事というのは?」
「私は、作家をやっているんですが、そのネタを考えあぐねているところに昔懐かしい人の話を訊いたので、会ってみたくなったんです。話をしているうちに昔の気持ちがよみがえってくるから、それを確かめに行ったんですよ:
 と言った、
 彼女の話はそれ以上でもそれ以下でもなく、しかも、
「私忙しいのであまり時間がないんです」
 と言って、旅行カバンを手に持って、どこかに出かける様子だった。
「どこかにお出かけで?」