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奴隷とプライドの捻じれ

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「SMプレイや異常性癖にしても、似たようなことがいえるんじゃないだろうか。まわりからは汚いものを見られる目で見られたり、問答無用で否定されたりするものだけど、同性愛に関しては、性同一障害のような一種の病気の人もいるくらいなので、一口に否定するというのはどうなのかと思うのよ。ほとんどの人は、SかMの人だという人がいるようなんだけど、私ははそうなんじゃないかって思うな。例えば、欲というものがあるじゃないですか。いろいろな欲というものがあって、必要な欲もあれば、なくてはならない欲も7ある。食欲、睡眠欲、性欲などのように、生きていくには必要不可欠なものもあるでしょう? 生きていくうえで必ず必要とはいえないけど、征服欲であったり、出世欲などは、これも生活には必要なものよね。それが性格を形成するのだから。当然だと思うんだけどね。それと同じで、SMプレイや異常性癖などは、この生活に不可欠なものだと思うの。それをまわりが勝手な解釈で、倫理などという言葉を持ち出して否定しようとするのだから、病気になったり、肩身の狭い思いをしたりと、誰もが持っているかも知れないものを否定するということは、自分で自分の首を絞めることになる。それと同時に、自分が異常性癖だということに気づいて苦しむというのは、自分がこの間まで、そういうものを否定していたという証拠なのかも知れないわね。自分で否定していたものを、自分が有しているからと言って、手のひらを返したように認めてしまうことは、自分の中の倫理に反するという思いよね。これがいわゆるジレンマとなって自分を苦しめる。自分で自分の首を絞めることになってしまうんでしょうね」
 と由香はいった。
 まさにその通りだと、山内は感じた。それはまるで、ヘビが自分の尻尾に噛みついて。尻尾から飲み込んでいくかのような感覚である。
――最後にはどうなるんだろう?
 と感じた。
 死歩のあたりを飲み込むくらいは大丈夫だとしても、
「人間でいえば、首くらいまで飲み込んでしまったら?」
 と考えるのだ。
 異次元的な捻じれはこの際気にしないとして、自分の頭を飲み込もうとしても、そこには、飲み込まれる自分の頭が迫っている。まるで、メビウスの輪のようなものではないか。
 つまりは、不可能なことは、結局メビウスの輪のような、異次元の発想に集約されてくるのだ。逆にいえば、ヘビが自分を飲み込む時、異次元的な捻じれを考えずに策に進もうとしても、結局は異次元の捻じれの発想に繋がるメビウスの輪に行き着いてしまうのだ。
「どこを切っても金太郎」
 と言われる、金太郎飴のようではないか。
 不可能なことはいくら、少し強引に捻くって考えたとしても、行き着くところは同じなのだ。それを、
「人間の限界」
 と捉えるか。
 それとも、
「踏み込んではいけない結界が存在している」
 と捉えるかの問題ではないだろうか。
「僕の胃下垂の問題も、奴隷のような感覚も、どこかで繋がっているような気がするんだ。世の中。どんなに捻じれたとしても、結局同じところに繋がってくるというのは、メビウスの輪でも証明されているではないか」
 と、山内は言ったが、それを聞いて、
――この人は私と同じような考え方をしているに違いない――
 と思った。
 いや、ひいては、数が少ないだけで、同じような考え方の人は結構いて、皆世間体やまわりの人にこんな考え方を知られたくないという思いを抱いているのかも知れないと感じていた。
「ねえ、今度、温泉に行ってみない?」
 と言い出したのは、由香の方だった。
 そういえば、これまで付き合い始めてから、一緒にどこかに出かけたということはなかった。山内の方で。
――僕は由香に拾ってもらった奴隷であり、彼女には恋愛感情を抱いてはいけないんだ――
 と思っていたからだった。
 だが、恋愛感情を抱いてはいえないと、誰が決めたというのだろう? 由香の方では、山内を奴隷のように飼っているという思いではいるが、それはあくまでも、山内の自尊心というべきか、本性を生かすためであった。本当の由香は。
「男性には委ねたい」
 と思っていたのだ。
 それでも山内を奴隷として扱うのは、
「これが自分たちにとって自然な姿だ」
 と思えるからであって、由香にとって山内がどういう存在なのか、山内は知る由もなかったことだろう。
 二人の間で、そういう関係が同居できると思っている由香と、できないと思う山内と、二人の違いはそこだけだった。逆にいうと、その思いがあるから、二人の間で均衡が保てているのであって、どこまでこの関係が保てるか、それを試したいという思いがあっての、由香が計画した温泉旅行だったのだ。
 麗子との話を思い出そうとしたが、なぜか思い出すことができない。元々、由香とこの旅館に来たのは、由香が連れてきてくれたのだ。
――それをどうして麗子は知っていたのだろう?
 という疑問が頭に浮かんだ。
 麗子は、自分を追いかけてきたようなことを言っていた。何が目的なのか分からないが、麗子にもどこか異常性癖のようなものがあったような気がしたが、自分と同じ感覚であることを思い出して、小説に書こうとでも思ったのだろうか?
 それにしても、麗子はどこに行ってしまったのだろう? 昨日で帰ったということだが、一度帰ったふりをして、再度戻ってきたかのような面倒臭いことをなぜしたのか、それを考えると、今由香のことを考えた時、
――由香と鉢合わせるのを警戒したのだろうか?
 と思った。
 由香と麗子の関係というよりも、二人を並べて想像することができなかった。なぜなら、麗子を知っているとすれば、それは子供の頃の麗子であり、昨日話をしたと言っても、今から思えばまるで夢を見ていたかのような感覚であり、あっという間の出来事だったような気がして仕方がなかった。
 麗子のことは、意識の中でずっと残っていたのは覚えているが、自分が奴隷だということを女性では彼女だけが知っていたのではないかと思っていた。だから、子供の頃が顔を合わせるのが恥ずかしかったし、お互いに遠慮があったような気がする。
 だが、山内は、麗子が小説家としての坂東あいりの作品は読んだことがあった。読みながら、ところどころ、
「これは読むに堪えない」
 と思う部分があったのも事実で、そんなところは読み飛ばしていたものだった。
 由香も坂東あいりの作品は好きらしく、彼女と坂東あいりの作品の話をした時、時々、まったく違った発想を持っていたことを気にしていた。
――由香とは、感じ方が違うのかな?
 由香がSであり、自分がMであることで、正反対の意見になると思っていたが、どうも違うような気がしていた。
 由香の方が正論を言っているように見えて、それがMというアブノーマルな人間には、自分もSであるくせに、正論をいう由香が許せない気分になっていたのかも知れない。
 今から思えば、山内が見るに堪えない部分を読み飛ばしたために、肝心なところを見逃したことで、正反対の意見になったのだろう。逆にいえば、それほど坂東あいりの作品には、二人の核心を突くような話が組み込まれていて、それを理解できなかったことで、正反対な意見になるのだと感じたのではないだろうか。