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奴隷とプライドの捻じれ

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「ああ、そうだね、お腹が減ったと思って油断して食べると、その時はいくらでも行けると思って食べるんだけど、そこから数時間もすると、胃がもたれてくるようで、しゃっくりが出始めて、結構苦しいんだ。しゃっくりが出始めて、半日近くも止まらずに苦しいなんてこと、結構あるんだよ。でも、それを抜けるとまたお腹が減ってくるんだけどね。それはその前に食事をしてから、十二時間以上経っていることになるんだ。だから、僕は朝食は食べれないので、早い昼食を摂ると、その後はもう夜中にならないと食べれないということが多いんだ。だから、寝る前に食べることになるので、本当はいい食生活だとは言えないんだろうけど、これはしょうがないと思うんだ」
 と話した。
 それを聞いた麗子は、
「それって胃下垂ということなのかしらね? 病気には違いないんだけど、これと言って治療をしなければいけないというほどのこともないので、結構皆さん、放っておく人が多いんじゃないかしらね?」
 と麗子は言ったが。
「確かにそうなんだろうけどね。でも、食生活という意味ではあまりいい傾向ではないし、本当は治療をちゃんと受けるべきなんだろうと思うんだけど、気持ちはあっても、なかなか行動に起こせないところが僕の悪いところなんだろうね」
 と話した。
「じゃあ、今はどんな食生活になっているの?」
 と訊かれて、少し答えにくいとも思ったが、
「お腹が減った時に、食べたいものを食べるという感じかな? どうしても後で苦しむのは嫌なので、胃がもたれるようなものはあまり食べないようにと思っているだけど、やっぱり空腹には耐えられないので、食べたいものを食べてしまう。ただし、腹八分目よりも少ない状態でやめるようにしているんだよ。意外とこの方が僕に合っていると思っているんだ」
 と、昨日の山内は答えた。
 その話を、麗子は結構興味を持って聞いてくれていたようだ。麗子が、山内のことが好きで、自分の身体を気遣ってくれているのだと思うと、山内は嬉しくなっていた。
 山内は、自分が恋愛対象として考える相手を、自分の趣味趣向である。嗜好としての、「SMプレイ」、いや、いわゆる、
「奴隷としての立場」
 を考えてみると、何か、身体がむずがゆく感じられた。
 今までにはない感覚で、新しい快感にも思えたが。山内の中では、
「これも、奴隷としての感覚の延長に過ぎないんだ」
 という思いにしかなっていなかった。
 山内は奴隷としての感覚に限界のようなものを感じていて、それを分かってくれている人間との間の、結界のようなものだと感じるようになっていたのだ。
 山内は、以前やっていた仕事では、不規則勤務を余儀なくされていた時があった。胃下垂が顕著になってきたのもその時で、今までの規則的な生活から、不規則勤務に移行した時はさすがにきつかった。
 何がきついと言って。
「不規則とはいえ、同じペースの勤務が一週間は続いていたので、問題は切り替わりのタイミングだと思っていたのだが、実際にやってみると、それ以前に大きな問題があったんですよ」
 と、腹側勤務がなくなってから、以前のことを思い出した時、由香に話をしたことがあった。
「どういうこと?」
「それまでは、規則的な生活が絶対に正しいと思っていたわけじゃないですか。だから、勤務が変わっても、変わったなりに、規則的に寝る時間や諸記事を摂る時間を決めてやれば、できると思っていたんですよね。でも、実際にやってみると、思うようにできない。なぜかというと、不規則なりの自分で決めたリズムを守っていて、一度そのリズムが崩れた時、どうするかというと、必死に自分の決めたリズムを守ろうとしてしまうんですよ。それがストレスになってしまい、例えば睡眠時間を七時間と決めていた時、一時間くら寝て、目が覚めたとすると、そこから眠れないことがあるんですよね。なぜなら、『寝ないといけない』という思いがあるんですよ。起きるまでにあと何時間あるからという逆算をするんですよ。そうなると、気が立ってしまって、眠れたかも知れないものが眠れなくなる、気が付けば、一時間、二時間と、寝ないといけないという思いだけでいたずらに時間が過ぎていくんですよ。そうなると、残りの時間しか頭にはなくて、もう残り香に時間くらいになると、このまま起きていた方がいいということになる。結局ストレスを抱えたままで眠れずに、中途半端で仕事に行かなければいけない。そうなると、まず精神的に溜まったストレスを解消することができず、頭痛に繋がったりすることになりますよね」
 と言った。
 すると、彼女は、
「それはそうよ。寝なければいけないというプレッシャーは、裏を返せば、寝ようと思えば寝られるんだという思いに繋がると思うんですよね。それでも眠れないということは、その時だけでなく、今後同じことが起こった時、まったく同じことを繰り返してしまうということを意味している。だったら、どうするかということなんでしょう?」
 と、由香は言ったが、
――どうやら、由香は分かってくれているようだな――
 と感じた。
「そうなんだよ。つまりは、眠れないものを無理に寝ようとするからダメなだけで、眠たくなったら寝るという方が気も楽だし、起きていてテレビでも見ていれば、そのうちに眠くなるかも知れない。それは六時間眠れるはずのものが、四時間でも、何とかなるというもので、強引に寝ようとしてしまうと、最後は二時間しかなくなって、このまま起きていても一緒という風に、毎回同じことになる。何よりも、それがトラウマになって、眠っている時に目を覚ましてしまうと、二度と眠りにつくことはできないという思いに駆られてしまうのではないかと思ったんだよ」
 と、山内は言った。
「要するに、普段であれば、規則正しい生活が正解なんだろうけど、それが崩れてしまった時は、いかに臨機応変に対応できるかということが問題になるということですよね。私も似たような経験があるわ。そういう意味でストレスを感じるくらいなら、規則正しい生活というのは、その人にとっては逆効果になるということよね。皆すべてに当て嵌まることなんて、しょせんこの世には存在しないものなのよ」
 と、由香は言った。
「だから、僕の胃下垂も同じようなもので、気を付けておかないと、しゃっくりが止まらなくなった時の苦しみは結構なものだからね。最初に食べた時、原八分目くらいでも、四、五時間立ってしまうと、胃が苦しくなって、しゃっくりが止まらなくなることもある。想定できないんだよ。今では少しは分かるようになったけど、それでも気をつけているからで、それとストレスを感じないようにすること、それが大切なのかも知れないと思うんだ」
 と、山内は言った。